不動産投資は安定的に家賃収入を得ることができる魅力的な投資方法です。
しかし、不動産経営をしていく中で家賃収入を得ることができる反面、様々な「諸経費」がかかります。諸経費を差し引いても収支をプラスにしなければ不動産投資は成功とは言えません。
また、正しく「経費」を計上することは税金を計算するうえでも重要な要素です。
経費をしっかりと計上しているか否かで、同じ家賃収入を得ていても手取り額が大きく変わることになります。つまり、不動産投資における経費についていかに正しく認識するかが非常に重要なことと言えます。
本記事では不動産投資に必須のスキルである経費について解説します。これから不動産投資について勉強される方、確定申告で経費の計上を悩まれている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
そもそも「経費」とは、継続的に行なっている事業に対してかかる費用です。
会社であれば、PCやタブレットなどの業務に必要な機械や、プリンターの用紙や書類に貼る付箋などの消耗品、営業に行く際の交通費等も経費として計上します。
経費を正しく把握することで、収入に対していくらのコストをかけていたかを把握でき、実際の利益額を算出できます。
また、経費は税金の支払いにも影響を及ぼします。不動産投資で得た不動産所得は、所得税の対象となり、所得=収入-経費で計算するため、収入が同じであれば経費が多いほど所得が圧縮され税金を抑えることができます。
とは言え、不動産経営とは関係ないプライベートでの出費を経費として計上すると脱税に繋がりますので、不動産投資をするうえで何を経費として計上できるのか、何を経費として計上できないのかを理解することが重要です。
では、不動産投資において認められる経費とはなんでしょう。
大きく分けて以下5つのカテゴリになります。
不動産の取得に必要な経費
不動産の維持に必要な経費
不動産を取得、所有している時の税金
賃借人募集に関する費用
その他の費用
それぞれについて解説していきます。
不動産の取得時には以下の3つを経費として計上できます。
仲介手数料
不動産の登記費用や司法書士の報酬など
融資を受ける時の事務手数料
それぞれについて解説します。
不動産の取引には「売主」「仲介」などの取引形態によって、仲介手数料を支払うケースと支払わなくてもいいケースがあります。
不動産会社が仲介として入る場合は、成功報酬として仲介手数料を支払う必要があり、経費として計上できます。仲介手数料は下表の式にて計算することができます。
なお、宅建業法上では下表に記載されている料率が上限であることだけ定めており、不動産会社と交渉することで減額も可能です。不動産会社さえよければ仲介手数料ゼロ円でも問題ありません。
仲介した物件価格 (消費税などを含まない価格) | 依頼者の一方から受領できる 仲介手数料の上限額 |
---|---|
200万円以下の金額部分 | 5.5%(上限11万円) |
200万円を超え400万円以下の金額部分 | 4.4%(上限8万8千円) |
400万円を超える金額部分 | 3.3% |
※仲介手数料は消費税の課税対象なので、別途消費税がかかります。
参照:国土交通省
不動産の売買代金が400万円を超える場合は、200万円以下の部分と、200万円超400万円以下の部分と、400万円超の部分にわけてそれぞれ計算しますが、実際に計算する際は速算式として「取引額(物件価格)×3%+6万円」で計算できます。
なお不動産会社が売主の場合、直接取引となるため仲介手数料はかかりません。
不動産を取得した際には、不動産登記を行う必要があります。
不動産登記には、不動産の所有権などの権利関係がどのような状況となっているかを対外的に示す役割があります。
登記手続きは自分でも行えますが、一般的には専門家である司法書士に一任するケースがほとんどです。物件の規模によっても異なりますが、一般的には10万円前後が1つの目安です。
その際、不動産の登記費用及び司法書士に支払った報酬は経費として計上できます。
不動産の購入で融資を受ける際にかかる事務手数料は経費として計上できます。
事務手数料は借入をする金融機関によって金額が異なりますが、借入金額の1%以上かかる金融機関が多いため、比較的大きな負担になると言えます。
正確な金額については金融機関に確認するようにしましょう。
不動産は長期間保有するため、維持費用がかかります。不動産の維持に必要な経費は以下の5つです。
管理費・修繕積立金
賃貸管理費
火災、地震保険などの保険料
減価償却
ローンの金利
長期間経過したことによる経年劣化だけではなく、台風や地震などの天災地変への対策も行う必要があります。
不動産にはどのような維持費用がかかり、経費として計上できるのか確認しておきましょう。
区分マンションを所有している場合、毎月管理費と修繕積立金を支払わなければなりません。
管理費とは、マンションの清掃やマンション維持に関する庶務を行なってくれる管理会社に対しての報酬や、共用部の電気代などに充てられる費用です。
修繕積立金とは、10年〜15年に1回程度のマンションの大規模修繕に備え、毎月積立する費用です。
管理費・修繕積立金は経費として計上可能です。
賃貸管理費とは、所有している不動産の賃貸管理を管理会社に任せている場合に発生する費用です。
賃貸管理会社が行う管理業務は、以下の通りです。
入居者募集や契約
更新の手続
家賃滞納時の集金
一般的には賃貸管理費は家賃の5%と設定している管理会社が多いですが、最近では家賃に関係なく定額で設定している管理会社も増えています。
賃貸管理内容なども含め、複数社で比較検討すると費用を抑えることができます。
火災、地震などの自然災害リスクの回避策として、火災保険やそれに付帯する地震保険特約などに加入することが重要です。
保険は「いざという時の助け」になりますが、何も起きなければ保険料は捨てるのと同じです。よって、必要な保険なのかどうかをよく検討してから加入するようにしましょう。
不動産投資のために購入した建物は、購入時に一括でお金を支払いますが、建物の価値は少しずつ下がっていきます。
その下がっていく価値を経費として計上できる会計上のルールが「減価償却」です。減価償却費は購入時に支払った代金を築年数に合った償却率で算出し、計上します。
一方、土地は年数が経過しても劣化することはないため、減価償却の対象外です。
不動産を取得するために借り入れたローンの金利負担部分は、経費として計上できます。
ただし、ローンの元本部分については経費にできないため注意しましょう。
融資期間中の物件の売却なども十分考えられますので、借入時に一括して経費として計上するのではなく、返済期間中継続して経費として計上できます。
不動産を取得、保有する際にかかる様々な税金を経費として計上することができます。
経費に計上できる税金は以下のとおりです。
不動産取得税
登録免許税
固定資産税
印紙税
それぞれについて解説します。
不動産取得税とは、不動産を取得した際にかかる税金です。一度のみ支払う税金になります。
大体不動産を購入してから6ヶ月前後に、不動産が所在している市町村から「納税通知書」が届きますので、期日までに納税しましょう。
不動産取得税は「取得した不動産の価格×税率」にて算出することができます。東京都の税率は下記のようになっています。
取得日 | 土地 | 家屋(住宅) | 家屋(非住宅) |
---|---|---|---|
平成20年4月1日から 令和6年3月31日まで | 3/100 | 4/100 |
出典:東京都主税局
なお、令和6年3月31日までに宅地などを取得した場合は、当該土地の課税標準額は「価格の1/2」になるなどの特例もあります。詳しくは知りたい方は不動産所在地のHPよりご確認ください。
登録免許税とは不動産を購入し、土地や建物を登記した際にかかる税金です。そのほかにも、抵当権設定時や抹消時、住所変更時などにかかります。
税率については下記国税庁のデータよりご確認ください。
(1)土地の所有権の移転登記
内容 | 課税基準 | 税率 | 軽減税率(措置72) |
売買 | 不動産の価額 | 1,000分の20 | 令和5年3月31日までの間に登記を受ける場合1,000分の15 |
相続、法人の合併 又は共有物の分割 | 不動産の価額 | 1,000分の4 | ー |
その他 (贈与・交換・収用・競売等) | 不動産の価額 | 1,000分の20 | ー |
(2)建物の登記
内容 | 課税標準 | 税率 | 軽減税率(措法72の2~措法75) |
---|---|---|---|
所有権の保存 | 不動産の価額 | 1,000分の4 | 個人が、住宅用家屋を新築又は取得し自己の居住の用に供した場合については別に軽減税率あり |
売買又は競売による所有権の移転 | 不動産の価額 | 1,000分の20 | 同上 |
相続又は法人の合併による所有権の移転 | 不動産の価額 | 1,000分の4 | ー |
その他の所有権の移転 (贈与・交換・収用等) | 不動産の価額 | 1,000分の20 | ー |
出典:国税局
なお、司法書士に登記を依頼する際には、司法書士への報酬は経費に算入できます。
固定資産税とは、1月1日時点の不動産所有者に課税される税金です。
固定資産税は固定資産税評価額に一定の税率をかけ合わせて計算します。
不動産取得税や登録免許税とは違い、取得時に一度だけかかるのではなく、毎年支払う必要があるため注意しましょう。
印紙税とは、印紙税法で定められた文書に添付する必要がある収入印紙の代金です。
不動産取引では、売買契約書や賃貸借契約書などの各種契約書を作成する際に収入印紙を貼付する必要があります。
印紙代は契約書の種類や契約金額によって異なりますが、全て経費として計上可能です。金額の目安は下記国税庁の表を参考にしてみてください。
記載された契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満のもの | 非課税 |
1万円以上 10万円以下のもの | 200円 |
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1,000円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2,000円 |
500万円を超え 1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
出典:国税局
賃借人を募集するためには、広告をかけるケースもあります。
賃借人募集するために必要なインターネット上の広告や新聞折り込み、チラシ作成などの広告宣伝費は、経費として計上可能です。
また、不動産を運用するためには様々な知識が必要です。知識習得のための書籍購入代やセミナー参加費も経費として計上できるため、領収書はしっかり保管しておきましょう。
不動産の運営には細々とした費用もかかります。代表的な費用は以下の3つです。
交通費
交際費
通信料
それぞれ見落としがちになる経費なので、見落とさないようにしましょう。
不動産の調査や購入、管理する際に必要になる交通費の一部は経費として計上できます。交通費として計上できるものは以下の通りです。
公共交通機関を利用した時の運賃
車のガソリン代
車を停めるための駐車場代
ホテルの宿泊費
なお、交通費として計上できるものは不動産投資に関係する内容のみです。個人や家族での旅行に関する交通費は経費に含まれないので、注意しましょう。
不動産投資では、顧客や不動産会社の担当者と食事をした場合の飲食代も経費として計上できます。
また、打ち合わせのために喫茶店やカフェなどを利用した場合は、会議費として計上可能です。
個人の食事、友人や家族との食事は経費として認められません。また、日常の交際費も費用として認められないため「不動産投資に関するもの」「日常に関するもの」の区別をつけておきましょう。
不動産投資では、物件に関する情報収集や不動産管理会社と連絡を取るために、スマートフォンやパソコン等を使用することで、通信費がかかることが想定されます。そのため、通信料も経費として計上できます。
また、不動産投資に関するアプリ購入やスマートフォンやパソコンの購入費も経費として計上できます。
ただし、不動産投資のために使用した通信費のみが経費として計上されるので、注意が必要です。
ここまで経費として計上できるものを紹介しましたが、経費として計上できないものはどのような物があるのでしょうか。
ここからは、経費として計上できない「日常生活に必要であるもの」「罰金・反則金」について解説します。
不動産の運営には関係ない、日常生活に必要であるものは経費として計上できません。
例えば、自分が住んでいる家の電気代や水道代などです。領収書をもらえば全て経費として計上できるわけではありませんので注意しましょう。
罰金や反則金は、不動産の運営に関するものであっても経費として計上できません。
例えば運営しているマンションのメンテナンスをするために、一時的に路上駐車をし、駐車違反として罰金を支払った場合などです。
このようなケースでは不動産に関連する支出になりますが、経費として計上できません。「不動産投資における節税方法」に関しては下記でも解説していますので参照してみてください。
確定申告に備えて年末までに経費の整理をするようにしましょう。上記にて紹介した経費をエクセルなどでカテゴリごとに分けることによって、確定申告する際にはかなりスムーズになります。
最後に、実際に確定申告を進める4つの手順を解説します。
確定申告が何色に当たるのかを確認する
確定申告に必要な書類を集める
集めた書類に必要な書類事項を記入する
確定申告書を提出
それぞれについて解説します。
まず初めに、確定申告の方式が「青色申告」「白色申告」のどちらかを確認する必要があります。
青色申告では、申告承認申請書を確定申告時に提出することで、特別控除や損失の繰り越しを行えます。白色申告では、申請書類の準備は楽ですが、青色申告で受けられる特例は適用外ですので、できるだけ青色申告を選択しましょう。
確定申告をどの方式で進めていくのかを決めた後は、確定申告に必要な書類を集める必要があります。
確定申告に必要な書類は以下の通りです。
売買契約書
固定資産税の納税通知書
火災保険や地震保険の証券
修繕した場合の見積書や請求書
借り入れしていた場合は返済予定表
その他の費用を計上するために必要になる領収書
源泉徴収票
賃貸契約書
不動産投資に関する領収書は、税務調査が入った時の証明になるため、基本7年間必ず保管しておきましょう。
確定申告に関する書類を集めた後は、必要事項を記入しましょう。
必要事項を記入する際は、できるだけ最新の情報を記入するようにしてください。最新情報でなければ、確定申告書を提出した後に大幅な修正を求められてしまいます。
青色申告を選択した場合は、以下の書類を作成・添付する必要があります。
これらの申請書は国税庁のサイト内で取得できます。記入方法のサンプルもありますので、記載の仕方が分からない方はそれを参考にしてみてください。
確定申告に関する必要事項を記入し終えたら、税務署に提出しましょう。
提出方法は以下の通りです。
e-Taxで提出
郵送する
直接持参する
なお提出方法に関してですが、初めての方は直接持参することをオススメします。なぜなら、初めての場合は、書類の記載ミスが多く修正が必要になるケースが多いためです。
直接持参した場合は、税務署の担当者の指示に従いその場で修正できるため、スムーズにやり取りが可能になります。
何度もされている方でしたら、ご都合のいい方法で提出するといいでしょう。
本記事では、不動産投資における「経費」について解説しました。
不動産投資で得た利益は所得税の対象になりますので、いかに経費を差し引くことにより節税効果を得られます。
そのため、正しく漏らさず経費を計上することが重要です。
不動産にかかる費用は幅広く経費として計上できるため、ご自身で判断できない場合は税理士等の専門家に相談するといいでしょう。