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終わらないレオパレスの施工不良のなぜ

2020/01/21
終わらないレオパレスの施工不良のなぜ

レオパレス21の施工不良アパート問題は、収束の兆しが見えない。

5月29日、同社が依頼した第三者調査委員会は最終報告書を公表したが、その12日後の6月10日、レオパレスは新たな施工不良が発覚したと発表。さらに同日、同社が設計し他社が施工した物件について、追加調査を第三者委員会に依頼した。今後も同社の施工不良が新たに報告される可能性はある。

果たしてレオパレスは今後、施工不良をなくすことができるのか。同社は、建築請負体制の見直しや企業風土の抜本的改革で再発を防止するとしているが、本誌はそれだけでは根絶はできないと指摘した(「レオパの不良アパート、病巣は会社のガバナンスだけではない」参照)。

同社の施工不良の多くは、本来使うべき設計図が実際の施工では、別の設計図を使用するという不正を犯していたことに起因する。設計図のすり替えは、阪神・淡路大震災の反省を受けて導入された中間検査によって、本来は防止できるはずだった。しかし、建築基準法には「4号特例」や「型式適合認定」という抜け道があり、中間検査が機能不全になっている。

4号特例では、2階建て以下の木造アパートは、現場の工事監理者(設計者など)が施工状況を確認していれば、第三者による中間検査は「省略可能」としている。型式適合認定は主要構造部などが建築基準法に適合するという承認が一旦下りれば、中間検査の適用除外になったり、大幅に省略されたりする。しかも、型式適合認定は建築メーカーの社内建築士の審査で承認され、選手自ら審判になって判定するという問題がある。

この現状をまず変える必要がある。

 


中間検査の対象にならない界壁未施工

第2、第3の「レオパレス問題」の再発を防ぐには、まずは中間検査の抜け道を塞ぎ、検査の義務化が必須だ。ただし、それだけでは不十分だ。なぜなら、今の検査項目では、レオパレスの物件で問題になった「小屋根・天井裏の界壁」が未施工になる不備を防げないからだ。

 ■中間検査は問題点

検査が簡略化される物件が多い

防火性の現場検査が皆無

おさらいすると界壁とは延焼防止用に設ける仕切りの壁で、建物の防火性を高めるために設置する。ところが現行の中間検査には防火性のチェックがない。

「現在の中間検査は耐震性のチェックが主眼で、躯体を構成する配筋の本数などにごまかしがないかの確認に終始する」と、東京都内でアパート設計を20年手掛ける一級建築士のM氏は指摘する。下の表のように現在の検査では、鉄骨や鉄骨鉄筋コンクリート、木造などと建物の構造によって差はあるが、1階部分の骨組みや部材、2階部分の床や梁、屋根などについて検査する。

 ■現行の中間検査の概要

対象の建物

延べ面積が1万㎡以下の3階建て以上の建物

 

現場検査の内容-耐震性(骨組み)の検査のみ

鉄骨造など

1階の鉄骨・骨組み部材の工事

鉄骨鉄筋コンクリート造など

1階の鉄骨・骨組み部材の工事

鉄筋コンクリート造など

2階の床・梁に鉄筋を配置する工事

木造

屋根工事

上記以外の構造

2階の床工事

 注:東京都の例

着工前検査の建築確認では防火性についてチェックしているにもかかわらず、中間検査では耐震性に内容が偏っているのは、先に述べたようにこの検査が阪神・淡路大震災がきっかけになったためだ。さらに追い打ちを掛けたのが2005~06年に起きた「姉歯事件」だ。

中間検査の導入で耐震性のチェックを厳格化したにもかかわらず、元・一級建築士の耐震偽装を防げなかった事態が発生した。この事件で、中間検査の「耐震性偏重」の色合いは一層濃くなる。検査内容で、「鉄筋コンクリート造で鉄筋が正しく配置されいるかの配筋の本数を見るルールが追加された」(国交省)。

もちろん地震国の日本では耐震性への関心が強く、中間検査で耐震性の検査内容を強化すること自体に問題はない。しかし、消防庁によれば2018年の住宅火災の発生は1万912件を占め、総出火件数で3万7900件の30%近くを占める。このうち共同住宅の火災は3355件となり、決して小さい数ではない。

阪神・淡路大震災では、火災の発生件数が285件に対して焼損棟数は7483棟と、発生件数より26倍を超える火災被害が起きたことを見ても、建物の安全は耐震性と共に耐火性も鍵になることは明らか。にもかかわらず中間検査では耐火性のチェックがなおざりにされてきたのが、日本の建築検査の実態だ。

検査員1人あたり年間130件

では、中間検査の義務化と検査項目に耐火性を追加する「改正」を実現できるのだろうか。これまで建築基準法の「改変」の歴史と実態を考えれば、過去のやり方を変えない限り、実効性のある改革は期待できない。

「改変」としたのは、基準は確かに変わったが、中間検査には抜け道が用意され、しかもその内容に不備がある状態を長らく放置してきたことを踏まえれば、「改正」とは言えないからだ。では、改正するにはどうすればいいのか。

それにはまず、抜け道があり防火性のチェックがない中間検査が放置されてきた事情を知る必要がある。最大の原因は、手間と人員の問題だ。検査人員が足りないことで、着工が遅れることを建築業界が嫌っている。

姉歯事件後の法改正では、中間検査の強化のほか、着工前の「建築確認申請」時に、自治体に提出する構造計算書の審査なども厳格化した。これによって建築確認の審査期間が当初21日間から最大70日間に延長されたため、審査の遅れが響き、翌年の住宅着工戸数に急ブレーキがかかった。

実際、2007年の住宅着工戸数は前年より25万戸ほど少ない103万戸に落ち込んだ。それに伴い建築資材の供給量も低迷。資金繰りに窮する地元の工務店や建築資材店が相次ぎ、業界から「官製不況」と猛反発を浴びた。多くの中小企業が経営難に陥る恐れから国交省は制度融資などの支援策に乗り出した。当時を知る関係者は「(国交省にとって)トラウマになった出来事だろう」と振り返る。

小屋裏の界壁チェックなら、検査項目を1つ増やすだけだが、義務化となるとこれまで特例や型式適合認定で免除した件数の検査が必要になる。当事者の反応は冷淡だ。国交省の担当者は「(一般論として)人手が足りず現実的でない」とする。民間の検査機関も「検査対象がどの程度増えるか見通せず、コメントできない」と慎重姿勢を崩さない。

確かに現在の検査員の数では、全件を中間検査するには人手が足りない。検査人員と検査件数について実際のデータを見てみよう。

国土交通省の資料*によれば、2つのデータが確認できるのは、やや古いが2011年度末時点になる。この年の建築確認の件数は54万5347件で、確認済み証を交付できる建築主事・確認検査員の数は約4200人となる。1人あたり年間に約130件で、およそ2営業日に1件の割合になる。ポイントはこの体制で特例を廃止して、検査の義務化を徹底できるかだ。

*社会資本整備審議会・第9回建築基準制度部会「【参考資料3-2】効率的かつ実行性ある確認検査制度等のあり方の検討(参考資料集)」

先の54万強の件数のうち、特例が適用されるうち、審査が簡略化される「4号建築物」は7割以上を占めている。現行の中間検査の審査項目は66項目ある。だが4号建築物はその4割ほどの26項目になる。特例を廃止して検査を義務化した場合、現在の検査項目より2倍以上に増える建物が多くなる。

これに今回の事件で問題になった小屋根・天井裏の界壁不設置を防ぐため、防火性の検査を加えると、現行の検査体制を検査人員増やその他の方策によって変更する必要があるかもしれない。

  

 ■審査の4割が免除される

建築確認の審査項目は全66項目

免除される

免除されない

26項目

40項目

免除される審査は主に2分野

構造にかかわる審査

免除

設備等にかかわる審査

免除

敷地にかかわる審査

審査

防火避難にかかわる審査

審査

都市全体にかかわる審査

審査

出所:「建築関連法の概要」より抽出(国交省)
注:設備等にかかわる審査は一部審査あり。対象は小規模な一般建築物

今回の問題を受けて、国交省は昨年末から大学教授らで構成される有識者検討会で再発防止策について議論を重ねている。だが、話題の中心は、もっぱら工事監理の在り方を再考する内容で、中間検査の見直しは「ほぼ触れられていない」(関係筋)という。この件について国交省に取材すると、「特例廃止による検査の義務化は建築現場の混乱を招きかねない」とする。

 ■現在の再発防止案の概要

工事監理のあり方の見直し

品質管理・工事監理の実態を国が定期的に把握

建築違反の指導状況などを行政間で共有

中間検査の導入促進(9都道府県が未実施)

ハウスメーカーの設計をチェックする仕組み

繰り返しになるが、レオパレス問題が明るみになる以前にも、建物検査の抜本的な改革を迫られる事態が発生しているにもかかわらず、弥縫策的な対応で交わそうとしているのが、国交省の対応だ。

2016年4月、マグニチュード6.5の地震が熊本県を襲い、およそ14万棟が被災した。地震後、有識者の間で「倒壊した家屋の中に多数の不良建築があった」との見方が浮上し、18年3月、日本弁護士連合会が検査制度の是正を求める意見書を国に提出した。

日弁連が求めたのは、先ほど説明した4号特例の是正だ。戸建てや2階建て以下のアパートなど小規模建築物の検査を現場の自主性に委ねる特例の存在が「構造図面の偽装の温床となっている」と指摘。建物の規模問わず構造計算書の提出を義務付けるべきと主張した。こうした状況にもかかわらず、レオパレス問題が世間を騒がしても、先程のような、特例廃止などの改革に向かおうとしない。

検査人員の不足による現場の混乱を理由に、改革に及び腰な状況を改善するには、どのような方法があるのか。1つは、現地検査のバーチャル化だ。現場で実際に確認する実地検査が人手の問題で難しいとするなら、その負担を軽減することで全数調査を行う方法がある。

IT技術が発達した現代、写真や動画を使って“遠隔検査”する仕組みも可能だ。前出の一級建築士・H氏は「業務量が増えることには変わらないが、直接検査と比べてはるかに効率的」とする。同じく前出の一級建築士のM氏も「最も現実的」と太鼓判を押す。

これらを踏まえて、今後アパートを建てる不動産投資家は、どのように施工不良の被害を防げるのだろうか。建築業界の信頼性が揺らぐ中、“一事業主”である不動産投資家にも、不良建築を防止する一層の経営努力が求められる。

次回は、不良建築を防止・抑止したい人のために、セカンドオピニオンと上手に連携して工事監理する方法を紹介する。投資家自身が最後の防波堤になるしかない。

(構成/真弓重孝=みんかぶ編集部)

千住さとし

不動産ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。

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