不動産投資にはリスクが付きものです。しかし、他の投資に比べて特別にリスクが高いわけではありません。重要なのはリスクの質を見極めることと、その対応策を知ることです。不動産業界を深く取材する新聞記者や雑誌編集者が見た事例を中心にして、不動産投資失敗ケースを知りながら、落とし穴にはまらない知識を身につけましょう。
前回から引き続き、シェアハウス投資・かぼちゃの馬車事件から教訓を探してみたい。今回は不動産会社の選び方についてだ。かぼちゃの馬車問題については前回記事を参考にして欲しい。
シェアハウスかぼちゃの馬車は建築・販売元のスマートデイズ社(SD・旧スマートライフ)だけではなく、複数の外部販売会社がいた。報道によると20社以上が関わっていて、どの販売会社から買ったかでオーナーの明暗が分かれている。
昨年1月にSD社からサブリース家賃の支払い不能の説明会がなされた時、ある販売会社Aは遠方に住むオーナーのために東京の会場までの交通費を負担し、会場でオーナーに付き添い、宿泊の手配までしてくれたそうだ。
一方、別の販売会社Bは、オーナーからの問い合わせに「我々も混乱していて、何もコメントできない」とメールを返信してきただけだった。もちろん、説明会への付き添いも無く、その後の対策についても何の策も講じてくれなかった。
その後の対応はさらに大きな差になったようだ。A社は自社が持つネットワークを活用して入居者集めに奔走し、時間はかかったし、家賃は下げたものの満室に近い状態を維持しているという。そしてB社はだんだんとオーナーへの連絡がなくなり、昨年末に破産したという。同じかぼちゃの馬車販売会社であっても、これほどに大きな差があったのだ。どの不動産会社を選ぶかの大切さを改めて実感する事件であった。
当社と親しい記者が、問題発覚後に「なぜ、SD社を信用してしまったのか」と、複数のオーナーにヒアリングをしてみたところ、その理由で多かったのは、銀座の一等地にセミナールーム付きの本社を持っていたことや、当時の社長が大手出版社から書籍を出していたことだったという。
しかし、当然ながら立派な本社や書籍は個々の不動産投資の成功とは何の関係もない。例えば、書籍については家賃ゼロでも儲かる仕組みを作るなどといった荒唐無稽な話が書いてあるだけで、アラも多かったという。例えば、シェアハウスに住む女性に協力してもらうことで、企業からマーケティング費用が手に入り、将来はその収入で家賃とは別の収益を上げられるというくだりもある。
しかし、通常、アンケートやモニターなどは一人500~1000円ほどの収入にしかならない。10~15人しか住んでいないシェアハウスでどれほどの収益が見込めるのだろうか。冷静になってみれば、なぜ信じたのか分かりかねるが、これを信じた人がいるのも事実なのだ。
なぜだろうか?
はっきりとは分からないが、投資家の多くは不動産「購入」が目的になってしまったのではないだろうか。前述の不動産記者は、業界内で悪徳と評判の投資用不動産販売会社のセミナーに参加したことがあるそうだ。
そのセミナーでは冒頭からかなり長い時間をかけて講師の男が、自らが不動産投資でいかに儲かったかをしつこく語っていた。それから、このように儲かる物件はほとんど見つかることはないと言って、転調する。そして、良い物件が見つかったらいかに迷わず購入することが大切だと短く言って話を終えたそうだ。実に巧妙だと思う。
セミナー参加者の目的を「不動産投資で収入を得る」から「物件を購入する」に巧みに言い換えていたのだ。人間誰しも、お預けされれば欲しくなる。この状態になってしまえば、もはや冷静な判断はできなくなるかもしれない。不動産ほどの高額商品でなければ、誰もが経験があることだろう。このあたりに教訓があるのではないだろうか。
不動産投資はあくまでも資産形成・収入確保の手段のひとつであって、自分の志向が不動産による収入ではなく、物件購入の方に傾いてしまっていると感じたら、危ない営業を仕掛けられている可能性が高い。
いったん冷静になって、そのような不動産会社とは距離を置くべきではないだろうか。
不動産投資はどの物件を購入するかが、最も大切だ。しかし、見極める方法は経験豊富な人間でさえ、そう簡単には分からないものだ。それに誰がどう見たって儲かりそうな、リスクが少ない都心の物件は高額で簡単には手に入らない。
逆に手に入りそうなエリア・価格の物件は、人口減の時代にどうなるか分からない。正直、不動産選びに必勝法があるかは分からない。どんなに安全パイをとったつもりでも想定外のことが起こるだろう。
ある程度の経験を積んだ不動産投資家には、「エレベーターが故障して、国産車が買えるくらいの費用がかかった」「入居者が失踪した」といった驚愕のエピソードが必ずある。
不動産投資といっても、投資家がやるべきことの実態は賃貸住宅経営なのである。経営であるのならば、物件を購入する時の不動産会社や管理会社は取引先である。取引先の選定がいい加減であれば、経営がうまくいくわけがないだろう。
「投資家」、「お客様」、「オーナー」など、販売会社や管理会社から何と呼ばれようと、自分は「不動産経営者」であると自覚すべきだ。取引先は冷静に、慎重に選ぼう。
次回は不動産投資における金融機関からの融資について書きたい。