不動産の売買などを行う際には、所有権の移転登記を行うことが一般的です。この所有権の移転登記を行う際に、税金および手数料が生じますが、「中間省略登記」はそれらの費用を一部節約できる取引方法です。
しかし、法律的にグレーな部分があったため、「新・中間省略登記」という新たな方法が考案されました。こちらの記事では、「中間省略登記」、「新・中間省略登記」について詳しく説明していくとともに、それぞれの違いやメリット・留意点も合せてお伝えしていきます。
中間省略登記の前に、まずは不動産登記についておさえておきましょう。
不動産登記は、当該不動産がどのようなものであるか、また誰が所有しているのかを記録してあるものです。また、その不動産において、誰がどのようなことを行ったのかも記録されます。
これらの情報を記録してあるのが「登記簿」と呼ばれているものです。登記は、不動産を購入・売却時には必ず行われなければなりません。中古物件の所有者の変更があった際には、「所有権移転登記」を行います。不動産購入時には、「不動産取得税」がかかります。それと同時に所有権移転登記の際には、「登録免許税」もかかります。
例として下図をご覧ください。
売主である佐藤さんが、一度不動産会社に売却し、さらに不動産会社が田中さんへ売却する場合については、登記の原則である「誰がどのようなことを行ったのかも記録」することに照らせば、所有権移転登記を2回(佐藤さん→不動産会社、不動産会社→田中さん)行うことが本来の形となるはずです。
先ほどの例でみてみると、佐藤さんから不動産会社への売却、不動産会社から田中さんへの売却があった場合に、所有権は佐藤さん→不動産会社→田中さんの順番で移転しています。
次の図をご覧ください。
こちらの図では、「中間」に入っている不動産会社への登記を「省略」して佐藤さんから田中さんへ所有権が一気に移転したという形で「登記」されています。これが「中間省略登記」と呼ばれているものです。この手法を使うことで、「不動産取得税」及び「登録免許税」が本来2回ずつかかってくるところを1回ずつに減らすことができる形になります。 端的にいえば、間に入っている不動産会社の登録免許税および不動産取得税の節税をすることができ、転売益を最大の目的とした仕組みが中間省略登記ということになります。
しかし、法務局においては、これら3者の同意があったとしても、登記簿に記載される取引の経緯が実態と異なるため、佐藤さんから田中さんへの直接登記の申請を認めないとしています。
一方で、最高裁における判例では、3者の同意などの条件満たした場合に限り、この手法が有効であるとの見解を示していたのです。このため、法務局は中間省略登記を認めないという立場を取りながらも、最高裁で認められていたために実務的には中間省略登記を行ってきたという状態となっていたのです。
上記のような問題を抱えていたため、2005年3月に不動産登記法が改正されることになりました。
法改正以前までは、登記を申請する際の書類に「売買契約書の写し」が必須ではありませんでした。その代わりに「申請書副本」という書類さえ添付すれば申請ができていたのです。この書類に、佐藤さんと田中さんの氏名だけしか登場しないようにすれば、中間に入っていた不動産会社の存在は分かりませんでした。このような形で中間省略登記が行われていたのです。
しかし、法改正後は売買契約書の写しが必須となりました。では、売買契約書が必須になると何がどのように変わるのでしょうか。
もし、この契約書がなければ、佐藤さんと田中さんはお互いに面識がなく、両者ともに不動産会社とだけ売買をしていると思い込んで取引すべてが終了していたはずです。しかし、売買契約書の提示義務によって、間に入っている不動産会社の存在を隠すことが不可能になりました。これによって、間に入っている不動産会社が、自分だけうまく儲けていることが佐藤さんと田中さんにバレてしまうことになったのです。
これによって、事実上中間省略登記はできなくなりました。もちろん無理やりやろうと思えば、出来ないことはありません。しかし、「違法」となります。
ところが、上記のような目的がなくとも、実務的には直接登記が必要なケースも存在しました。また業界内からも一定の反発があったようです。
そこで、2007年1月に「第3者のためにする契約」と「買主の地位の譲渡」が法務省によって公認されました。これが、「新・中間省略登記」と呼ばれているものです。3者が絡んでいる、かつ不動産取得税や登録免許税も1回のみ発生することから、こちらの記事をお読みの方には、従来の中間省略登記と同じものに見えるかもしれません。しかし、本質的に異なるのは、以前は認められていなかった直接取引が認められているということです。
以下は、「第3者のためにする契約」の流れを表した図となっています。
まず佐藤さんと不動産会社は、第3者(ここでは田中さん)に所有権を移転する特約付きで売買契約を結びます。その後、不動産会社と田中さんで売買契約を結び、佐藤さんにあった所有権を田中さんへと移転するという流れです。この手法では、法的にも不動産会社に登記をする義務はありません。
続いて、下の図は「買主の地位の譲渡」を表したものです。
こちらの手法では、佐藤さんと不動産会社が売買契約を結び、また、佐藤さんは「地位譲渡の同意」をします。その後、不動産会社から田中さんへ「買主の地位を譲渡する契約」を結びます。
先ほどのケースとは異なり、ここでは売買契約ではなく、譲渡契約であることをご認識ください。このパターンでも中間の不動産会社に登記の義務はありません。地位を引き継ぐ田中さんは、佐藤さんと不動産会社の間で結ばれた契約の売買金額を知ることとなります。
目に見えるようなメリット、ストレートに言ってしまえば、金銭的なメリットがあるのは、間に入っている不動産業者だけかもしれません。しかし、佐藤さんや田中さんにとってもメリットがあります。
この方々が不動産のプロではない限り、不動産の取引にそれほど詳しくない可能性があります。大変なことを間に入っているプロにやってもらう。これだけでも十分なメリットです。また、会社員をされているなど、忙しい方にとっては、売却先や購入先を探している時間もない可能性があります。そういった意味でも不動産会社はありがたい存在であるといえるでしょう。
いずれにしても、3者にとってメリットがある制度です。
中間省略登記の物件を購入するに際して「買主の地位の譲渡」のケースについては、売買契約ではなく譲渡契約となるため、「宅地建物取引業法」の適用範囲外となります。つまり、不動産会社は田中さん(買主)に対して重要事項説明の義務を負いません。購入後、万が一物件に瑕疵があったとしても、不動産会社は免責となります。
購入に際しては、慎重に検討することが大切です。
他人物の売買契約であれば、不動産業者は重要事項説明の義務や瑕疵担保責任を負う形になるので、こちらの方がリスクを避けられるといってよいでしょう。
いずれにしても不安な場合にはご自身だけで判断せず、専門家に必ず相談するようにしましょう。
いかがでしたでしょうか。不動産売買を行う際の中間省略登記について解説してきましたが、内容については、ご理解いただけたでしょうか。
メリットがある一方でデメリットがあるのも事実です。この方法を使って不動産の購入を考えている方は、慎重に検討し、場合によっては専門家に相談することをオススメします。