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レオパレス事件、不良建築から不動産投資家を守る「監理」とは

2020/01/21
レオパレス事件、不良建築から不動産投資家を守る「監理」とは

「とにかく不安で、不安で、たまらなかった」

レオパレス21の木造アパートを2棟所有する神奈川県在住のAさん(60)は、この半年間を振り返る。

Aさんは、2018年に明るみになったレオパレスの「天井裏・小屋根裏の界壁」不設置問題で、被害を受けた当事者の一人。延焼防止用に小屋裏につける界壁が、保有する2棟そろって未設置だったことが今年2月に判明した。

迅速な改修を要請したが、担当者は「連絡するので待ってください」とした後に音沙汰なし。それからAさんは3月そして4月と、毎月のように電話を掛けても男性社員の応答は変わらぬまま。

業を煮やしたAさんは、男性社員を呼び出し、「一体いつまで待たせるんだ」と怒りを爆発させた。結局、工事の話し合いが始まったのは、発覚から5カ月後の先月6月のことだった。

注:写真はイメージ

不良発覚による賃料減額は何%?

Aさんが焦る理由は、いつ起きるか分からない火災のリスクにアパート経営者として責任を感じていたからだ。所有する物件の問題で、火災の被害が入居者の身に及べば賠償問題に発展する。

延焼を防ぐ界壁がない状態で火事が起きれば、燃焼によって発生した煙が秒速5〜8mのスピードで他の部屋に襲ってくる。その速さは人が歩くより少し遅い程度とはいえ、煙が部屋に蔓延すれば、入居者は呼吸が困難になり、逃げ遅れる危険性が高まる。

中古物件の投資がメーンの不動産投資家には、今回の新築アパートの不良施工問題は無縁と考えがちかもしれない。だが、仮に好条件の遊休地が手に入った場合、新築アパートを建てることもあり得る。そのアパートが後から欠陥住宅と分かれば、賃料や売却価格の下落に見舞われる可能性がある(下の図)。

■賃料が減額される理由

状況額割
トイレが使えない30%
風呂が使えない10%
水が出ない30%
エアコンが作動しない5000円
電気が使えない10%
テレビ等の通信設備が使えない10%
ガスが使えない10%
雨漏りによる利用制限5〜50%

出所:「賃料減額と免責日数の目安」(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)
注:月額賃料から減額

レオパレスに関係なくとも、不良建築は投資家にとって資産価値を減少させる“敵”であり、見て見ぬフリはできないはずだ。

現場で不良施工を監視するサラカン

投資家は、不良建築リスクにどう向き合えばいいのか。

行政や指定確認検査機関に申請した設計図とは異なる施工をする手抜き工事は、中間検査に不備があるために現状では根絶が難しいことは前回の記事で伝えた通り。ならば自分の手でリスクを払拭するしかない。今回は、その方策に触れる。

その策とは、工事監理の徹底だ。工事監理とは、設計図通りの施工が行われているかを確認する監督業務の1つ。マネジメントを意味する「管理」と区別し、業界では“サラカン”と呼ばれる。その担当者を「工事監理者」という。

設計図に準拠しているかを確認する監理が、なぜ不良施工を防ぐのか。建物を建築する場合、通常は建築前に設計図を自治体もしくは指定確認検査機関に提出し、耐震や耐火性など様々な点で法令に遵守しているかのチェックを受ける。

彼らの検査を通って墨付きを得た図面通りに施工されれば、通常は施工不良が起きないはずだ。その点で監理は安全・安心な建物を造る生命線と言える。実際、保育所や図書館などの自治体が発注する公共施設の建築現場では監理を徹底することで、欠陥も少なくなっている。

やや古いデータだが、宮城県建設業協会が2005~06年に実施した瑕疵の実態調査では、調査から5年前まで県内公共工事で見つかった瑕疵は26件と、全体の工事件数の0.062%にとどまる。しかも、26件のうち建築工事での瑕疵は12件なので、建築工事での瑕疵発生率はさらに低下する。

その反対が、レオパレス施工の民間共同住宅。今回明るみになった不良建築のうち、およそ2万棟のアパートが「図面の不一致」によるもので、監理が徹底していれば、防げる内容だった。

業界の構造は、施工に比べ、監理の立場が弱くなりがち

不動産投資家が新築の施工不良物件を掴まないためには、着工前に監理が機能する体制を作ることが欠かせない。では監理機能を正常に働かせるためには、どのようしたらいいのか。

ここで頭に入れておきたいことが、2つある。

1つは建築現場には ①設計、②施工、③監理――の大きく3つの分野の関係者がいること。

もう1つは、本来、上の3者がそれぞれ独立した主体で利益相反が起こらないのが理想だが、現実は建設会社やそのグループ会社、つまり身内の中で役割分担している例が多いことだ。

「大方の場合、設計者が監理を兼務していて、中堅以上のメーカーでは設計と施工の2つの部門を抱えているのがほとんど」。こう指摘するのは、東京都杉並区に事務所を置く一級建築士のM氏だ。

仮に身内で設計、施工、監理を行うにしても、各部門の関係が対等なら弊害が出る可能性は低まる。だが実際は、監理は施工より弱い立場にある。理由は、「施工部門の売り上げ比率が、監理を兼ねる設計部門よりも高いこと」(M氏)。

その比率は9:1と施工部門の売り上げが圧倒的に高い。こうした環境で、監理を担う設計部門の発言力は相対的に弱くなりやすい。「コストを下げるために、当初の図面を変更しろ」など施工部門の意向に影響されやすい。

設計・施工・監理の関係

もっとも当初の図面を変更することは、それだけでは違法にならない。変更の程度が大きければ「計画変更確認申請」して認められればよい。また建築基準法の関係規定に明らかに適合するような「軽微な変更」に該当するものならば、中間検査や完成検査の際に内容を示して検査を受ければいい。

問題は、軽微な変更でないのに、軽微な変更として、しかも中間検査や完成検査の際に内容を示さず、検査をすり抜けてしまうこと。監理が機能していれば検査のすり抜けを防止できるが、現状は違うことを今回のレオパレス事件が示した。

変革の第一歩は、施主自身が監理に関心を持つ

中間検査に抜け道があり、設計と施工を行う建設会社に監理を任せると有名無実化しやすい中で、投資家(施主)はどのようにして監理を機能させることができるのか?

「施主である投資家も、監理に関わる主体性が必要」

東京都江東区で事務所を開く一級建築士のS氏はこう指摘する。同氏はこれまで公共施設やビル、アパートなど40件以上の監理に携わってきた。

S氏によれば、個人の施主(投資家)のほとんど全てといっても過言でないほど、工事監理について関心がない。「言葉すら知らない人もいる」(S氏)。通常、建築工事すると工程ごとに監理報告書が作成されるが、それを受け取ることもしていない。

ではどうやって施主が監理に関わっていくのか。そのステップは

A 監理者の選定
B 監理契約の締結
C 監理報告書のチェック

――の3つだ。

Aについては、S氏が指摘するように、施工部門に忖度しない監理者を選定し、うまく手を結べるかがポイントになる。選定には2つのパターンがある。

1つ目は、メーカーと無関係の一級建築士事務所や民間検査機関を探し、工事監理業務だけを発注する方法。いわばセカンドオピニオン(第三者機関)の活用だ。第三者なら、現場の利害に巻き込まれる可能性は内部設計者より小さいはず。

この方法が理想だが、別の問題を生む。セカンドオピニオンの活用は、建築費用が上乗せされる。少しでも高い利回りにこだわる不動産投資家の場合は、おいそれと乗れない案だ。

「建築費が割高になって、しかも工期が伸びてしまう」

こう話すのは19年1月に静岡県浜松市でRC造マンションを新築した不動産投資家のH氏(45)だ。同氏の経験では、セカンドオピニオンに頼むと、建設費の総額が大体1割増しになるという。おまけに工期が1カ月伸びれば人件費がかさみ、家賃が入る時期までずれ込んでしまうと付け加える。

もちろん費用が膨らんでも、施工不良が起きた場合に被る家賃下落や風評被害などの有形無形の損失と比較考慮して考えれば、セカンドオピニオンを「保険料」と考えて負担する方が合理的だとの考え方もある。

一方で、「保険」という考えを理解しつつも、建築コストが膨らむのをどうしても避けたいという場合にどうすればいいのか。

先の一級建築士のS氏は「施工する建設会社から適任者を選定し、工事監理業務を確約させる」という方法があるとする。もちろんいくら確約させても「施工部門の意向に流されてしまうことを100%防げないのでは」と疑問に感じる人もいるだろ。

これに対してS氏は、監理を徹底することが施主にも建築会社にとってもメリットになるということを、監理者と共有できれば、抑止力を発揮することは十分可能という。

建築会社にとって本来の顧客は施主で、資金の出し手だ。その配分が建築会社内で施工部門に多く回り、それが社内での立場に強弱をつけている。

お金の力が社内の序列に影響しているとするなら、お金の力でそれを変更できることになる。建築資金の出し手である施主が「欠陥を生まないためにも監理を徹底させたい」と要望すれば、施工部門はそれに従うのが筋になる。

監理報告書を工程の都度に提出してもらう

施主の気持ちに寄り添う監理者を確保したら、次に踏むべきステップが先のBに挙げた監理報告書を「工程の都度」提出してもらうよう、契約書で確約を取ることだとS氏は言う。

というのも建築事務所に対する調査を見ると、監理報告書を作成していないケースが半数近く占めるからだ。今回、次善の策として行う建築会社のグループ内に監理を任せる場合も同様の場合が想定される。

監理報告書の作成状況


では作成してもらう監理報告書とは、どのようなものか。それは設計通りの施工が行われたことを監理者が文章や写真、ときにはスケッチで記録を残し、投資家に提出する書類。報告書の種類は、上の図の通り、

  • 意匠設計(デザイン性)
  • 構造設計(耐震性)
  • 設備設計(給排水管など)

――と大きく3つに分かれる。これらは監理の成果が可視化される唯一のツールとなる。

通常、監理報告書は、竣工後に一括して受け取るのが一般的だ。それを工程ごとにもらうのは、工事の途中でも、躯体や屋根裏などの見えない部分を再確認できるようにするためだ。

竣工後に受け取る形では、再確認しようにも箇所によっては大胆な取り壊しが必要となり、後の祭り。それを防ぐために、「工程ごとの提出」は、監理を徹底させるのに欠かせない条件となる。

監理報告書の見方とは

そして最後のステップが上記のCの「監理報告書のチェック」だ。

監理者に解説してもらいながら、設計書と報告書の内容が合致しているかを、要点だけでも自分の目で確認する。問題ないようなら、ひとまずその現場は「設計書通りに施工していると見てよい」(S氏)。

あえて「要点だけでも」としたのは、全ての施工箇所を照合するには、施主にとって知識の点からも、手間の点からも困難だからだ。自分と監理者の役割分担は、契約段階であらかじめ明確にしておくといいだろう。

例えば左官工事(塗装)の項目で「ロックンウール吹付」と書かれても、それが「鉄骨などの下地に吹き付ける耐火材」と知る人はほとんどいないし、分かっても正しい使い方や分量を知る人はさらに限られる。

報告書は、そうした専門用語が大量に羅列された書類と思って差し支えない。先の一級建築士のS氏は「プロに解説してもらいながら、要点を確認するだけでも十分」と言う。

ではどのように要点を定めるのか。工事監理の全体像を踏まえた上で説明したい。既に解散しているが一般社団法人「新・建築士制度普及協会」が策定した資料を基に監理の流れを、下の図にまとめた。全10工程のうち、報告を受けるべき工程は、深い青色で塗った計8つだ。

工事監理の大まかな流れ

①着工前
②着工時
③土工事・地業工事
④基礎工事の材料と施工
⑤木造躯体工事の材料と施工
⑥断熱工事の材料と施工
⑦仕上げ工事の材料と施工
⑧設備工事の材料と施工
⑨工事完了
⑩工事監理の完了手続き
注:戸建て木造住宅の場合

①から⑩の概要を説明すると、

①の着工前の確認は、重要事項の説明や監理業務委託契約書の作成、設計図の内容について。

②の着工時の確認とは、着工時の敷地や建築物の位置などになる。

③の土工事・地業工事とは、地盤や建物の基礎を地盤下につくるために地面を掘り下げて空間を設ける「根切り」と呼ぶ工事などが入る。

④~⑧は地盤工事、基礎工事、そして躯体・断熱・仕上げ(内装)工事、最後に設備工事の確認がある。それぞれで確認するのは、材料と工法の2つ。具体的に何をどう見るかは、国交省の「工事監理ガイドライン」で定められている。

⑨の工事完了は、設計図を照合しながら工事の確認や関係機関による検査の立会いとなり、⑩は工事請負契約づいた建築物の引き渡しなどになる。

5項目に分けて報告

監理は煩雑。例えば、一般的に馴染みのある「壁紙張り」ひとつとっても、確認項目は多岐に渡る。

監理者は壁紙の「規格」「種類」「色」「模様」「防火性能」「接着剤の規格・種類」を、目視や計測でチェックする。他にも現場の自主検査記録や材料搬入報告書との照合、場合によっては施工状況を写真に残す。しかも壁紙の種類は、1つや2つとは限らない。

それぞれチェックしたことを報告書に記録し、施主に提出する。ちなみに報告書の記入欄は、

  • 「確認日」
  • 「確認方法」
  • 「結果」
  • 「不具合部分の処理方法」
  • 「備考」

――の5項目になる。

「耐震性」「防水」「給排水設備」「耐火性」は要チェック

一級建築士のS氏によれば、施主が監理報告書で必ずチェックすべきものは、次の4つの領域にかかわる材料・工法という。それは瑕疵担保責任の範囲となる「構造(耐震性)」「防水」「給排水設備」の3つ、そして界壁などの「耐火性」を合わせた計4つの領域だ。

瑕疵担保責任とは、隠れた瑕疵(欠陥)が見つかった場合、追加工事費を施工会社が保証する制度のこと。新築については、2000年4月施行の「住宅の品質確保促進法(品確法)」に基づき、上の3つ「構造、防水、給排水設備」、つまりトラブルの多い「耐震性にかかわる部分」と「雨漏り・水漏れにかかわる部分」が瑕疵担保責任の範囲となる。

だが、保証期間は、建物の引き渡しから10年間。それ以降に瑕疵が見つかった場合、追加工事費の負担は投資家となる。瑕疵担保責任の範囲は住民の安全性やトラブルが多い意味でも、「報告書のチェック時に重視すべき」(S氏)ということだ。

ただし例外もある。今回問題になったレオパレスの不良アパートは10年以上前に建築されたものだが、大手の場合は会社が工事費を負担する例が多い。会社単独で保証範囲・期間を別途定めていることもあるので、自分の建築会社のルールも、あらかじめ把握しておきたい。

そして預かった報告書は必ず保管する。後から欠陥が見つかったときに、責任の所在を示す証拠書類になり得るからだ。報告書を突きつけても解決できない場合、以下の公的機関に相談するといいだろう。

・各都道府県の建築士事務所協会

⇒設計・監理上の苦情相談室がある

千葉県の例

・各都道府県の建築工事紛争審査会

⇒紛争解決のための公的機関

神奈川県の建設工事紛争審査会の例

以上の流れが、不良建築を防ぐ「監理の徹底」となる。

実はこれまで不良建築問題が起こるたびに、監理機能の強化・見直しが図られてきた経緯がある(下の表)。

■建築事件と工事監理の変遷
時期出来事
1950年建築士法制定
(工事監理の内容を法制化)
05耐震偽装事件(姉歯事件)
06工事監理ルールを厳格化
09工事監理ガイドライン策定
15マンション傾き事件(横浜)
16基礎ぐい工事における
工事監理ガイドライン策定
18レオパレス事件
19工事監理の在り方を見直し

この歴史をみると、いくら見直しても監理にも抜け道があったと言わざるを得ない。先に示した監理報告書の作成をしていない建築事務所が半数程度あることがそれを物語る。抜け道を防ぎ、監理の本来の機能を発揮させるためにも、不動産投資家は施主として監理に積極的に関わっていく姿勢が求められている。

(構成/真弓重孝=みんかぶ編集部)

千住さとし

不動産ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。

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