ニュース

レオパの不良アパート、病巣は会社のガバナンスだけではない

2019/12/27
レオパの不良アパート、病巣は会社のガバナンスだけではない

アパート建築大手・レオパレス21が建築基準法に抵触するアパートを施工していた問題で、弁護士による第三者調査委員会は5月29日、原因や再発防止策などをまとめた最終報告書を公表した。

レオパレスは、火災の延焼を防ぐ小屋裏・天井裏の仕切り壁を設置していない問題が発覚し、その他、居室間の仕切り壁に遮音性の低い部材が使われるなど、19年4月末時点の不良アパートは延べ1万5000棟にまで拡大した。

■昨年明るみになったレオパレス21の不良建築の概要

箇所
状態
問題
小屋裏・天井裏の界壁未施工と不備防火性・遮音性の低下
小屋裏・天井裏一部に隙間・穴防火性・遮音性の低下
居室間の界壁異なる仕様と部材遮音性の低下
外壁異なる仕様と部材
防火性の低下

一連の施工不良について、最終報告書では問題の原因や背景を「法令軽視の企業風土」「施工管理・工事監理体制の不備」と指摘。特に仕切り壁の未設置については自治体に虚偽申請し、確認済証を「だまし取った」としている。

この問題で、創業者一族の深山英世社長と忠広副社長を含む7人の取締役が引責辞任し、同社は事態の収束を図る構えをみせている。だが建築業界に詳しい関係者は、「経営陣の刷新やガバナンスの強化だけで、“不良アパート”問題は根絶できない」と指摘する。

■レオパレス21の建築違反の根拠と原因

箇所と違反内容違反の根拠違反の原因
小屋裏・天井裏の界壁(未施工・不備)図面の不整合

法令軽視の風土

小屋裏・天井(一部に隙間・穴)
図面の不整合
現場の図面に誤解を生む表現
居室間の界壁(異なる仕様と部材)
図面の不整合

元・社長の指示

外壁(異なる仕様と部材)
図面の不整合
元・社長の指示

では、不良建築を引き起こす病巣はどこにあるのか。それを紐解くカギは、皮肉なことに10年以上前に世間を震撼させた耐震偽装マンション事件にあった。

「姉歯事件」を覚えている読者も多いだろう。05年に明るみになったこの事件は、姉歯秀次・一級建築士(当時)が構造計算書を偽造したことに端を発し、耐震強度が不足する物件の建築が放置されてきた事態が明るみになった。

この事件では姉歯・元一級建築士個人の犯罪とされたが、構造計算書(構造物の自らの重さや地震や風などによって力が加わった場合の応力や変形などを計算した書類)の偽装を見抜けなかった行政や、指定確認検査機関と呼ばれる民間検査機関に落ち度があったとして、07年6月に建築基準法が改正された。それによって建築確認・検査の厳格化、民間検査機関に対する指導が強化された。また3階以上の共同住宅には中間検査が義務付けられた。

だが住民に不安といらだちをもたらす不良建築は止むことがなかった。15年10月、三井不動産レジデンシャルが販売した「パークシティLaLa」(横浜市)で、マンションの傾きが発覚したのは記憶に新しい。同マンションを支える基礎杭が、マンションを支える固い地盤に達していない杭が6本あり、これが原因でマンションが傾いた。

この事件の原因も「データの改ざん」。地中の支持層までしっかり杭が届いているかどうかを確認する電流計などのデータを取得できず、異なるデータを流用して取り繕ったことなどが発端となった。この事件でも、杭データを偽装してもそのまま工事を進められる実態が放置されてきたことが明らかになった。

そしてレオパレス事件が起き、さらに今年4月には大和ハウス工業のアパートでも建築不適合の物件があることが表面化した。約2000棟のアパートで、自治体から認定された設計書と違う「柱」や「基礎」が使われていたのだ。

レオパレス事件の影に隠れて、あまり話題になっていないが、大和ハウスの場合は、今年に限らず14年12月、15年10月、16年10月の3度にわたり不適合が指摘され、レオパレスと同様、それが日常化している様相をうかがわせる。

不良建築が止まない理由はどこにあるのか。アパート建築に絞って解明していこう。

抜け道だらけの建物検査

「アパート建築では審査の大部分が簡略化される。不正見逃しの余地が、あまりに大きい」

こう指摘するのは、一級建築士のM氏(60)。東京都杉並区に一級建築士事務所を構えている。約25年にわたりアパート専門に設計を手掛けているベテランの建築士だ。

姉歯事件を受けて、一定の条件に当てはまる物件では、構造計算書の適合性判定など審査が厳格化された。通常の検査は原則、

  • 着工前に行う建築確認、
  • 施工中に行う中間検査、
  • 施工後、所有者への引き渡し前に行う完了検査

――の3つに分かれる。

だが、姉歯事件後でも、アパートの建築では通常検査を簡略化できる“抜け道”が2つ残されていた。理由は、煩雑な手続きを省略することで、住宅の大量供給を可能にするためだ。

簡略検査の1つが「4号特例」というもので、もう1つは「型式適合認定」だ。両者には細かい違いはあるものの、大きな共通点がある。それが、着工前の書類審査(建築確認)を通過した後、「(業者が)約束とは違う施工をしても、行政が見抜けない仕組みになっている」(一級建築士のM氏)ということだ。

■建築手続きの概要と不正のタイミング

では2つの“抜け道”とはどのようなものか。その内容を掴むためにまず通常手続きについて説明しよう。上に示したように検査は①着工前の「建築確認」、②施工中の「中間検査」、③施工後の「完了検査」――の3つに分かれる。

建築確認とは、設計図などの書類審査で具体的には、建設メーカーが地方自治体や指定検査機関に提出した設計図書と呼ぶ書類を基に、建築基準を満たしているかを検査する。項目は、構造部材、耐火構造のほか火災時の避難経路を確保しているか、容積率・斜線制限を満たしているかなど、大きく8つある。

建築確認が下り着工すると、次にあるのが施工中に行われる「中間検査」だ。「建築確認」で提出した書類通りに建築がなされているかを確認する。ただし、この段階で目視できるのは、一部の工程のみで、雨水の排水溝や盛土、敷地と道路の接道といった敷地にかかわる部分や、建物の垂直・水平にかかる力にどれだけ耐えられるかを見る構造耐力にかかわる部分、防火非難経路の有無にかかわる部分などに限られる。

そして最後に行うのが施工後に行う「完了検査」。ここでは建物が書類通りに建築されたか現場検査する。審査が通れば、特定行政庁はメーカー側に「確認済証」「検査済証」を交付する。このように、通常の検査は、書類と現場確認の2つによって「手抜き」や「違反」を防止しようとしている。

「4号特例」と「型式適合認定」で検査すり抜け

ここから先に挙げた2つの“抜け道”について見ていく。最初の「4号特例」とは、建築基準法の6条1項4号で規定する建築物、業界用語で「4号建築物」については、着工前の建築確認審査を省略できる。

4号建築物とは、2階建て以下で、延べ面積は500㎡以下、高さが13m以下で軒の高さは9m以下の木造建物。耐震性などの構造耐力が一定の基準を満たすことを条件にしていることで、4号建築物は構造計算が義務付けられていない。さらに「4号建築物」で建築士が設計した場合は、建築確認で免除された検査が中間検査と完了検査でも免除される。

あえて言えば4号特例は、建築士が建物の構造を適法に設計し、そして建築現場では設計図通りに建築することを前提に、構造に関わる検査の省略を認める制度で、“建築士丸投げ”といえるような仕組みだ。

4号特例は姉歯事件後も特例措置の延期という形で温存された。しかし、国交省は延期の廃止を検討しているといわれている。東日本大震災や熊本地震で2000年基準と呼ばれる震度6強から7の地震でも倒壊しない1981年基準をさらにグレードアップした耐震基準の建物が大きな被害を受け、その一因に4号特例による手抜きがあるとされているためだ。だが4号特例の延期措置の廃止が進まない中で、今回の不良アパート問題が起きた。

そして4号特例以上に簡略化できる特例が、「型式適合認定」だ。大手住宅メーカーが提供する「○☓シリーズ」といったアパート商品を大量供給しやすくするために設けられた措置で、建築に使う材料や壁や柱などの主要構造部や空調や給排水、電気やガス、照明といった建築設備が建築基準法や関係法規に適合するという認定を受けること。3カ月から半年をかけて「構造耐力」「防火避難」などが一連の規定に適合すること検査を受ける。

一度認定を受ければ、通常手続きで必要な建物ごとの検査を省略できる。つまり、通常ならA県B市とC県D市で建物を建てる際に、2つの建物は個別に建築確認、中間検査、完了検査を受ける必要がある、型式適合認定を受ければB市とD市のそれぞれで通常の検査を受けることを大幅に省略できるのだ。

しかも、4号特例は2階以下の木造建物に限られていたが、型式適合認定では木造や鉄骨や鉄筋など様々な構造の建物に適用できるので簡略化の対象建物が大幅に広がる。さらに型式適合認定には4号特例以上に建築士丸投げの要素がある。

メーカー側の建築士が「型式部材等製造者認証」を取得すれば、型式適合認定で認められた部分の審査をメーカーが抱える建築士の責任で行うことが可能になる。第三者の目で行うべき検査が、検査を受ける当事者が自ら検査官になって審査することになり、身内に甘い審査になってしまう危険性を併せ持つ。

今回のレオパレスの物件は、大半が「4号特例」か「型式適合認定」に則った建築手続きを踏んだもの。ただし内訳については、非公開としている。いずれの場合でも、違反は「図面の不整合」(レオパレスの第三者調査委員会)、つまり本来使う設計図とは別の設計図を使って、建築していたことだ。

「変更申請をしなかったのは、おそらく建築コストを下げるために上層部から指示があったり、施主(オーナー)への忖度だったりなどが考えられる」と先のM氏は言う。最終報告書では「確認申請図を更新しないで放置することもあった」と指摘する。その理由に「元・社長の指示による組織的隠ぺいの疑いが強い」と挙げている。

■レオパレス21のウエブサイト画面

焦点はこうした組織的隠蔽をガバナンスの強化だけで完全に払拭できるかだ。姉歯事件や様々な不良建築が横行している状況では、当事者の意識改革だけに頼るのは困難といえるだろう。

検査の簡略化や民間の建築士に審査の一部を委ねる規制緩和は1998年の建築基準法改正で始まった。同改正は95年の阪神・淡路大震災で施工不備が原因と考えられる建物の被害が多く見られた反省を踏まえ、中間検査制度を導入、従来は行政が担っていた建築検査を民間に開放し、検査体制を拡充した。

しかし、冒頭でも触れたように、指定確認検査機関は、姉歯事件でも問題になったように検査体制に甘さがあり、姉歯事件後に国交省による検査機関の指導強化や建築士等に対する罰則強化がされた。また設計図の変更があった場合に、再申請を求めることにした。さらに3階以上の共同住宅は中間検査制度が義務付けられた。

それでも施工不良は起きた。ではどうすればいいのか。1つは簡略化による抜け道を防ぐこと。さらに検査内容の見直しだ。レオパレスの界壁未施工に見られる防火性を守るセーフティネットは、「中間検査」にも「完了検査」にも存在しない。いくら検査を強化しても、検査項目がザルならば、検査自体に意味がなくなる。

次回はその辺の事情を解説する。

(構成/真弓重孝=みんかぶ編集部)

千住さとし

不動産ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。

関連コラム