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2020年度の住宅金融支援機構の改正で不動産投資はどのように変わるのか

2020/08/06
2020年度の住宅金融支援機構の改正で不動産投資はどのように変わるのか

住宅金融支援機構と言えば、マイホームを購入する際に資金の融資を受ける機関であると考えられがちですが、実は不動産投資で収益物件の購入や建築を行う際にも利用できます。

 しかし、不動産投資を行う際に住宅金融支援機構を不正利用するケースが相次いだため、2020年4月に、住宅金融支援機構の金融商品である「フラット35」の改正が行われました。 ここでは、住宅金融支援機構とフラット35の改正点などについて詳しく解説していきます。

住宅金融支援機構とは

住宅金融支援機構とは、住宅金融市場における安定的な資金供給を支援し、住生活の向上への貢献を目指す独立行政法人のことで、旧住宅金融公庫の業務を継承しています。

一般の金融機関に住宅を建設する場合に必要な資金の融資を支援するための貸付債権の譲受け等の業務を行うとともに、一般の金融機関による融資を補完するための災害復興建築物の建設等に必要な資金の貸付けの業務を行います。

これらの業務を行うことにより、住宅の建設等に必要な資金の円滑かつ効率的な融通を図り、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与します。

一般的に利用されることが多いのは、民間の金融機関と提携し提供される、「フラット35」で、省エネ住宅などの質が高い住宅の普及を推進する機関です。

参考:https://www.jhf.go.jp/about/organization/outline.html

住宅金融支援機構の2020年度の改正点

続きまして、具体的に2020年度に改正された住宅金融支援機構の改正点について解説していきます。

フラット35とは

フラット35とは、全国の金融機関が住宅金融支援機構と提携して扱う全期間固定金利型住宅ローンのことです。

基本的に、申し込んだ本人またはその親族が居住する新築住宅の建設または購入資金、中古住宅の購入資金に利用するものですが、フラット35の種類によっては第三者に賃貸する目的の投資用物件に利用することも可能です。

また、フラット35Sという金融商品もあり、省エネルギー住宅や耐震性の高い住宅を取得する場合に利用することができ、借入金利を一定期間引き下げることができます。

2020年度にフラット35が改正された理由とは

フラット35の最大の特徴は、返済期間中に金利が一切変動しないという点です。

そのため、フラット35を不動産投資に利用することで、金利変動リスクを気にする必要がなくなります。

しかし、フラット35は原則として申込者自身やその親族が居住する住宅の取得に利用するものです。

このフラット35を不動産投資に不正利用する例が相次いだため、2020年度にこの制度が改正される運びとなりました。

2020年度のフラット35の改正点

2020年度のフラット35の改正点には、次のようなものがあります。

①総返済負担率の算定に含める借入金の対象の一部見直し

総返済負担率とは、年収に対してどの程度借入金の返済を行っているかの割合を示した数値のことです。

2020年度のフラット35改正では、賃貸予定または賃貸中の住宅に関わる借入金額の返済額を、年間合計返済額の対象に追加することになりました。

これまではフラット35、フラット35以外の住宅ローン、マイカーローン、教育ローン、カードローンが総返済負担率に含まれる借入金の対象でしたが、ここに賃貸予定または賃貸中の住宅に関わる借入金額が加わるようになります。

ここでいう賃貸予定または賃貸中の住宅とは、区分マンション・アパートのことで、一棟アパート・マンションは含まれません。

②資金用途がセカンドハウスの取得の場合の取り扱いを一部見直し

これまでのフラット35の制度では、自宅以外に週末などに利用するセカンドハウスの購入にも利用できていました。

しかし今回の改正で、すでにセカンドハウスの購入のためにフラット35を利用している場合、別のセカンドハウスの購入にはフラット35を利用できなくなります。

注意しなければならないのは、フラット35を返済中のセカンドハウスを第三者に貸し出すことが認められていないという点です。

もし、この第三者への賃貸が発覚した場合には、フラット35の残額を一括返済しなければなりません。

③フラット35の借換え融資の借入期間の一部見直し

フラット35には通常の借り入れ以外にも、借換えを行いたい人のための「フラット35借換融資」という金融商品が用意されています。

今回のフラット35の改正で、フラット35借換融資の借入期間が一部変更になりました。

借換融資の期間は、以下の基準で決められます。

  1. 35年―住宅取得時に借り入れた住宅ローンの経過年数(一年未満切り下げ)
  2. 80歳―借換融資の申し込み時の年齢(一歳未満切り上げ)

改正以前はこの二つの基準のうち、いずれかが15年または15歳より短くなる場合には借換融資を利用することはできませんでしたが、この2で計算された年齢が15年より短くなる場合には、その年数を上限として借入期間の設定が可能になりました。

ただし、この場合の下限は1年となっています。

参考:https://www.flat35.com/files/400352273.pdf

住宅金融支援機構の不動産投資に利用できる融資の種類とその特徴

フラット35は、基本的に申込者自身またはその親族が居住するための住宅を取得するために利用できる制度です。

しかし、不動産投資を目的とした収益物件の取得に利用できる種類のフラット35も存在します。

ここでは、収益物件の取得に利用できるフラット35の種類とその特徴について解説していきます。

子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資

子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資の特徴は、以下のようなものです。

①長期固定金利

準耐火構造であれば、木造軸組工法または2×4工法などの賃貸住宅でも返済期間を35年に設定できます。

②条件により自宅を含めた融資が可能

自宅を含めた賃貸住宅を取得する際にも、子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資を利用することが可能です。

ただし、自宅または店舗などの延べ面積を建築物全体の四分の一以下とするなどの条件があります。

65歳未満であれば保証人なしで利用が可能

65歳未満であれば、原則として保証人なしで利用できます。

ただし、審査の結果によっては連帯保証人の追加が必要になったり、融資を断られたりすることもあります。

④住宅金融支援機構が承認している保証機関の利用が可能

連帯保証人を追加する代わりに、住宅金融支援機構が承認している保証機関を利用することが可能です。

この場合は別途保証料が必要となり、また保証機関の審査の結果によっては利用できないこともあります。

参考:https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/syoenechintai/index.html

サービス付き高齢者向け賃貸住宅建設融資

サービス付き高齢者向け賃貸住宅建設融資の特徴には、以下のようなものがあります。

①長期固定金利

最長35まで返済期間を設定することができ、またこの時点で融資金利と返済額が決まるため、金利上昇リスクを回避することが可能になります。

金利タイプには、35年固定金利と15年固定金利の二つの種類があります。

②返済期間は最長35

準耐火構造であれば、木造軸組工法または2×4工法などの賃貸住宅であっても、最長35年の返済期間を設定することが可能です。

③元金据え置き期間の利用が可能

借り入れを行った当初から一年間は、元金の返済を据え置きし利息分の支払いのみを行うことができます。

これにより、借り入れから一年間の返済額の負担を軽減することが可能になります。

④建築事業費の100%までを融資対象とすることができる

原則として賃貸住宅部分の取得費用が融資の対象となりますが、デイサービスなどの住宅用ではない施設等の部分の延べ面積が建物全体の延べ面積の四分の一以下であれば、建物全体を融資対象とすることができます。

⑤建築予定地が借地であっても借り入れができる

建築予定地が借地の場合でも、融資の利用が可能です。

ただしこの場合には、融資の対象となる土地に登記された借地権に、住宅金融支援機構のための第一順位の質権を設定する必要があります。

参考:https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/schintai/index.html

まちづくり融資(長期建設資金)

まちづくり融資(長期建設資金)の特徴には、以下のようなものがあります。

①返済期間を最長35年までに設定できる

融資の実行後1年単位で設定することができ、最長35年まで設定できます。

②賃貸住宅の建設資金・購入資金のどちらの場合でも利用できる

賃貸住宅の建設資金、購入資金のどちらの場合でも利用することが可能です。

ただし、建設資金の場合には参加組合員、権利者、共同で建築する人などが事業の当初から参画して賃貸住宅事業または自社使用することを目的として保留床を取得するために必要となる資金であることという条件が課せられます。

また、購入資金として利用する場合には、賃貸住宅事業または自社使用することも目的として、増床などを取得するために必要となる資金として利用することが条件となります。

③融資金の返済方法の選択が可能

融資の返済方法を、元利均等方式と元金均等方式のいずれかを選ぶことができます。

④連帯保証人を付ける必要があることもある

十分な保証能力がある法人または個人を、連帯保証人としてつける必要が生じる場合があります。

住宅金融支援機構が承認する保証機関を利用することも可能です。

参考:https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/machizukuri_tyoki.html

住宅金融支援機構のフラット35を不動産投資に利用するメリットとデメリット

フラット35を不動産投資に利用する場合には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット

フラット35を不動産投資に利用する場合には、以下のようなメリットがあります。

①固定金利であるため毎月の金利上昇リスクがない

借入期間の金利が一定であるため、金利上昇リスクを回避できます。

②返済期間が最長35年と長い

返済期間を最長35年まで設定できるため、月々の返済額を低く抑えることが可能になります。

③自宅の建築費用を含めた金額の融資を受けることができる

自宅部分の延べ面積に制限はありますが、自宅を含めた建築費用または購入費用の融資を受けることができます。

65歳未満であれば基本的に保証人なしでローンを組むことができる

原則として65歳未満であれば、保証人を付けることなく借り入れを行うことができます。

ただし、審査の結果によってはこの限りではありません。

⑤保証料を支払うことで保証機関の利用が可能

連帯保証人を付ける必要が生じた場合には、住宅金融支援機構が承認する保証機関に保証料を支払うと利用できます。

⑥繰り上げ返済の手数料がかからない

繰り上げ返済を行う場合に、手数料を支払う必要がありません。

デメリット

フラット35を不動産投資に利用する場合には、以下のようなデメリットがあります。

①賃貸物件を建築する土地を所有していないと借り入れができないこともある

フラット35を利用して収益物件を建築する場合には、原則としてその土地を所有している必要があります。

しかし、土地を所有していなくても普通借地権や一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付き借地権を有していれば、登記された借地権に住宅金融支援機構のための第一順位の抵当権を設定することで、融資を受けることができます。

②自宅を含めた融資を受けることができるが、床面積などの条件が決まっている

自宅を含めた賃貸住宅の取得に利用できます。

しかし、自宅部分の延べ面積に制限があるため、自宅部分の延べ面積が定められた範囲を超えると、融資を受けることはできません。

③団体信用生命保険が利用できない商品がある

団体信用生命保険の利用ができないため、生命保険代わりとしての不動産投資の役割が果たせない、または低くなります。

まとめ

ここまで、住宅金融支援機構が提供するフラット35の改正点とそのメリットとデメリットなどについて解説してきました。

フラット35は、一般的には申込者自身またはその親族が居住用に利用する建築物に対して利用できる融資ですが、フラット35の種類によっては条件を満たすことで不動産投資にも活用できることがお分かりいただけたと思います。

フラット35には、多くのメリットがありますがその反面デメリットもあるため、この点を十分に理解して利用することが重要です。

フラット35を上手に利用して、有利な不動産投資を行えるようにしましょう。

八木 チエ

株式会社エワルエージェント 代表取締役
みんかぶ(不動産投資)プロデューサー

宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナーなどの経験を活かし、第3者の立場で不動産投資をしていくうえで役に立つ情報をお届けします。

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