「不動産投資は法人化した方が良い」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。結論からいうと、法人化した方が良いかどうかは人によって異なるので一概にはいえません。ただ、確かに法人化した方が得するケースもあります。
そこでこの記事では、そもそも不動産投資で法人化するとはどういうことか?法人化したときのメリット・デメリットは何か?について解説いたします。法人化を検討している人は参考にしてみてください。
まず、不動産投資で法人化するとはどのようなことか?について解説します。一般的に、不動産投資をするときには個人名義で売買契約を結び、個人の名義で登記します。
つまり、Aさんがアパートを購入したら、Aさんの名義で売買契約を結び、Aさんの名義で登記されるというわけです。
一方、不動産投資で法人化するとは、Aさんが法人Z社をつくり、Z社の名義で不動産を取得するということです。つまり、売買契約や登記の名義もAさんではなくZ社になります。
ただし、不動産投資で得た利益はあくまで法人としての利益なので、その法人の代表取締役社長だとしても自由に使うことはできません。そのため、Z社の役員を自分にして、不動産所得を役員報酬に設定すれば、不動産投資で得た利益を自分に還元することが可能です。
次に、不動産投資で法人化するメリットである以下を解説します。
では、それぞれについて見てみましょう。
不動産投資で法人化する最も大きなメリットは「節税効果がある」という点ですが、その点を理解するために以下を知っておきましょう。
まず、不動産所得は総合課税なので、会社員の方であれば給与所得、個人事業主の方であれば事業所得と合算されます。そして、所得税率は以下のように累進課税なので、所得が多くなるほど税率も上がるという仕組みです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
一方、法人の所得には法人税率が適用されるので、法人名義の不動産投資で得た利益(≒不動産所得)には法人税が課せられます。
法人税の仕組みは複雑なので一概にはいえませんが、法人税の実効税率は売上が800万円超であれば約23.2%、800万円以下であれば約15%です。
このように、前項の個人に課せられる所得税と比較すると、税率が低く抑えられているのが分かります。さらに、法人税の場合は法人の所得と個人の所得を合算しないので、所得額が高額になりにくいのです。では、次項より実際にシミュレーションしてみましょう。
たとえば、給与所得700万円の方が不動産投資を行い、不動産所得が300万円あったとします。その場合、不動産所得と給与所得は合算されるので、1,000万円に対して所得税がかかります。
つまり、所得税額は「1,000万円×33%-1,536,000円=176.4万円」です。
一方、法人化した場合には、不動産所得である300万円は給与所得と合算されません。そのため、以下のように法人税と個人にかかる所得税の2種類に分けられます。
このように、法人化することでこのケースでは合計で143.8万円の所得税になっているので、法人化しないといよりも32.6万円も節税できています。注意点は、このケースは役員報酬として不動産投資で得た利益を自分に還元せず、法人にプールするケースです。
ただし、上述したように法人で上げた不動産所得は、役員報酬によって自分に還元されます。役員報酬は給与所得になるので、不動産投資をしている法人Z社からの役員報酬と、会社員としてもらっている給与所得は合算されます。
ここまで聞くと、結局は「給与所得+役員報酬(=不動産所得)」になるので、上述した「②法人化しない場合の税金」と同じであり、法人化することによる節税効果はないと思う人もいるでしょう。
しかし、次章で解説する「経費の幅が広がる」という理由で、法人化することで節税効果が高くなるケースはあります。
法人化すると経費の幅が広がります。不動産所得は「年間家賃収入-年間経費」で計算するので、経費の幅が広がるつまり経費額が多くなる方が不動産所得を下げられるのです。
特に、家族を法人の役員にして「役員報酬」を法人から支払うと、その役員報酬は経費になり、この経費額は大きいです。
家族を役員にするといっても、その家族が何もしないのであれば「脱税目的で形だけ家族を役員にした」と見なされることがあります。
そのため、たとえば妻を役員にするのであれば、管理会社とのやり取りだったり、賃借人と契約を結ぶ判断だったりと、不動産投資業務に関することを妻に任せる必要があります。
たとえば、上述したケースと同じく給与所得700万円の会社員Aさんが法人化して不動産投資をしており、法人としての所得(不動産所得)が300万円だったとします。そして、妻を役員として190万円の役員報酬を支払っていたとしましょう。
その場合、190万円は経費になるので、法人としての所得は110万円(300万円-190万円)まで下がります。
仮に、残った110万円をAさんの役員報酬にしておけば、Aさんの所得は810万円(給与所得700万円+110万円)です。
前項の所得に対する税金を計算してみましょう。
このように、合計で132.2万円なので、法人化しない場合の税金176.4万円よりも44.2万円も節税できています。「節税」に関しては下記でも解説していますので参照してみてください。
関連記事:→ 不動産投資を行う際の効果的な節税方法とは?
前項までは節税に関するメリットですが、もう1つのメリットとして金融機関からの信頼性が高まるという点が挙げられます。
社会的な信頼性は個人よりも法人の方が高いケースが多いため、金融機関からの信頼性が高まるケースが多いためです。ただし、その法人の業績などによって信頼性が異なる点は認識しておきましょう。
一方、不動産投資で法人化すると以下のデメリットもあります。
1つ目のデメリットは、場合によっては節税にならないという点です。上述のように、不動産投資で法人化することによって節税効果があるのは以下のスキームでした。
つまり、法人化して節税する肝は、法人税の実効税率というよりも「役員報酬の経費計上」および「不動産所得の分散」に2点です。そのため、この2点を実現できないと節税効果を得るのは難しいです。
また、法人設立には費用がかかります。というのも、法人設立には定款の認証手数料や謄本手数料、法人登記に関する費用などがかかるからです。
一般的な株式会社で25万円前後、合同会社で10万円前後かかるので、その点も加味して法人化するかを判断しなければいけません。
今回解説したのは、はじめから法人として不動産を取得するというパターンでした。一方、すでに個人で不動産を保有している状態で法人化するときは、その不動産を法人へ譲渡する必要があります。
その際は、法人に登記するための登録免許税や、不動産取得税などが改めてかかる点はデメリットです。
法人税は、上述した「不動産所得」など、その法人として得た利益に対してかかります。しかし、都道府県民税・市町村民税(住民税)には「均等割り(きんとうわり)」というものがあり、これは所得に関係なく資本金や従業者数に応じて課税されます。
たとえば、資本金が1千万円以下、従業者が50人以下の場合には年間7万円です。仮に赤字になってもこの金額は発生するため、この点も法人化するデメリットといえるでしょう。
では、前項を踏まえた上で法人化した方が良い以下のケースを解説します。
まずは個人名義で所有するよりも所得税が法人税より高くなった場合です。
上記「2.不動産投資で法人化するメリット」で書きました節税効果があるのを参考に、個人で所有するときの所得税の納税額より、法人で所有する法事税額が低いときは、法人化を検討するといいでしょう。
個人名義で所有して融資を利用する場合は、審査時の基準は個人の所得が条件として重視されますが、法人名義で所有する場合は、金融機関は事業融資として審査しますので、個人で受けられる融資枠より大きくなります。
従って、将来的に事業を拡大していく予定がある場合は、個人名義よりも法人化し、法人名義で所有される方がメリットは大きいです。
このように、不動産投資で法人化するときには、まず節税する仕組みを知っておきましょう。そして、上述したデメリットと比較してから判断しなければいけません。
いずれにしろ、税金が絡んでくるので複雑になりやすいため、最終的には税理士へ相談した後に判断した方が良いでしょう。