人口増加が続いていた東京で今、人口減少が話題となっています。コロナ禍で東京人口の流入が減少し、東京一極集中は終焉を迎えたという見方があるなか、人口移動は不動産市場の将来性にどのような影響を与えるのでしょうか。
今回は、国の統計データや民間の調査結果などを交えながら、東京人口減少の実態をわかりやすく解説します。東京の賃貸市場の動向に興味のある方はぜひお読みください。
総務省による「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京は転入者数が転出を上回る転入超過となり、「東京離れが加速しているのでは」といわれています。
東京への人口流入が減少した大きな要因の一つとして、新型コロナウィルスによる感染症拡大があげられます。しかし一部では、総人口数から考えると転出超過はわずかであり、「東京一極集中の流れの変化や地方分散の状況にはない」という見方もあるようです。実際、2020年の東京の人口は年間8,600人増加しました。ただし、前年(2019年)の年間9万4193人増と比べると、増加数は大幅に低下しています。
一体なぜ、このように東京人口流入に関して論調に差異が生じているのでしょうか。コロナ禍で東京の人口はどのように変化したのか、その背景を詳しく紐解いていきましょう。
コロナ禍で東京人口の流入が減少した理由を解説します。
緊急事態宣言の再発令で政府はテレワークや在宅勤務を推進し、「出勤者7割削減」を企業に要請しています。新型コロナ対策として、職場以外で働くテレワークが浸透し、必ずしも東京に住む必要のない人々の中で隣接圏などに移転する動きがありました。
ただし、感染者の多い都市部と地方圏ではテレワークの実施率に大きな開きがあり、全ての会社や社員が利用できるわけではありません。事実、パーソル総合研究所の「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」によると、コロナ収束後はテレワーク実施企業と利用する社員が減少傾向にあることから、日本企業の働き方が一気に全て変わるとは言い難いのが現状です。
人口過密の都市部を中心に感染症が拡大したことを受け、地方への関心が高まったことも一因です。今後も同様の傾向が続くかどうかは定かではありませんが、地方移住が注目されていること契機に、地方移住の流れを定着させようとする地方自治体の動きもあります。
例えば、神奈川県は観光地やリゾート地で余暇を楽しみながら働く「ワーケーション」を通じて、テレワークを活用しながら新しい日常の一環を推進しようと魅力発信に力を入れているようです。また、地方移住の相談に応じるNPO法人「ふるさと回帰支援センター」には2020年6月以降、電話やメールで地方移住に関する多くの相談が寄せられています。
しかし一方で、「東京23区に住み続けたいけれど長時間通勤や通勤混雑は嫌」という人々のなかには、地方移住の流れに反し、職住隣接を目的として都心部への移住をする動きもありました。
人口変動は立地選定における指標となるため、不動産投資で大きな影響があるといわれるポイントです。人口変動の要因は大きく分けて「自然増減」と「社会増減」の2種類あります。
自然増減の人口変動とは、端的にいうと出生数と死亡者数の差です。日本は少子化が進み、現在も出生者数はマイナスの状態が続いています。対して社会増減の人口変動とは、各都道府県からの転入者数と転出者数の差です。日本は1年間に約200万人以上の人が都道府県間を移動しているといわれています。
不動産投資における立地戦略を立てる上で、2種類の人口変動のなかでも、特に社会増減の把握は非常に重要です。また、不動産投資は中長期的な見方も必要なため、自然増減に対する認識も必要となります。
不動産投資の将来性を見据えるために、どのような点に着目すべきなのでしょうか。人口移動報告で注目すべき3つのポイントを解説します。
2020年の東京の人口動向において、年間増加数を日本人と外国人別で見てみると、例えば新宿区の総人口は外国人の減少がより大きく影響を与えています。外国人の減少は、感染状況が拡大してきた2020年2月以降ずっと続いている状態です。
「東京都の統計」によると、2020年になってから8月までに2万4,000人以上の外国人が東京から転出しているとされています。その背景は、「コロナ禍で感染者数の多い東京を離れ、帰国や他県への移動を選択した」「一時帰国した外国人が入国規制で再入国できなくなった」「各国から新規の留学生が入国できなくなった」などさまざまです。
外国人減少による東京人口への影響は、感染症拡大による一時的な現象ともいえます。ポストコロナでは、外国人がビジネスや学業を目的として再入国すると考えられるでしょう。
外国人の減少が人口総数の減少に繋がったとされる新宿区や豊島区を除くと、日本人の減少区は江戸川区と葛飾区と2区のみです。また人口増減の総数で見ると、2020年は東京全体で人口幅は大きく落ち込んだものの人口そのものは増加しています。
一方、千代田区・中央区・台東区といった東京都の都心にあたる区では、全ての期間を通して日本人の人口は増加傾向にあるとされています。つまり、東京人口流入の減少は、日本人の減少による影響とは言い難いといえるでしょう。
感染症拡大以降の東京都と他県との移動状況をみると、東京都からの転出超過は埼玉県・千葉県・神奈川県の3県が多くを占めています。対して、北海道や沖縄など、東京から離れた地方への転出は少数にとどまっているのが現状です。つまり、東京都からの転出は、北海道や沖縄のような地方ではなく、東京に隣接した県内に分散しているともいえるでしょう。
東京都のなかでは、新宿区・豊島区・江戸川区など区部の周辺区で人口が減少するなか、外周の東京都多摩地区の市、隣県3県の市では人口が増加傾向にあります。一方、千代田区・中央区・品川区・江東区など東京都心区では、逆に人口増加が特徴的です。要するに、東京の人口動向として「東京隣接県への転出」と「東京都新区へ移る」の2傾向が同時に生じているとわかります。
コロナ時代において、働く時間や場所の一部は変わるものの、全てが変わるわけではないという見方もあります。特に日本の場合は、複数の拠点を構えながら柔軟性の高い暮らしや働き方ができるかは未知数です。業種や業態による差異も大きく、今後も都心に大規模オフィスが必要な会社もあれば、IT系のように固定のオフィスが不要の会社もあります。
都心部のオフィスは大規模な再開発も多く、都心部のオフィスは増加しているといわれています。通常、オフィスの契約は3~4年と住宅に比べて長期であり、終息まで様子を見ている状況です。
東京の不動産市場は東京の人口流入減少にともない、地方への移住は加速するのでしょうか。結論から述べると、今後も東京一極集中の流れは続くといえます。「東京よりも地方が良い」「東京にいる必要性が薄れた」という理由で東京からの転出を検討する層は確かにいるでしょう。しかし、本当に郊外に引越しや移住のアクションに至るかは定かではありません。
また、第三次産業(小売業やサービス業など)は、大都市でしか成り立たない性質があります。一つの都市に人が密になることで生じる都市問題はあるものの、一過性による産業構造上の流れに過ぎず、急激に産業が変化するとは考えにくいともいえるでしょう。
中長期的にみて、東京一極集中の流れは今後も続く理由をみてみましょう。
2018年の「住宅・土地統計調査」によると、東京の持ち家は約306万戸、賃貸住宅は約334万戸あります。もしも転出超過が全て賃貸住宅の単身入居者だったとしても、この割合は転出世帯の割合の1%にも達しません。また、実際には2人以上の世帯もあると考えられるため、さらに全体を論じるには転出超過の影響は小さいといえます。
東京の人口が地方に流出したというよりは、同じ東京圏内で吸収しているともいわれています。コロナ禍で東京の人口は流れたものの、東京に隣接する県(神奈川県・埼玉県・千葉県)はいずれも転入超過となっているためです。今後の状況次第では、東京に回帰する可能性も十分あり得ます。
若者を中心に、雇用の機会を求めて東京への流入が続いています。また、働き方だけでなく暮らし方や自由な人間関係など、多様な価値観を尊重する魅力が東京にはあるためです。そしてそのような若者たちは、今後も故郷に帰る意思はなく東京に留まり続けたいと考えているといわれています。
マルチハビテーションとは、住居を複数化した居住スタイルのことです。一般的に都心と田舎との両方を居住地とする住生活を指します。日本でも海外の人々のような複数拠点を持つ暮らしの実現性が高まっており、感染症からの避難だけでなく気分転換のためにセカンドハウスを持つことは当たり前となる可能性があります。
東京は政治や経済などの中心であり、世界的にみても強い求心力のある都市です。世界最大の総合不動産サービスの一つであるジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)の調査では、コロナ禍でも東京の不動産投資が世界的に注目されているといわれています。東京は世界的にみても信頼性の高い市場であり、不動産市場においても優位性が高いといえるでしょう。
今回は、コロナ禍における東京人口流入の減少に関して、公的な統計データや民間の調査結果を交えながら解説しました。要点は次の通りです。
東京の不動産市場は、中長期的にみて高い魅力があります。新しい生活様式やビジネスや学業のオンライン化が進むなか、コロナ禍で入居者のニーズにも変化が生じているといえるでしょう。本記事でご紹介した内容を、ぜひご自身の投資戦略にお役立てください