ニュース

生産緑地の2022年問題は不動産投資にどのような影響を与えるのか

2022/03/04
生産緑地の2022年問題は不動産投資にどのような影響を与えるのか

これから不動産投資を行おうと考えている方や、現在すでに不動産投資を行っている方は、「生産緑地」という言葉をご存知の方も少なくないと思います。

この生産緑地は、現在農地以外の用途で使用することは認められていませんが、2022年になると法律で規制されていた期限が満了し、自治体への売却や、一般の人や不動産業者などに転用・売却ができるようになります。

これを「生産緑地の2022年問題」と言いますが、この生産緑地の2022年問題はどのような影響を不動産投資に与えるのでしょうか。

ここでは生産緑地についての解説と、生産緑地の2022年問題が不動産投資にどのような影響を与えるかという点について考えていきます。

生産緑地とは?生産緑地が指定された背景

生産緑地とは、市街化区域内にある農地や山林のことを言います。

この生産緑地は、都市計画により指定された生産緑地地区内にあるものを言います。生産緑地では、農業を継続することが義務付けられていますその義務を果たすことでさまざまな税制上のメリットを受けることが可能になります。

この生産緑地は、生産緑地法によって1992年に制定されました。

初めて生産緑地法が制定されたのは1972年ですが、このような法律が制定されたのには理由があります。

生産緑地法が初めて制定された1970年代ごろから、人口が増加し一部の地域では都市化が急速に進んだため緑地が宅地に転用されるケースが多くなってきました。

その結果市街地の緑地が減少し、住環境の悪化や、土地が地盤保持機能や保水機能を失ったことが原因となって災害が多発し、重大な社会問題となってきました。

このような問題を改善・解決することを目的として制定されたのが生産緑地法です。

1972年に制定された生産緑地法では、緑地が持つ環境機能などを考慮して農林漁業との調整を図りつつ良好な都市環境を形成することを目的としていました。

しかし、この生産緑地法が制定されたにも関わらず都市化はさらに進み、土地不足と地価上昇に歯止めがかかることはありませんでした。

そのため、1992年に「生産緑地」と「宅地化農地」を定めることになりました。

1992年に定められた「生産緑地」と「宅地化農地」では、緑地の環境機能を維持していくために、農地として保存しておくべき土地を生産農地とし、宅地への積極的な転用を進めていくための宅地可能の二つに土地の目的を定めました

このように土地の用途を大きく二つに分けることで、この法律は都市計画を進める場合に一定の効果を納めています

この生産緑地法は、改正を重ねながら現在に至っています。

ちなみに生産緑地の定義とは、「良好な生活環境の確保に相当の効果がある」、「公共施設等の敷地として適している」、「農林漁業の継続が可能である」、「500㎡以上(2017年の改正で300㎡に改正)の規模である」、などとされています。

生産緑地に課せられる義務とメリット

生産緑地の所有者にはさまざまな義務が課せられるかわりに、主に税制上の優遇措置を受けることができるというメリットがあります。

ここでは、その課せられる義務とメリットについて解説していきます。

義務

ここでは、生産緑地の所有者に課せられる義務について解説していきます。

①農地等として管理しなければならない

生産緑地法第7条では、「生産緑地について使用又は収益をする権利を有する者は、該当生産緑地を農地等として管理しなければならない」と定められています。

そのためこの法律に則って生産緑地を所有したり管理したりしている人は、生産緑地を適切に管理していく義務があります。

生産緑地を適切に管理していくために、市町村の長から報告を求められたり、立ち入り検査を受けたりする必要が出てくることもあります。

②生産緑地であることを掲示する必要がある

生産緑地は、その土地が生産緑地であることを掲示しなければならないと生産緑地法第6条により定められています。

③土地に手を加えることができない

生産緑地地区内には、建築物やその他工作物の造成および土地に手を加える行為は生産緑地法第8条により禁止されています。

ただし、農林漁業を営むために必要となる施設や、農林漁業の安定的な継続のための施設に限って、市町村の長の許可を得ることで設置・管理することが可能になります。

メリット

ここでは、生産緑地の所有者が得ることができるメリットについて解説していきます。

①固定資産全の減免

農地の固定資産税は、その農地が市街化区域にあるか市街化区域外にあるかによってその評価方法や課税方法に違いが出てきます。

生産緑地には、固定資産税の優遇措置が講じられているため、一般の市街化区域の農地を比べて固定資産税が安くなります。

一般市街化区域の農地には、農地であっても宅地並みの課税標準が適用されるため固定資産税は非常に高額になります。

しかし、生産緑地の場合には一般の農地並みの課税標準が適用されるため、課される固定資産税は少額になります。

②相続税の納税猶予

生産緑地には、相続税の納税猶予措置が適用されます。

また、相続人が農業を一生続けるのであれば、一定金額の相続税の納税が猶予されます。猶予される相続税の金額は、通常の評価額と農業投資価格の差額に対する税額です。

計算式にすると次のようになります。

通常の評価額―農業投資価格=納税猶予額

農業投資価格とは、税金を課す場合に財産を評価する基準となる財産評価基準の一つで、「農業にしか利用することができない」とされる土地に対して適用される基準のことを言います。

この農業投資価格でその土地を評価してもらうためには、半永久的な営農が条件となります。

この措置により生産緑地の評価額は通常の宅地評価額の数十分の一から数百分の一程度の水準となるため、多額の相続税の猶予を受けることができるようになります。

しかし、この優遇措置はあくまで猶予であって、減額や免除ではないので、注意が必要です。

また農業相続人の死亡や後継者への生前一括贈与、市街化区域内農地で20年以上営農を継続した場合には、相続税の納税が猶予された税額は免除となるため、この点にも注意しておきましょう。

ただし、東京・大阪・名古屋の特定市の生産緑地に関しては、営農条件が20年ではなく終身となります。

さらに、農地を譲渡または貸与、転用した場合や、3年ごとの「継続届出書」を提出しなかった場合、納税猶予を受けた相続税が免除される前に相続人が農業経営を廃止した場合には納税猶予は打ち切られます。

③贈与税の納税猶予

贈与税に関しても相続税と同様に、定められた条件を満たすことで一定の金額の贈与税の納税猶予を申請することが可能です。

その条件とは、3年以上農業を営んでいる人が、生前に農業を引き継ぐ人、すなわち推定相続人に農地等を一括して贈与し、その農地等を農業の用に供する場合、贈与者死亡の日まで贈与税の納税が猶予されます。

この贈与税の猶予に関しては、贈与者と受贈者が共に決められた要件を満たす必要があるため、農地を贈与する場合には農業委員会に相談する必要があります。

生産緑地の2022年問題とは

生産緑地には、2022年問題というものがあります。

これは現在ある生産緑地の多くが1992年の改正生産緑地法により指定されたものであり、生産緑地には30年間の営農義務があります。

この期間を過ぎると生産緑地の指定の解除が行われることから、2022年には多くの生産緑地から営農義務が外されるというものです。

この2022年に生産緑地から解除される農地の広さは、現在指定されている生産緑地の約8割にのぼります。

このようにして制約が多い生産緑地を解除された農地が、宅地として大量に不動産市場に放出され、宅地の価格が下落する可能性が非常に高くなります。

なぜ生産緑地を外れた土地が、宅地として放出されるのでしょうか。

それは農業に従事する人の高齢化や、後継者不足が大きな原因となっています。

また、農業は収益性が低く儲からないことも多いため、生産緑地に指定されている農地の所有者が農地を宅地に転用しアパート経営を行うことで利益をあげようと考えるケースも増えてくると予想されます。

このような農地が宅地に転用され、不動産市場に放出されるという現象が一気におこるとは限りません。しかし、都市において農業を続けていくことの厳しい現状を見ると、多くの農地の宅地化は避けられないと考えておかなければいけません。

生産緑地の2022年問題が不動産投資に与える影響

2022年以降には生産緑地の約8割が指定から外れ、大量の宅地に転用されることで地価が下がったり、賃貸住宅の空室率が上がったりといった影響が不動産投資市場に現れることが予想されることは前述しました。

農林水産業が2011年に実施した「都市農業に関する実態調査」によると、一般の農家の一戸当たりの所得のうち農業所得は約25%、不動産経営所得が約65%、その他の所得が約10%となっています。

このうち「特定市」に限れば不動産経営所得は約70%にものぼります。

しかし、2022年以前は同じ農家であっても所有している農地が生産緑地に指定されている場合には、その農地を転用して不動産経営などにより収入を得ることはできませんでした。

農業は利益が薄いため、このように現在農業のみにしか利用できない生産緑地を所有している農家が、2022年に所有している農地が生産緑地から外れるのを機に、不動産経営に乗り出すことも大いに考えられます。

2022年を機に生産緑地を外れる農地を所有している人が不動産経営に乗り出した場合、すでに土地は自分のものであるため土地代がかからず、有利に不動産経営を行うことが可能になります。

生産緑地は自治体が買いとることも考えられますが、全ての生産緑地がそうなるわけではなく、ハウスメーカーなどの不動産業者に買い取られる可能性もあります。

このような状況になると、住宅戸数が増加し、空き家問題が深刻化するとともに少子高齢化が進み世帯数も減少している現在の日本では、空室率の増加につながることも予想されます。

また、生産緑地が宅地に転用され一戸建てやマンションが建築された場合には既存の物件の眺望や日照に悪影響を与えることもあります。

そのため、所有している物件自体の資産価値が下がることも考慮しなければなりません。

生産緑地の2022年問題が不動産投資に与える影響には、このようなものが考えられます。

生産緑地を考慮したうえでのエリア選びが重要?

生産緑地は、東京、大阪、名古屋とこれらの都市の周辺に全体の約8割が集中しています。

これらのエリアは人口も多く不動産投資に向いているエリアですが、生産緑地が2022年以降宅地化されると土地の価格が下落したり、一戸建てやマンション・アパートの供給過剰により空室率が上昇したりしてしまう恐れがあることは前述しました。

この三大都市とその周辺のエリアに関していえば、生産緑地は東京都を除けば府県の中でも中心となるエリアに多く存在しています。

さらに生産農地があるエリアを細かく見ていくと、生産農地はそもそも「農地」であるため、駅に近いなどの利便性が高いエリアにはあまり存在せず、駅から離れた住宅街に多く存在することがほとんどです。

そのため、不動産投資用物件の購入を考えた場合、単身者用のワンルームマンションに関していえば駅に近く利便性が高いエリアに収益物件を購入することが多いため、この2022年問題の影響を受けることはあまりないと考えられます

生産緑地の2022年問題の影響を受けやすいのは、駅から離れた住宅の多いエリアです。

このような場所には生産緑地が多く存在するため、2022年問題の影響を受けやすいエリアが存在します。

住宅街でアパートまたはマンションの経営を始める場合には、生産緑地が少ないエリアを選ぶことで、2022年問題の影響を最小限に抑えることができるでしょう。

まとめ

ここまで、生産緑地と生産緑地の2022年問題について解説してきました。

生産緑地の2022年問題が、不動産投資に与える影響についてお分かりいただけたと思います。

住宅街にアパート・マンションを建築または購入して不動産投資を始める場合には、将来宅地転用して不動産投資を始めそうな生産緑地が近隣にないかチェックしておくことが重要です。

このようにして周辺に生産緑地があるかどうかをチェックしておくことで、将来賃貸住宅の供給が過剰になり、自分が所有する収益物件の空室率が高まることを防ぐことができるでしょう。

関連記事

八木 チエ

株式会社エワルエージェント 代表取締役
みんかぶ(不動産投資)プロデューサー

宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナーなどの経験を活かし、第3者の立場で不動産投資をしていくうえで役に立つ情報をお届けします。

関連コラム