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地盤改良に潜むリスクとは?不動産価値の下落を防ぐうえで気をつけたいポイントまとめ

2021/04/20
地盤改良に潜むリスクとは?不動産価値の下落を防ぐうえで気をつけたいポイントまとめ

平成15年1月1日より適用されている新しい不動産鑑定評価基準より、地中埋物が土地履歴とみなされるようになりました。

しかし、「不動産を売却したい」「投資用不動産を購入したい」という方の中には、「地盤改良による土地履歴が資産価値にマイナスになるのでは?」と懸念されている方も多いのではないでしょうか。

出典:不動産鑑定評価基準(国土交通省)

そこで今回は、地盤改良の基本的な事項をふまえ、不動産価値の下落を防ぐうえで気をつけたいポイントを解説します。地盤改良の基本的な知識や、不動産価値への影響を知りたい方はぜひ読んでみてください。

地盤改良とは

地盤改良」とは、建物や橋などを地盤上に建てる際、安定性を保つために改良を加えることです。

どれだけ耐震性の高い住宅を建設しても、地盤が弱ければ時間の経過に伴って地盤沈下や建物の崩壊のリスクが高くなります。よって投資用物件の選定や建築の際も、「どのような地盤改良ができるか」「どのような工事をしなければならないか」など、地盤の強度を調べるための精査が必要です。

地盤改良の必要性は、地盤調査で用いられる最も一般的な地盤調査方法といわれる、「スウェーデン式サウンディング試験」をベースにした地盤調査データをもとに判断されます。試験内容は地盤にロッドと呼ばれる鉄の棒を垂直に突き刺し、地盤の沈み方をもとに硬軟や締まり具合が判断するものです。ロッドが滑らかに沈んだ場合は地盤が弱く、対して沈みにくい地盤は固いとされます。通常、敷地の4隅と中央の5箇所を調査し、調査には半日程度かかります。

地盤改良は絶対必要?

地盤改良は法律上の義務ではありませんが、次のように建築基準法にて建築物の基礎の地盤沈下や変形に関して明確化されているため、「実質的に義務」とする考えが一般的です。

“第 1 項 建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤 の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。”

(引用:建築基準法施行令第38条第3項及び第4項 

またその他、許容応力度の測定方法(地盤調査の方法)に関しても、「建築基準法施行令第93条の規定に基づく平成13年国土交通省告示第1113号」にて明確な基準をもって規定されています。

地盤調査がすでに完了した土地の上に建築物があって別の住居を建てなおす場合、再び地盤調査が必要です。

新築住宅を供給する業者は保証金を供託した場合を除き、住宅に瑕疵があった場合の修理費の補てんのために住宅瑕疵担保保険に加入しなければなりません。そして住宅瑕疵担保保険への加入には、地盤調査が不可欠です。

地盤の強弱は土地によって差異があるため、住宅を建て直した際に瑕疵担保責任に関わる問題へと派生する可能性があります。よって、土地売却時の地盤調査は法律上の義務ではないものの、事前に地盤調査をすることで投資用不動産の付加価値としての信頼性が高まり、将来的な不動産の高額売却(出口戦略)へとつながります。

地盤改良の代表的な工法

地盤改良の代表的な工法は、「表層改良工法」「柱状改良工法」「小口径鋼管杭」の3つです。それぞれの工法の特徴とメリット・デメリットについてみていきましょう。

工法の種類特徴メリットデメリット
表層改良 セメントを使用し、地盤周辺を固める
  • リーズナブル
  • 地中にコンクリートや石があっても可
  • 勾配のきつい土地や地下水位が高い場所は不可
柱状改良円柱状に地盤を固めた改良杭で建物を支える
  • リーズナブル
  • 強固な地盤がなくても可
  • 固化不良の可能性
  • 施工後は現状復帰が難しい
小口径鋼管杭鋼管で地中から建物を支える
  • 施工後の地盤強度が高い
  • 柱状改良より小さな重機でも可
  • 強固な地盤が必要
  • 工事中の騒音や振動が大きい

土地の状況や予算、将来的な不動産の方向性(売却するのか否か)などを総合的に考慮しながら工法を決めると、後悔のない施工が実現するでしょう。

地盤改良により不動産価値が下がるとされる理由

地盤改良には住宅の安全性を高める役割がある一方で、「不動産価値が下がる」という指摘もあります。

では、なぜ地盤改良により不動産価値はマイナス評価になるといわれるのでしょうか?代表的な要因を3つみていきましょう。

土地改良による有害物質

1つ目の理由は、地盤改良により生じる六価クロムの影響です。

六価クロムはアスベストと並ぶ有害物質といわれています。地盤改良は一般的にコンクリートと土を固めて生成されますが、その際に土中に存在する三価クロムがコンクリートと混ざって六価クロムが生まれます。

三価クロムは人体にとって無害ですが、六価クロムには発ガン性のある非常に有害な物質です。

加えて六価クロムは化学的に明らかにされていない側面が多いため、「地盤改良をした際にどのくらいの悪影響があるのか」「どのような環境的な要素が六価クロムの発生に起因するのか」などが曖昧です。したがって、地盤改良により生じる有害物質である六価クロムは、土地や住居を購入する人にとって心理的な不安を誘引する要因になる可能性があります。

汚染除去の費用

2つ目の理由は、汚染除去の費用がかかる点です。

先述した通り、地盤改良の結果として六価クロムが有害物質として発生したような場合、不動産価値が下がる原因となるため将来的に汚染物質の除去の必要性がでてきます。

その他、地盤改良で使用したコンクリートやスラグ(鉱滓)、杭などがある場合は除去しなければ新しい建物の建築は困難です。地中に埋まっている固い物質の除去には相応の費用がかかるため、投資用に不動産を活用する際にも資産価値としてマイナスにはたらく可能性があります。

地盤事故のリスク

3つ目の理由は、地盤事故のリスクです。

地盤改良を行っている物件であっても、地盤事故が発生するケースがあります。

ある調査では、1,000件のうち10件以上の確率で地盤事故が発生し、この比率は住宅火災の発生率を上回るともいわれています。

地盤改良していても地盤事故が発生する要因は「地盤に関する性能検査が不十分だった」「事前調査による設計に沿った地盤改良がなされていなかった」などの事例もあるようです。しかし、これらのリスクは信頼できる会社に調査や施工を依頼し、しっかりと地盤改良に関する情報を開示してもらうことで回避できます。

地盤改良による不動産価値の下落を防ぐポイント

では、地盤改良による不動産価値へのリスクを防ぐにはどのような対策をすればよいのでしょうか?4つのポイントを解説します。

工事内容の十分な把握

地盤工事の施工会社に任せきりにせず、実際の工事内容を把握しておくことが重要です。

なぜなら地盤の状況は 、投資先もしくは投資として活用する際、資産価値に大きな影響を与える大切な情報だからです。どのような内容の工事をするのか」「工事にどのくらいの費用がかかるのか」など、見積もりから工事完了までの過程も確認しておきましょう。

地盤改良工事報告書の発行依頼

地盤改良工事報告書とは、地盤改良工事の着工前に行った地盤調査の結果を記録する書面です。

報告書では、敷地内における軟弱な地層の有無や地盤の状況などについての調査結果が記載されています。また、地盤上に建物を新築する際、調査会社はどのような工法を選択すべきかについても明確化されています。

地盤改良工事報告書は、住宅メーカー担当者に依頼すると発行可能です。建物の完成後にも発行してもらえますが、地盤への不安を少しでも軽減するためにも、着工前に報告書の提供を受けるようにしましょう。

残土処理費用の明確化

地盤改良は工事によって残土が発生します。

よって、その残土をどう処理するのかについても明らかにすることが重要です。コストを可能な限り抑えるため、解体業者への依頼をする方もいます。しかし、多くのケースで残土処理は施工会社に依頼し、費用は施主が負担します。

解体業者に依頼する場合、すべての残土を処理してしまうと、建物の施工の際に必要になると困るケースもあるようです。したがって、「どのぐらいの残土を処理するか」「残土処理にかかる費用はどれくらいで誰が負担するのか」を施工会社に事前に確認してから解体へと進みましょう。

コストの適正化

地盤改良は「どの会社に依頼しても同じ」ではありません。

相場より明らかに低価格である場合は、「やるべき工事をしていない」「適性のない人が任務に就いている」などの問題が隠れているケースがあるからです。地盤に起因する建物の不具合は数年後に表面化します。過剰な地盤改良は不要ですが、適切な改良に適正なコストをかけられているか、任務に当たる人材や施工基準などからの見極めが重要です。

地盤改良により不動産価値が下落した事例

地盤改良によって不動産価値が下落した事例として、代表的なものに「ガソリンスタンドの跡地」があげられます。

ガソリンスタンドの地下にはタンクが設置されていたため、土壌汚染が発生しているケースが多く、その汚染除去には高額な費用が必要です。よって、ガソリンスタンドの跡地だった土地はなかなか買い手がつかなかったり、価値が下落してしまったりする場合があります。

ただし、最近では汚染除去の費用までガソリンスタンド業者が負担することもあるため、事前に契約をしっかり結んでおけばガソリンスタンド以外に土地活用する際でも安心です。

その他、先述したとおりセメント系の地盤改良を行った場合も、六価クロムによる人体への健康被害が懸念されるため、不動産価値を下げる要因になりえます。

投資先を選定する際には、住居そのものの価値ばかりに目がいきがちですが、土地の状態に関しても十分に確認することで、将来的に不動産をスムーズに売却可能です。

地盤リスクの危険度を総合的に把握する方法

投資予定の物件が建つ地盤のリスクは、公的なデータから把握できます。

東京都の地盤については、東京都の都市整備局が発行している「地震に関する地域危険度測定調査」が有用です。「建物崩壊の危険性」「火災の発生による延焼の危険性」「総合危険度」の3点について、5つのランクによる相対的な評価がわかります。

また、東京都以外の地盤については、内閣府の「防災情報ページ」から各自治体の防災情報の確認が可能です。
正確なデータの取得には地盤調査が必要ですが、簡易的に情報を把握したい方はこれらのデータから投資先の地盤の状態が把握できますので、ぜひご活用ください。

まとめ    

今回は地盤改良の基礎知識をふまえながら、不動産価値の下落を防ぐためのポイントを解説しました。要点は次の通りです。

  • 地盤改良はすべての土地で必須ではないが、「実質的に義務」とする考えが一般的。
  • 地盤改良は住宅の安全性を高める役割がある一方で、土壌汚染による人体への健康被害が懸念されており、適切な施工がなされないと不動産価値が下がる可能性がある。
  • 地盤改良を適正に実施するには、工事内容や費用を事前に十分に把握し、残土処理についても明確化しておくとよい。また、地盤調査後に速やかに地盤改良工事報告書を発行してもらうと万全。

適切な地盤改良をすることで、不動産の信頼性はむしろ上がります。

適切な施工を真っ当な価格で実施してもらうためには、信頼できる業者への依頼が重要です。ご紹介した内容を、ぜひご自身の不動産投資にお役立てください。

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八木 チエ

株式会社エワルエージェント 代表取締役
みんかぶ(不動産投資)プロデューサー

宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナーなどの経験を活かし、第3者の立場で不動産投資をしていくうえで役に立つ情報をお届けします。

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