資産形成ができるのと同時に節税効果もあると言われている不動産投資が人気を集めています。
日本では累進課税制度が採用されているため、収入が多くなればなるほど納めるべき所得税の税率が高くなります。
そのため、納付する税金額を軽減することで少しでも手元にお金を残しておきたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、不動産投資による節税の仕組み、節税できる税金の種類、確定申告の手順について詳しく解説していきます。
不動産投資を検討されている方、これから不動産投資の確定申告を行う予定がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
なぜ不動産投資は節税対策に適しているのでしょうか。それは不動産所得が赤字になった場合、給与所得と損益通算することによって、払いすぎた所得税・住民税の還付を受けることができるからです。
損益通算とは、所得の計算上で損失が生じた場合、他の所得の金額から控除を受けることができる制度です。とはいえ、どんな所得でも損益通算ができるわけではなく、損益通算の対象となる所得は下記の4つのみです。
つまり、株などの金融商品の投資をして赤字になっても給与所得と損益通算はできず、不動産投資だからこそできる節税方法です。
例えば本業で年収700万円の収入がある場合、不動産所得で100万円の赤字を出していれば、本業所得と損益通算して、収入を600万円に抑えることができます。よって、700万円に対して支払っていた所得税と住民税の還付を受けることができ、節税に繋がるのです。
なお、不動産投資により節税できるのは所得税と住民税だけではありません。相続時にかかる「相続税」、生前贈与する時の「贈与税」、法人を持っている場合は「法人税」も対象になります。
詳しくは次の章にてご紹介します。
不動産投資を行うことで節税できる税金は以下の5つです。
では、それぞれの税金の節税の仕組みについて詳しく解説していきます。
不動産所得を計算するには「家賃などの収入−不動産経営に関わる諸経費」という計算式にて算出することができます。つまり、経費をもれなく計上することがポイントになります。
では、不動産経営に関してどのような経費が認められているのでしょうか。具体的には下記のような経費があります。
不動産投資する時の収入は家賃だけではありません。まずは収入とみなされるものについて正しく把握しておきましょう。
<収入としてみなされるもの>
・家賃
家賃は収入として計上されます。不動産といえば、1番初めに思い当たる収入ではないでしょうか。
・名義書き換え料、承諾料、更新料などの名目で入居者から受け取るもの
入居者との契約や、契約の変更などで受け取ったお金も収入として計上されます。この中には入居時に受け取る礼金や、契約更新を行う際の更新料なども含まれています。
・敷金や保証金のうち、入居者への返還を必要としないもの
敷金や保証金として受け取った金額は、所有者が入居者から「預かったもの」として処理されます。
しかし、債務不履行や敷金償却の契約により、この預かったお金を入居者に返還する必要がなくなったことが確定した日から「収入」に変わります。計上項目について注意しましょう。
・共益費などの名目で受け取る電気代や水道代、投資用物件の管理費など
家賃とは別に、共益費や管理費を入居者から受け取っている場合は、これらも収入として計上します。
ここまで解説した4種類の収入は不動産投資の収入とみなされます。続きまして、次は諸経費として認められる経費について解説していきます。
<諸経費>
・旅費、交通費
購入を検討している物件の見学や、所有物件の管理に訪問する際にかかる公共交通機関の運賃や自家用車のガソリン代、宿泊費などは経費として計上できます。
不動産投資に関連した移動や宿泊にかかった費用しか経費として計上できないため、注意が必要です。
不動産投資に関する情報収集や勉強のための費用も経費として計上できます。
セミナーに参加したり、本や新聞などを購入して勉強する場合は、それらの費用を経費として計上できます。
・通信費
通信費も経費として計上できます。
情報収集に使われるパソコン、不動産会社・管理会社と連絡する時に使用する携帯電話の購入費用、管理に必要なアプリやソフトウェア購入にかかる費用などを経費として計上可能です。
しかし、携帯電話やパソコンを私用でも使っている場合には、自家用車と同じように全額ではなく、家事按分をして不動産投資に利用した割合分のみを経費として計上します。
・ローンの金利
投資用物件を金融機関などでローンを組んで購入した場合、返済額のうちの金利は経費として計上できます。
なお、ここで注意が必要なのは、経費として計上できる金利は建物に対して組んだローン部分の金利のみであり、土地に対して組まれたローンにかかる金利は経費として認められないという点です。
・保険料
火災保険や地震保険料も経費として計上できます。
しかし、保険料は一括払いされるのに対して、経費として計上できるのは年額になります。その金額は毎年保険会社から送られてくる書類を確認してください。
・賃貸管理会社への委託料
物件の賃貸管理を管理会社に委託する際に必要な費用も経費として計上できます。
・管理費、修繕費
区分マンションを購入された場合は、建物全体の管理を行っている管理会社に管理費を支払う必要があります。また、大規模修繕に備えて毎月修繕積立金も支払っています。
それらの費用も経費として計上することができます。
・税金
物件を取得した際の不動産取得税、登録免許税、印紙代などの税金と、毎年納める固定資産税、都市計画税は費用として計上できます。
・司法書士や税理士への報酬
登記を行う際に司法書士に依頼したり、確定申告を税理士に依頼した場合に発生する報酬も経費として計上可能です。
・交際費
不動産会社や管理会社の担当者など、不動産投資に関連する人との飲食代は、交際費として経費に計上することができます。
また、喫茶店などで打ち合わせを行った際には「会議費」として飲食代を計上することが可能です。
・減価償却費
不動産には法定耐用年数が定められています。新築の場合木造であれば22年、鉄骨造であれば34年、マンションに多いRC造は47年です。
この年数を過ぎると、建物の価値はゼロであると法律的にはみなされます。建物の購入にかかった費用をこの年数で割った金額が減価償却費です。この減価償却費は建物の価値がゼロになるとみなされる年数が経過するまで毎年経費として計上できます。
実際に支出している費用ではないにもかかわらず、経費として計上することができるため、節税に繋がる大切な経費と言えます。
確定申告を行う際の注意点は、自分に合った申告方式を選択することです。
確定申告には「白色申告」と「青色申告」の二つの方法があり、不動産投資を行う際には、青色申告がオススメです。なぜなら、青色申告を行うことで不動産投資やその他給与所得で得られた収入の合計から10万円~65万円の控除を受けることができるからです。
青色申告を行う場合には、不動産投資を始めて2か月以内に税務署に届けを出す必要があります。また、申告の記入内容も白色申告に比べると青色申告は多少複雑なものになっています。
とはいえ、青色申告は白色申告に比べて大きな節税効果があります。
件数が少なく投資規模が小さい場合でも申告することができますので、ぜひ面倒がらず青色申告を選びましょう。
では、実際に不動産所得が赤字になった場合のシミュレーションを見てみましょう。
本業の給与所得が700万円である場合、確定申告の所得税率は23%です。
控除額は636,000円になるので、所得税は
7,000,000円×23%-636,000円=974,000円
住民税は
7,000,000円×10%+4,000円=704,000円
です。
出典:国税庁
そこで不動産投資による損失が100万円あった場合
(7,000,000円-1,000,000円)×20%-427,500円=772,500円
となります。
(所得税は累進課税なので、総所得が600万円の場合には20%の所得税を支払う必要があり、控除額は427,500円となります。)
つまり、不動産所得と損益通算して所得税は
974,000円-772,500円=201,500円
となり、201,500円還付される計算となりました。
住民税は前年の所得に対して課税されます。つまり、課税所得対象の金額を低く抑えることができれば節税に繋がります。
住民税のシミュレーションも見てみましょう。
東京都の住民税は課税所得対象×10%+4,000円なので、
(7,000,000円-1,000,000円)×10%+4,000円=604,000円
(赤字なので特別控除はなし)
となり、その差額は
744,000-604,000=140,000円
です。
結果、上記の所得税と合わせると、「341,500円」の節税に繋がりました。
なお、住民税は「所得割+均等割」で求められます。所得割とは、前年所得額に応じるもので、均等割りとは、一定以上の所得のある方に定められている課税額のことです。
また地域によって額も異なるので、お住まいの地域の住民税の計算方法を調べてみましょう。
不動産投資をすることによって相続税の節税にも繋がります。
相続税には基礎控除があり、その金額は以下の計算式で求められます。
つまり、法定相続人が4人いて相続する財産の総額が5,400万円以下である場合、相続税を支払う必要がありません。
では、なぜ不動産は相続税対策になると言えるのでしょうか。それは課税額の計算方法がポイントになります。
例えば相続の対象となる遺産が現金の2,500万円であった場合、遺産の評価額は額面そのままの2,500万円となります。
しかし、建物1,750万円、土地750万円、合計2,500万円の実勢価格のワンルームマンションであった場合、建物の評価額は50%の875万円、土地の評価額は80%の600万円となるのです。
さらに投資用不動産評価額として、建物が70%の610万円、土地が60%の360万円となり、合計課税対象額は970万円まで低く押さえることが可能です。
つまり、不動産投資をすることによって、相続税の課税額を大幅に低くおさえることができ節税に繋がるのです。
投資用不動産を贈与する場合、同じく物件の課税額を低くおさえることで節税に繋がります。
一般的な贈与の場合、贈与税の金額は(贈与財産額-110万円(基礎控除))×税率×控除額の式で計算されるため、同物件でも相続税より税金が高くなる傾向があります。
その場合の税金をおさえるには、相続時精算課税制度を利用することができます。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の祖父母又は父母から20歳以上の子や孫に贈与を行う場合、財産の評価額が2,500万円までの贈与であれば贈与税がかからない制度のことです。
なお、2,500万円を超える財産の贈与を行っても、2,500万円を超えた財産について一律20%の贈与税を支払うだけで済みます。
つまり、同じ実勢価格がある金融商品を相続するより、不動産を相続した方が課税評価額を低くおさえることができるということです。
しかし、相続時精算課税の名の通り、被相続人が死亡し相続が発生した場合に相続清算課税制度を利用して贈与した金額をすべて被相続人の相続財産に加算して相続税を計算するため、金額によっては納税額が高くなる可能性があります。
法人税とは、不動産投資事業を法人化した際にかかる税金のことです。
例えば、個人で不動産所得が900万円以下が23%、900万円を超えると税率33%になります。法人税は800万円以下の部分が15%、800万円越えの部分が23.20%になりますので、その分法人税の方が安く節税に繋がるのです。
参考:法人税の税率
また、法人化することで以下のようなメリットがあります。
上記にもありますように、所得が900万円を超えると所得税率が33%になり、法人税を超えてしまいます。よって、不動産所得を含め、合計所得が900万円を超えると法人にした方が節税効果が高くなります。
ただし、サラリーマンなど会社勤めをしている方は、会社の就業規則によって法人設立ができないケースもあります。本業に影響が出ないように、事前に確認するようにしてください。
最後に、不動産投資をした際の確定申告の手順について解説します。
では、順番に解説していきます。
まず初めに、確定申告時に必要になる不動産投資に関する書類を集めましょう。
確定申告に必要になる書類は以下の通りです。
売買契約書
賃貸借契約書
家賃収入が記載されている書類
経費の領収書
修繕をした場合の見積書、領収書
控除関連の書類
特に経費に関しては交際費、交通費などのカテゴリ分けが必要なので、事前に金額をエクセルなどのデータにまとめておくといいでしょう。また、領収書を保管しておく必要がありますので、紛失せずに保管するようにしてください。
次に、不動産所得の帳簿を作成し決算を行いましょう。
不動産所得の帳簿とは、不動産投資における今までの収入と支出を記帳したノートのようなものです。
青色申告を選択した場合は「青色申告決算書」白色申告の場合は「収支内訳書」を作成する必要があります。
なお、青色申告の場合は、白色申告と比べて多くの特例を受けられますが、作成書類に時間を要します。
また、青色申告決算書を使用する場合は、不動産投資事業を開始してから2か月以内に「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があるので、覚えておきましょう。
最後に「確定申告書B」という確定申告書を作成します。
青色申告、白色申告どちらの場合も同じ確定申告書を作成するので、特別注意するべきところはありません。記入方法については見本などが国税庁のHPに添付されていますので、参考にしながら作成してみてください。
全ての書類作成が完了しましたら、税務署に提出しましょう。提出方法は、以下の通りです。
インターネット
直接持参
郵送
確定申告が初めてという方は、記入ミスを発見した後でも、スムーズにやり取りするために、直接持参することをオススメします。税務署の方は親切に書き方を教えてくれます。
なお、本業が忙しい方は税理士にお任せすることも一つの選択肢と言えます。
その場合、売上の規模によっておおよそ以下のような費用がかかります。
500万円未満:10万円
500〜1,000万円未満:15万円
1,000万円〜:20万円
依頼を検討されている方の参考になればと思います。
今回の記事では、不動産投資をすることによって節税できる税金、そしてなぜ節税ができるかの仕組みについて解説してきました。
節税ができるからやるのではなく、なんで節税ができるのか、また、その節税方法は自分に適しているかについても理解しておく必要があります。
不動産投資を活用して節税を検討されている方は、ぜひこちらの記事を参考にしていただけますと幸いです。