不動産投資の大半はローンを組んで物件を購入しますが、そんな不動産投資ローンには「繰り上げ返済」という仕組みがあることをご存知でしょうか。
繰り上げ返済は意外と知られていないものの、投資を行う前に知っておくべき仕組みです。なぜなら、繰り上げ返済の仕組みを知っておくことで、ローンを組む金融機関選びの参考になるからです。
そこでこの記事では、不動産投資ローンの繰り上げ返済について、概要やメリット・デメリットなどを解説していきます。
まずは、繰り上げ返済について以下の点を解説します。
(1)繰り上げ返済の概要
(2)繰り上げ返済には2パターンある
繰り上げ返済とは、ローンの借入期間中に元本を返済することです。元本を全額返済するなら「一括繰り上げ返済」となり、元本の一部を返済するなら「一部繰り上げ返済」となります。
たとえば、5,000万円の不動産投資ローンを借入期間30年で組んでいる場合、以下が一括繰り上げと一部繰り上げのパターンです。
なぜ繰り上げ返済するかというと、元本を返済することで、返済負担を軽くすることが目的です。なお、上記の5年後というのは例であり、借入期間中であれば何年後でも繰り上げ返済になります。
一般的に繰り上げ返済というと「一部繰り上げ返済」を指す場合が多いですが、一部繰り上げ返済には以下2パターンあり、それぞれ特徴があります。
繰り上げ返済方法 | 返済期間 | 毎月の返済金額 | 利息軽減 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
期間短縮型 | 短縮 | 変わらず | 大きい | 総返済額が大きく減る |
返済額減額型 | 変わらず | 減額 | 小さい | 毎月支払額が減る |
期間短縮型とは、繰り上げ返済して元本が減った分、借入期間を減らす方法です。
何年短縮できるかは、当初の借入金額と繰り上げ返済する金額、そして繰り上げ返済した時期によって異なります。
ただ、期間短縮型の場合には借入期間は短縮しますが、毎月の支払額は変わりません。
一方、返済額減額型とは、借入期間はそのままで毎月の返済額が減額される方式です。
ただ、毎月の支払額は減りますが借入期間は変わらないので、総返済額は「期間短縮型」よりは減りません。
期間短縮型と返済額減型で、どのくらい総支払額は減るのか?などのシミュレーションは後述します。
前項で繰り上げ返済の仕組みが分かったと思いますので、次は繰り上げ返済するメリットである以下を解説していきます。
(1)返済期間の短縮による負担減(期間短縮型)
(2)返済額の減額によるキャッシュフローの改善(返済額減額型)
(3)頭金の調整ができる
まず、繰り上げ返済で期間短縮型を選んだ場合には、「総返済額の負担減」というメリットがあります。
一般的に、「期間短縮型」を選んだ方が利息(総返済額)も減額されるので、期間短縮型を選択する人の方が多いでしょう。
たとえば、「借入期間30年・借入金額5,000万円・金利2.5%」という条件でローンを組むとします。そして、以下のように繰り上げ返済すると、返済期間と総返済額がどのくらい変わるのか見てみましょう。
経過年数 | 繰り上げ返済額 | 短縮される期間 | 減額される総返済額 |
---|---|---|---|
5年 | 500万円 | 3年8か月 | 3,807,338円 |
7年 | 700万円 | 4年10か月 | 4,557,839円 |
10年 | 1000万円 | 6年1か月 | 5,034,952円 |
このように、短縮される期間と減額される総返済額が大きいことが分かります。
次に、返済額減額型を選んだときのメリットは、毎月の支払額が減るためキャッシュフローが改善するという点です。
この点については以下の2つを知っておきましょう。
①繰り上げ返済したときのシミュレーション
②キャッシュフローの改善とは?
まずは、期間短縮型と同じように「借入期間30年・借入金額5,000万円・金利2.5%」という条件で繰り上げ返済したときのシミュレーションは以下の通りです。
経過年数 | 繰り上げ返済額 | 減額される毎月返済額 | 減額される総返済額 |
---|---|---|---|
5年 | 500万円 | 22,761円 | 1,691,609円 |
7年 | 700万円 | 33,924円 | 2,159,448円 |
10年 | 1000万円 | 54,038円 | 2,645,000円 |
このように、期間短縮型よりは減額される総返済額は小さいものの、毎月の返済額が減額されていることが分かります。
返済減額型を選択すると、毎月の返済額が減るため家計の収支に余裕ができます。
たとえば、上記のように「10年後に1,000万円」繰り上げ返済することで、毎月のローン支払額は5.4万円減っています。
つまり、毎月キャッシュフローが5.4万円改善しているということです。
そのため、1,000万円を手元から失うのか?毎月5.4万円のキャッシュフロー改善(+総返済額の減額)をするのか?のどちらを優先させるかが、繰り上げ返済するかどうかの基準となるでしょう。
繰り上げ返済の仕組みを知っておくことで、頭金の調整ができるというメリットもあります。詳しくは後述しますが、繰り上げ返済の手数料は金融機関によってマチマチです。
仮に、繰り上げ返済の手数料を加味して金融機関を選んだことで、比較的安い手数料で繰り上げ返済できる金融機関でローンを組んだとします。
そのような金融機関を選べば、「後から安い手数料で繰り上げ返済できるから、とりあえず頭金は少なめで手元に資金をストックしておく…」という選択肢が生まれるのです。
つまり、資金を手元に残しておくか、手持ち資金を頭金として入れるのかを、自分の都合で選択できるというわけです。
「頭金なしでも不動産投資」に関しては下記でも解説していますので参照してみてください。
関連記事:頭金なしでも不動産投資できる?最新の融資情報と合わせて解説
一方、繰り上げ返済には以下のデメリットもあります。
(1)手数料がかかる
(2)金利タイプによっては繰り上げ返済できない
(3)手元資金が減ってしまう
(4)金融機関との関係が悪化することがある
1つ目のデメリットは、繰り上げ返済には手数料がかかるという点です。
上述したように、金融機関によって手数料は異なります。たとえば、住信SBIネット銀行の不動産投資ローンだと、手数料は「繰り上げ返済額×返済額の3.143%(消費税込)」です。
つまり、1,000万円の繰り上げ返済をした場合には、「1,000万円×3.143%=約31.4万円」も手数料がかかってしまいます。
それでも、繰り上げ返済した方が総支払額は減るので得することは多いですが、この手数料率はきちんと理解しておかなければいけません。
一方、楽天銀行の場合は繰り上げ返済手数料が無料です。もちろん、不動産投資ローンを組むときの金融機関選びは、繰り上げ返済の手数料よりも金利やサービス内容の方が重要です。
しかし、いざ繰り上げ返済するときに高額な手数料がかかると、繰り上げ返済するメリットが小さくなるので、金融機関を選ぶときに「繰り上げ返済手数料」も確認しておいた方が良いでしょう。
金利タイプによっては繰り上げ返済できないこともあります。
たとえば、三井住友銀行の不動産投資ローンは、固定期間中の繰り上げ返済は一部返済も全額返済もできません。
仮に、固定3年など固定期間が短ければ良いですが、固定10年など長期間でローンを組んでいる場合には、繰り上げ返済したいけどできない…という状況になり得るでしょう。
そのため、手数料と一緒に繰り上げ返済できない条件はあるか?という点も確認しておくことをおすすめします。
そして、繰り上げ返済することで手元資金が減ってしまう点はデメリットです。
①不動産投資は突発的な支出がある
②プライベートでの支出も加味するこの点については以下を知っておきましょう。
結論からいうと、上記の支出を加味して、手持ち資金が減っても問題ないと判断したときだけ繰り上げ返済しましょう。
不動産投資をしていると以下のような突発的な支出があります。
・退去時の原状回復費用
・設備の修理や交換費用
・共用部の修繕費用(1棟投資の場合)
これらの費用は、いつ・いくらかかるか分かりません。そして、場合によっては家賃収入では賄えない金額になり、手持ち資金から捻出せざるを得ない場合もあるのです。
そのようなときに、繰り上げ返済をして手持ち資金を減らすのはリスクといえるでしょう。
また、不動産投資だけでなくプライベートでも、以下のようにライフステージに応じて支出があります。
・子供の教育関連費用
・家族や自分自身の病気や事故
・親の介護など
要は、突発的な支出は前項に限らず、プライベートでも発生する可能性があります。そのため、上記の点も加味した上で、繰り上げ返済すべきか?繰り上げ返済するならいくらが適性か?の検討が必要です。
また、不動産投資ローンで繰り上げ返済すると、金融機関との関係が悪化することがあります。
なぜなら、不動産投資ローンは住宅ローンと違い、事業への融資に近いからです。金融機関は継続的に金利を回収しつづける前提で融資しているので、受け取る金利の総額が少なくなる繰り上げ返済は避けたいと考えます。
つまり、繰り上げ返済するのは金融機関からすると歓迎すべきことではないので、今後の融資を積極的にしたい相手ではなくなる可能性があります。
同じ金融機関で融資を受けつづけて物件拡大を狙う人にとっては、金融機関との関係が悪化するのはデメリットなので気を付けましょう。
繰り上げ返済は期間短縮型と返済額減額型の2種類あり、それぞれ特徴やメリットが異なります。
まずは、そのメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。また、繰り上げ返済手数料は金融機関によって異なるので、その点にも注意して金融機関を選ぶ必要があります。