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ローン特約とは?不動産売買契約の盲点を解説

2021/05/21
ローン特約とは?不動産売買契約の盲点を解説

収益用不動産の購入には大きなお金が必要なため、多くの方は金融機関からのローンによって資金を調達します。しかし、ローン前提で収益用不動産の購入や建築をする場合、ローンが通らないと投資自体が難しくなります。そのような「ローンが通らない」という予期せぬ事態を防ぐにはどのような方法があるのでしょうか。

今回は万が一ローンが通らない時に備えて「ローン特約」について書いていきます。これから融資を活用して不動産購入を検討されている方は、ぜひ最後までお付き合いください。

ローン特約とは

ローン特約(別名で融資特約ともいう)は、収益用不動産の購入にあたり締結する売買契約や工事・建築に関する契約のことで、売主と買主の合意により定められる条項の一つです。借入金のすべて(または一部)において金融機関からのローン審査に落ちた場合、契約を無かったことにできるケースがあります。

たとえば不動産の売買契約において、「買主がローンの承認を得られなかったら、売買契約を無条件で解除可能」「解除後に売主は受領済みの金銭(手付金等)を買主に返還する」といった内容です。

ローン特約の種類

ローン特約は大きく分けて「解除条件型」と「解除権留保型」の2種類があります。

解除条件型

ローンが得られるかどうかの結果が判明した時点で、自動的に不動産契約が成立(または解除)する条件です。

解除権留保型

買主に解除権を与え、売主に対して解除の意思表示をして契約解除をおこなう条件です。ローン承認取得期日までに本審査でローンがおりないと買主側に契約解除の権利が生じます。したがって、買主が契約解除を申し出ない限り解除の効力は生じません。契約解除には、買主による契約解除の意思表示が必要です。また、期日間際にもう少し猶予が欲しい場合、期日延長合意書を取り交わせば期日の延長もできます。

ローン特約がつけられる理由

ローン特約は不動産に関する契約でローンがおりなかった際、買主の手付金没収や違約金請求を避けられることを目的に定められています。

不動産投資で物件を購入する際には、審査を受ける金融機関に対して事前審査をかけるのが一般的です。ところが、事前審査は支店レベルで行われるため、本部の審査である本審査ではローンの審査がとおらない可能性があります。また、ローンを受ける本人の状況に変化が生じたときも、本審査で一転して審査に落ちることがあります。

とは言え売買契約はすでにすんでいるため、ローンの審査がとおらなくても、すでに支払った手付金は買主の手付放棄となり、全額没収されかねません。しかし、この特約のおかげで、買主は不動産投資で安心して金融機関からローン審査を受けられます

ローン特約で定めるべき事項

不動産売買契約にローン特約が記載されていても、買主としてローンを受けるための努力目標を明確にしないと、トラブルになる可能性があります。契約の際には、次の4点をぜひご確認ください。

ローン申込金融機関

第一に、どの金融機関にローンを申し込んだのかを明確にしましょう。申込先が空欄である、複数の金融機関の審査を受けているのに1つの記載しかない等があると、契約解除が許されない可能性があるためです。

ローン金額、金利、借入期間

ローン金額、金利、借入期間に定めがないと、契約解除が可能か問題になる可能性があります。逆に金利がしっかりと明示してあると、記載してある金利でローンがおりなかった際には、ローン特約を利用するか他の金融機関で契約を続行するかを買主自身が選択できる点で有利です。

ローン承認までの期間

ローン承認までの期限を定めておかないと、経済状況の変化に期待し続けることになり、買主と売主双方でトラブルとなる可能性があります。とくに解除権留保型のローン特約の場合は契約解除期日を定めなければ、買主と売主の立場がいつまでも不安定となるため、ローンが承認されるまでの取得期日や契約解除までの期日を定めておくことが重要です。

ローンが非承認時の対応策

「買主がローン審査をとおるための努力を怠った」「ローン審査の手続きを誠実に進めていなかった」とみなされると、契約を解除できません。よって、ローンがおりなかったらどうするか明記しておくと、後々に生じ得る可能性のあるトラブル回避につながるでしょう。

ローン特約でよくあるトラブル

ローン特約で生じがちなトラブルの事例をみていきましょう。

ローン金額が希望に達しなかった

ローン金額の具体的な明記がなく、申し込んだ金額のローンが通らなかった(もしくは一部しか借りられなかった)場合、無償解除の条件に該当しないと判断される可能性があります。先述した通り、ローン金額を明確に記載し、金額の条件もはっきりと明記するようにしましょう。

ローン不成立以外の理由での契約破棄

ローン審査以外の理由で契約破棄を希望する場合も、トラブルに発展する可能性があります。たとえば、「購入資金の一部としてあてにしていた家族からの援助がなくなった」「購入資金以外の諸費用をまかなえないから契約を無かったことにしたい」といった理由です。また、ローン審査中に買主の属性の変更(転職や解雇、病気で働けなくなったなど)があった場合も、自己都合とみなされる可能性があります。

ローン申込時の契約書に金融機関名の記載がなかった

不動産の契約書にローンを申込む金融機関名が具体的に明記されておらず、「金融機関等」「A銀行、B銀行等」などの曖昧な表記は注意が必要です。「金融機関等」となっていると、「買主が希望する銀行でなくても他銀行ではおりる可能性がある」「ローン審査は銀行でなくてもいい」と判断される可能性があります。

また、「A銀行、B銀行等」の場合、A銀行やB銀行でローンを断られたら他の銀行にもローンを申込まなくてはなりません。加えて、銀行以外のノンバンク等は金利等のローン条件が異なるために対象外となり、銀行等には含まれないケースもあります。

ローン特約を利用できないケース

ローン特約の事項が契約上で明記されていても、必ずしもスムーズに契約解除できるとは限りません。たとえばローン審査がおりているのに売買契約を解除するならば、手付放棄による解除が必要です。また、契約書のローン金額よりも多いローン額を希望しており、ローンが希望の額に達しないときも、無償解除は難しくなります。

ローン特約の注意点

ローン特約による解除は、売主への連絡方法にとくにご注意ください。通常、売主と買主の間には不動産業者が仲介していますが、実は不動産業者にローンがとおらなかった旨を連絡しただけでは、「ローン特約を根拠として契約を無かったことにしたい」という意思表示にはなりません。

しかも万が一、不動産業者から売主にローン特約による解除の意思が伝わっていなかったら、「言った」「言わない」のトラブルに発展する可能性があります。したがって、ローン特約による解除を申し出る際には、売主に対して確定日付の残る郵送方法(内容証明郵便等)による書面での通知が重要です。ローン特約は契約時点ですでに設定済みのケースが多く、「いつの段階で解除の意思表示がなされたか」を確実に残せます。トラブル回避のためにも、できる限り買主自らが直接通知をするようにしましょう。

まとめ

  • ローン特約とは、収益用不動産の売買契約で、売主と買主の合意によって定められる条項の一つ。
  • トラブル回避には、ローン審査がおりるように誠実に対応したことを買主が示し、期日までに売主に解除の意思が確実に伝わるようにする。

今回は不動産売買契約におけるローン特約に関して、契約の種類や盲点となる注意事項などを事例とともに解説しました。要点は次のとおりです。

ローン特約が明記されているからといって、安易な解除は認められません。ローン特約が利用できる期日が過ぎ、手付解除期日も経過してしまうと、高額な違約金を請求されるケースもあります。ローン特約は買主にとっても売主にとっても思いがけない事態なため、慎重な対応が重要です。本記事でご紹介した内容を、ご自身のよりよい不動産投資の知識としてぜひお役立てください。

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八木 チエ

株式会社エワルエージェント 代表取締役
みんかぶ(不動産投資)プロデューサー

宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナーなどの経験を活かし、第3者の立場で不動産投資をしていくうえで役に立つ情報をお届けします。

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