さまざまな投資の中でも、比較的知名度の高いジャンルが「不動産」です。不動産投資においては路線価の上下が大きな鍵を握るといえるでしょう。そして、2020年7月には5年連続の上昇傾向を示しました。
投資家には情勢に合わせた判断が求められます。この記事では、不動産投資における「路線価」の意味と、今後の影響を解説します。
そもそも路線価とは「主要道路に面している宅地1平方メートルあたりの評価額」を指す言葉です。土地の価格には何種類かあり、国土交通省が発表する「公示地価」、都道府県が発表する「基準地価」などが代表的です。
そして、毎年7月になると国税庁が発表する価格が路線価です。なお、路線価における「主要道路」には私道を含みません。あくまでも不特定多数の人々が自由に利用できる道路のみを指します。
路線価には2種類種類があり、下記になります。
このうち、固定資産税路線価は、文字通り固定資産税を算出するときに用いられる数字です。一方、相続税路線価は相続税や贈与税を算出するときに用いられます。
一般的に、「路線価」と使われる際には相続税路線価を意味していることが大半です。ただ、固定資産税路線価を表しているケースもゼロではないので、文脈から正しい判断を下すように注意しましょう。
路線価は公示地価や不動産鑑定士による評価額など、さまざまな要素を参考にしながら決定される額です。あくまでも目安として、公示地価の8割程度だとされています。そのため、毎年3月に公示地価が発表された時点で、不動産投資家たちはある程度路線価の変動を予測することが可能です。
もちろん、これはあくまでも予測なので、7月になってから大きく額が変わることもありえます。なお、路線価から相続税、贈与税を計算するときには、申告年度の額を利用しません。相続や贈与があった年の額に基づいて計算を行うのがルールです。
不動産投資において、路線価が上がることのメリットと、デメリットがあります。
まず、大きなメリットは「売却額が高くなる」ことです。路線価に限らず、公示地価や鑑定士の評価額など、土地の価格が高くなれば高くなるほど売主の獲得する利益は大きくなります。所有している土地を売ろうとしていたり、転売を望んでいたりする人にとっては追い風が吹いている状態だといえるでしょう。
また、路線価が上昇しているということは「ピークアウト」に近づいている状態を意味します。不動産投資においては、土地の価値が最高潮まで高まった時期を見図らなくてはなりません。このタイミングがピークアウトです。路線価の上昇は、土地のピークアウトを知るうえでの重要な基準となります。
一方で、土地を継続的に所有したい人からすれば、上昇する路線価の影響がデメリットに傾きかねません。土地の価格が高くなれば、それだけ課せられる税金の額も大きくなるからです。固定資産税、相続税、贈与税などがかさみ、どのような形であれ土地を管理する負担が大きくなっていくでしょう。
さらに、地方と都心で路線価の上下に伴う影響は変わってきます。多くの場合、都心に近づくほど路線価も高くなっていくので、上昇すればするほど土地を所有し続けていくことは難しくなっていきます。
路線価が上がっていることは、それだけ土地の価格が上がっている状態です。
そこで、路線価の上昇した土地を手放そうとする投資家も少なくありません。将来持っている土地や物件を相続する際に多額の税金を支払うくらいなら、予め現金化しておくという選択を取ることもできます。
2020年は東京オリンピック開催が近づき、路線価がピークアウトしつつある状況も生まれました。2021年までに土地を売りたいと思っている投資家はたくさんいるようです。
2020年7月1日、国税庁の発表によると、全国約32万地点の標準宅地における路線価は、平均で前年度から1.6%の上昇を見せました。これで路線価は5年連続で上昇傾向を示したことになります。
その背景には、訪日外国人をターゲットとしたインバウンド事業の活性化、地方の再開発といった施策が挙げられます。本来であれば、路線価の上昇は不動産投資が積極的に行われている状況の反映でもあるので、投資家たちにとっては望ましい事態だといえるでしょう。
しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大が世界中で起こったことにより、状況が一変してしまいました。コロナ禍の影響は日本でも例外ではなく、4月7日から1カ月以上にわたり緊急事態宣言が発令されるなど、経済は深刻な打撃を受けました。
そして、5月には外国人の訪日が前年度の99.9%減を記録するなど、観光産業にも傷跡を残してしまったのです。
すなわち、路線価は高まっているにもかかわらず、不動産投資の根拠になりえたはずのインバウンド事業がかつてないほど収縮している状態が続いています。投資家は路線価の高くなった土地を売買しにくくなっています。
コロナ禍が完全に収束するまでの目途が立たない以上、不動産投資の世界では静観が続いてきました。需要が戻るには数年かかるとの説も流れています。
ただし、国税庁はコロナの影響を考慮して、路線価の減額修正を本格的に検討し始めました。緊急事態制限の解除を受けて、インバウンド事業回復に向けた水面下の動きも出てきています。「不動産投資そのものが不可能」とまでは断定しにくいでしょう。
コロナ禍において、いつ収束するかわからない状況から不動産投資が例年よりも難しくなっているのは事実としてあります。しかし、取引がまったく行われていないわけではありません。
税金などで大きな負担がのしかかってくるようなら、適切な買主を見つけて売却することを検討してみましょう。路線価が購入時よりも高くなっているようなら、取引を成立させれば投資額を黒字にすることも可能です。
投資物件をうまく売却するコツは、「隣接する土地のオーナーに話をつける」ことです。一棟物件などの持ち主であれば、隣家に「土地はいらないか」と持ちかけてみるのもひとつの方法です。
人によっては「さらに家を大きくしたい」「駐車場や賃貸物件を作りたい」などの希望を持っています。まったく知らない買主を一から探すより、すぐに商談がまとまる可能性もあるのです。
次に、「地域のコネクションが豊富で太い業者を探す」ことです。不動産投資においては、仲介業者が売主のパートナーになってくれます。実績が多く、買主からの信頼の厚い業者と組めれば不動産取引は成功しやすくなります。
そして、「すぐに金額を妥協しないこと」も重要です。現金が必要になる税金の支払いなどの問題が目前にまで差し迫っていると、「低価格でもいいので早く投資物件を売却したい」という考えが生まれることも少なくありません。
ただし、不動産投資はかなり額の大きい取引です。せっかく巨額を投じて投資物件を購入したにもかかわらず、安値で売却してしまえば投資者は大損をしてしまうこととなります。需要のある相手さえ見つければ、コロナ禍であっても高値で売却できる可能性は残されています。最初から取引をあきらめず、適正価格での売却にある程度はこだわってみましょう。
経済状況が悪化している時期には、「余計な投資を抑えたい」「大きな買い物をしたくない」と考える人も多いでしょう。しかし、このような時世だからこそ、不動産投資には大きな意味があるという考え方もあります。
なぜなら、不動産は利用方法次第で大きな利益をもたらしてくれるものだからです。一棟物件に投資するのがきびしい状況でも、区分マンションの1室など、資金力に見合った投資をしてみるのは得策です。そして、投資した物件を人に貸すことで、安定した収入源を確保できます。
いくら不景気であっても賃貸需要があり続けるは地域は意外と多い点にも注目です。例えば都心5区と言われる千代田区、港区、渋谷区、新宿区、中央区などはその代表例です。交通の便が良かったり、都心から近かったりする土地に賃貸物件を建てれば高確率で借手を見つけることができます。通常であれば、それほど条件のそろっている土地にはライバルが多いので、ベテラン投資家でないと先回りして購入できないといえます。
しかし、コロナ禍で多くの投資家が静観をしているときこそ、平常時では手を出せなかった掘り出しものが余ることもありえるのです。こうした土地は路線価が高かったとしても世間の目につきやすいので、投資先としては理想的です。
2020年7月発表の路線価が上昇したことにより、不動産投資家の中にはネガティブに考えている人もいます。しかし、逆をいえばライバルが減って魅力的な物件を探しやすくなっているともいえます。
また、いかなる時期であっても不動産物件から需要そのものが消え去るわけではありません。資金力がなかったとしても区分マンションに投資するなど、自分に合った投資の方法はあります。
ご自身にあった投資物件を選択して行くことが大事でしょう。