不動産投資用物件の相続を考えている方の中には、上記のような様々な疑問を抱いている方も多いでしょう。
まず結論から述べておくと、不動産投資用物件を生前贈与するメリットは、節税や相続時のトラブルを予防することはできます。
ただし、生前贈与を適切に利用するためには、節税になる理由や利用する制度について理解する必要があります。
そこで、この記事では、不動産投資用物件を生前贈与するメリットや注意点、節税になる理由などについて詳しく解説していきます。ぜひ最後まで読んで、参考にして頂けると幸いです。
前述したように、不動産投資用物件は生前贈与すると、相続税対策になるケースがあります。
ここでは、相続税対策になる理由や生前贈与について詳しく説明していきます。
生前贈与とは、生きている間に所有している財産を譲ることです。
財産の種類は問わず、不動産や株式、現金、宝石などのどのような種類の財産であっても譲ることができます。
ただし、生前贈与は贈与契約という契約になるため、財産をわたす側と受け取る側の合意が必要です。
贈与税とは、年間110万円(基礎控除)を超えた贈与をした場合に、課税される税金です。
贈与税の税率は基礎控除後の課税価格によって変動し、最高税率は55%、最低税率は10%の税率と規定されています。
また、贈与する側とされる側の関係性により、特例税率と一般税率に分別されているのも特徴です。
贈与税率は下記の表を確認してください。
課税価格(基礎控除後) | 特例税率 | 一般税率 | 特例控除額 | 一般控除額 |
200万円以下 | 10% | 10% | − | − |
400万円以下 | 15% | 15% | 10万円 | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 20% | 30万円 | 25万円 |
1,000万円以下 | 30% | 30% | 90万円 | 65万円 |
1,500万円以下 | 40% | 40% | 190万円 | 125万円 |
3,000万円以下 | 45% | 45% | 265万円 | 175万円 |
4,500万円以下 | 50% | 50% | 415万円 | 250万円 |
4,500万円以上 | 55% | 55% | 640万円 | 400万円 |
課税価格に贈与税率を掛けて控除額を引いた金額が、贈与税として課税されます。
参考URL:国税庁
贈与税と相続税の最高税率は同じですが、相続や贈与される金額によっては、贈与税は相続税よりも高い税率で課税されます。
その理由は、相続税と贈与税では最高税率で課税される金額が異なるためです。
例えば、課税価格が1億円の場合であれば、相続税の方が税額は安くなります。
相続税率は下記の表をご覧ください。
取得金額(法定相続分に応ずる) | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | − |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円以上 | 55% | 7,200万円 |
贈与税と比較し、税率が上がる金額が高額であることが分かります。
参考URL:国税庁
不動産を生前贈与することで、相続税対策になる可能性がある理由やメリットは以下の3点です。
それぞれについて説明していきます。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母(直系尊属)から20歳を超える子供や孫(直系卑属)に生前贈与する際に利用できる制度です。
制度を利用した場合、2,500万円の特別控除があり、2,500万円を超える贈与には一律20%の贈与税がかかります。
しかし、この贈与時に支払った贈与税と贈与額は、贈与時の評価額で相続時に精算することが可能です。
つまり、課税価格次第では税額を変えることなく、相続財産の先渡しが可能な制度になります。
その効果として、贈与時から相続時までの間に不動産などの財産の価値が上昇した場合や贈与財産から維持費を超える収益が出ている場合は、節税効果が見込めます。
ただし、相続時精算課税制度を利用した場合には、相続税を減額できる小規模宅地の特例制度の併用ができないことや贈与税の基礎控除もなくなることなどデメリットもあるので注意が必要です。
制度を利用して節税効果を得るためには、注意点をよく理解して、制度の利用を慎重に検討する必要があります。
相続税時精算課税制度を利用した相続税の計算例をみてみましょう。
このように、不動産の価値が変動しないと仮定すると、相続時に贈与税の納税額を差し引けるため、納税額を変化させることなく事前に生前贈与することが可能です。もちろん、その間に生まれた収益は相続人の物となりますので、それだけで十分節税効果はあるといえます。
投資用不動産を孫や子供に生前贈与することで、収益の受益権を移すことが可能です。
将来的に得るはずであった資金を受贈者が得ることで、相続する財産が増えないため、相続税を抑えることができます。
例えば、年間の利益が1,500万円ある投資用不動産を所有している場合、相続のタイミングや消費によっては、相続財産が増える一方です。
しかし、生前贈与することで、相続財産を増やすことなく毎年1,500万円分の収入を受贈者が得ることができます。
生前贈与を行うメリットのひとつが、相続時に相続財産を巡った相続問題になりにくいことです。
所有している財産を生前贈与することで、相続時に分配で揉める可能性が無くなります。
しかし、推定相続人にしっかりと説明して納得して貰わないと、その場でトラブルになる可能性も考えられます。
不動産を生前贈与するデメリットは以下の4つです。
それぞれについて説明します。
不動産を贈与することで、相続時に支払う必要がない不動産取得税がかかります。
不動産取得税とは、土地や建物を買ったときに課せられる税金のことです。
税額の計算式は「課税標準額×税率」で、税率は原則4%になります。
例えば、課税標準額が2,000万円の場合は、80万円の不動産取得税が課税されるのです。
不動産を贈与することで課税される贈与税と不動産取得税の合計金額が相続時に必要な費用よりも高い場合には、生前贈与しないことをおすすめします。
不動産の所有者が変わった場合には、名義変更を行うために登録免許税を支払う必要があります。
生前贈与による登録免許税は固定資産評価額の2%です。
例えば、固定資産評価額が5,000万円の不動産を生前贈与する場合には、100万円の登録免許税がかかります。
一方で、相続による登録免許税は固定資産評価額の0.4%になります。
生前贈与の場合と同じく、固定資産評価額が5,000万円の不動産を相続する場合に必要な登録免許税は20万円です。
このように不動産を生前贈与した場合は、登録免許税が高くなるので注意する必要があります。
生前贈与時よりも不動産が値下がりした場合は相続税対策になりません。
その理由は贈与税と相続税の計算が贈与時と相続時に計算されるからです。
例えば、不動産の価値が5,000万円から4,000万円に値下がりをした場合には、4,000万円で計算できる可能性があった不動産を5,000万円で計算するため、課税額が高くなります。
上記の事例のように将来的に価値が下がる可能性が高い不動産の場合には、相続税対策にならない可能性があるので注意してください。
小規模宅地の特例とは、土地を相続するときに要件を満たすことで利用できる特例制度です。
この制度を利用することで、不動産投資用物件の評価額を50%減免できます。
そのため、小規模宅地の特例を利用することで、不動産投資用物件の相続税が減額することが可能です。
一方で、生前贈与の場合はこの特例が利用できません。
生前贈与は有用な特例制度が利用できないケースも多いので、生前贈与と相続のどちらが適切かよく検討するようにしてください。
不動産投資用物件を生前贈与するには、贈与契約書を作成して、登記申請を行うことで可能です。
ただし、注意すべきポイントもあるので、手順と注意点を詳しく解説します。
生前贈与は口頭契約でも可能なため、贈与契約書は必ずしも必要ではありません。
ただし、不動産を贈与する場合には、贈与契約書がないことでトラブルになる可能性があります。
例えば、生前贈与した時期が明確ではないことで、生前贈与した財産に相続税が課税されるトラブルです。
死亡時から遡って3年前に贈与した財産は、相続税の課税対象になります。
そのため、贈与した時期が明確でないと、生前贈与していても国税庁が課税対象と判断することがあるのです。
トラブルを防ぐためにも、贈与契約書を作成するようにしてください。
贈与契約書や贈与者の印鑑証明書などの書類を持って法務局で登記申請を行います。
登記申請の際に必要な書類は以下の6つです。
登記申請をする際には贈与される不動産を管轄する法務局で申請する必要があるため、事前に管轄の法務局を確認するようにしてください。
不動産投資用物件を生前贈与するときの注意点は以下の4つです。
それぞれについて説明します。
生前贈与時に相続時精算課税制度を利用した場合、以降のすべての贈与で暦年贈与が利用できません。
暦年贈与とは、年間110万円までの贈与が非課税になる制度です。
長期間に渡って少しずつ財産を贈与したい場合には、暦年贈与が有用になります。
どちらの制度が自分にとって適切なのかをよく考えてから利用するようにしてください。
贈与税の申告期限は税法によって定められています。
申告期間は2月1日〜3月15日です。
また、3月15日までに贈与税を納税しなければなりません。
この申告期限を過ぎてしまうと延滞税が課される可能性があるので、必ず期限内に申告と納税を終わらせるようにしてください。
前述したように贈与契約書は作成することは、トラブルを防ぐうえで非常に重要です。
前項で紹介したトラブル以外にも、贈与を受ける側が贈与されたことを知らなかったために、生前贈与が成立していないと判断されたケースもありました。
贈与契約書を作成することは、お互いの意思の確認や国税に対する明確な証拠になるため、作成して保管することが重要です。
生前贈与された財産が遺留分を侵害しているケースは注意が必要になります。
遺留分とは、法定相続人が最低限相続できる相続財産のことです。
生前贈与した財産でも一定の基準に該当すると、遺留分とみなされます。
そのため、遺留分を侵害したとみなされた場合には、他の相続人から遺留分相当の支払いを求められる可能性があるのです。
不動産投資用物件を生前贈与すると節税になるケースがあります。
ただし、金額や生前贈与の内容を把握しておかないと、相続した方が節税になるケースもあるので注意が必要です。
投資不動産の生前贈与を検討する際に、参考にして頂けると幸いです。