不動産投資は相続税対策になりますので、その点を見越した不動産投資をする人も多いでしょう。しかし、実は相続税は法改正によって節税効果が薄まっていることは知っておく必要があります。
この記事では、そんな不動産投資で相続税対策をする人が「知っておくべき法改正」を3つ解説していきます。また、合わせて不動産が相続税対策になる理由や、物件選びで注意することも解説するので、参考にしてみてください。
そもそも、不動産投資が相続税対策になる理由は以下の点です。
詳しくは後述しますが、相続税は相続した資産の評価額によって、税率と控除額が異なります。当然、評価額が高額になるほど相続税は高くなるので、相続税を抑えるためには評価額を下げる必要があります。
不動産は現金で持っているよりも評価額が下がるので、相続税も安くなるのです。
そして、不動産投資の場合は「貸家」になり、貸家の場合は評価額がさらに下がるので、不動産投資は相続税対策になるというわけです。
平成27年1月1日以後の相続や贈与に税改正がありました。
この章より、相続税対策で知っておくべき法改正について具体的に解説していきます。
1つ目の法改正は、以下の相続税率と基礎控除に関する法改正です。
前段として、相続税を算出するときには
という計算をします。
まずは、相続税の基礎控除が以下のように減額されている点を知っておきましょう。
たとえば、法定相続人が妻と子供2人の3人だとします。
その場合、改正前は「5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円」が基礎控除額です。つまり、相続する資産の評価額が8,000万円以下であれば、全額控除されるので相続税は発生しないということです。
一方、改正後だと「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」に減額されているため、法定相続人が3人であれば基礎控除額は3,200万円も減額されているということです。
また、相続税率も以下のように改正されています。
評価額 | 税率 (改正後) | 税率 (改正前) | 控除額 (改正無し) |
---|---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 20% | 200万円 |
5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 30% | 700万円 |
1億円超〜2億円以下 | 40% | 40% | 1,700万円 |
2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 | |
3億円超〜6億円以下 | 50% | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
このように、資産が2億円超から3億円以下の場合は税率が40%から45%に改正されており、6億円超の場合は50%が55%に改正されています。なお控除額は変わっていません。
前項を踏まえ、以下2パターンで改正前・改正後の税額がどう変わるかを見てみましょう。
なお、法定相続人は3人を想定しています。
評価額1億円の相続税額は、改正後・改正前で以下のような違いがあります。
このように、基礎控除額が大きく異なるので、税額にして610万円もの違いになります。
次に、前項よりも高額の資産を相続したときの相続税額を計算してみましょう。
このように、資産が高額になると基礎控除が減額になっただけでなく、税率も改正後の方が高いです。
そのため、上記のように税額の差は2,540万円もの金額になります。
知っておくべき2つ目の法改正は、海外居住の税金に関する法改正です。
このケースは海外で不動産を保有するときなので、あまり多いケースではありませんが、不動産以外の資産についても関連するので以下の点は知っておきましょう。
国外の財産についての相続税・贈与税は、財産を渡す方も受け取る方も5年を超えて国外に居住していれば、国外財産に関しては課税されません。言い換えると、国外に5年超住んでいなければ、国外にある財産は相続税・贈与税の対象になるということです。
しかし、法改正によって期間が5年から10年に延びました。というのも、相続税や贈与税を逃れるために、税率の低い国へ財産を移し課税を逃れるという問題が起きたからです。
5年から10年に延びたことで、国外に5年居住していただけでは国外財産について日本でも課税されることになってしまうので注意しましょう。
知っておくべき3つ目の法改正はタワーマンション節税に関する以下のことです。
タワーマンションは高層階の方が価値は高いものの、相続税などを算出するときの評価額は低層階も高層階も同じであることを利用した節税が、タワーマンション節税です。
たとえば、40階建てのタワーマンションで、同じ広さの部屋が低層階の4階部分は2,500万円、40階部分は4,000万円で売られているとします。
この場合、高層階の40階の方が資産価値は高く、実際に売るときも低層階の4階よりも高く売れますし、家賃も高層階の方が高く設定できるでしょう。
しかし、相続税評価額は4階でも40階でも同じ、つまり相続税額は同じになるのです。そのため、資産価値の高い高層階を購入して、相続税を安く抑えることが可能になります。
しかし、前項のようなルールだと実際の価値と相続税評価額がかけ離れてしまうので、以下のようなルールに法改正されました。
「高さ60mの建築物は、建築物全体の固定資産税額を按分する床面積の割合について、1階を100とし1階増すごとに10/39を加えた係数とする。」
つまり、高層階になるほど相続税評価額が高くなるという、実際の取引額に合わせたルールに変更になったということです。この法改正によってタワーマンション節税の効果は薄れたので、節税効果を狙ってタワーマンションの購入を検討していた人は要注意です。
前項までで、相続税対策で知っておくべき3つの法改正を解説しました。
この章では、実際に投資不動産で相続した時にいくら節税できるのか?という点について、上場株式を相続したときと比較して解説します。
上場株式の評価は、原則として終値の金額です。
終値とは、その日の最後の取引でついた株価のことであり、以下4つのうち最も低い株価が評価額になります。
仮に、相続開始日が取引所の営業日ではないときには、その前後で最も近い日の終値が適用されます。要は、評価額の軽減措置のようなものはなく、時価で評価するということです。
不動産の相続税評価額は、建物は固定資産税評価額、土地は路線価を基に計算されます。
固定資産税評価額は相場の5~7割ほどまで評価額が下がり、路線価は相場の8割ほどまで評価が下がります。
たとえば不動産投資(貸家)の場合、入居率80%の物件で、土地の借地割合が80%の評価額は以下の通りです。
仮に、法定相続人が1人いるとき、時価で5,000万円の株式を相続したら、相続税は以下の通りです。
一方、その5,000万円で建物3,400万円、土地1,600万円、入居率80%のアパートを相続した場合の相続税額は以下の通りです。
建物と土地の合計評価額は1537.76万円なので、基礎控除で全額控除されるため、相続税はゼロ円になるということです。
このように、不動産で保有していると評価額が低くなる上に、貸家(不動産投資)だとさらに評価額が下がるので、相続税の節税効果は大きいのです。
前項までで、不動産投資の相続税対策について注意すべき、「相続税の改正」が理解できたと思います。
不動産投資は相続税対策になる投資ですが、その本質は「家賃収入で利益を出すこと」です。そのため、相続税だけに注目するのではなく、きちんと利益が出るように相場より高い物件を購入しないことが重要になります。
「相場より高くない物件」を選ぶポイントは、以下の2つです。
まずは、以下サイトで物件価格の相場を調べましょう。
REINS Market Informationも土地総合情報システムも、中古物件の成約価格を調べることができます。
そのため、検討物件と同じような条件で物件を検索し、“実際に成約した価格はいくらか?”をチェックすることで相場を調べることは可能です。
また、相場価格が適性だとしても、投資用物件の場合は想定賃料が適性か?も調べなければいけません。
調べる方法は、ポータルサイトで条件が近い物件をピックアップし、検討している物件の利回りの基になっている家賃と比較すること,/span>です。
前項の、物件価格相場と家賃相場を調べることで、投資用物件として適正な価格かどうかが分かってきます。
このように、不動産投資は相続税が減額される投資ですが、法改正により以前よりも相続税の節税効果は小さくなりました。
そのため、これから不動産投資をしようと考えている人は、今回紹介した3つの法改正を理解しつつ、適正価格を検証した上で物件購入をしましょう。