総務省より「お試しサテライトオフィス」が公表されています。
地方における空き家対策として、2016年にスタートしました。都心に本社やオフィスがある企業を対象に、地方のサテライトオフィスを貸し出して、一定期間「お試し勤務」をしてもらうというものです。
コロナ禍でリモート勤務やテレワークを導入する企業も増えてきており、地方の空き家を貸しオフィスとして有効活用されることが期待されています。
こちらの記事では、サテライトオフィスがある地方自治体一覧や、それを利用する企業にとってのメリットについて解説していきます。
総務省が2016年から「地方における空き家対策の一環」としてスタートした施策です。
都心に本社やオフィスがある企業を対象に、一定期間「お試し勤務」をしてもらって、その後も継続するかどうかを判断してもらうというものになっています。
「お試し」の結果、企業が気に入れば実際のオフィス設置に向けて自治体から支援を受けることもできる仕組みとなっています。
2016年スタートの「お試しサテライトオフィス」ですが、ここまで中々注目を集める場面が少なかったように思います。
しかし、2020年の新型コロナウイルスをきっかけに、リモート勤務やテレワーク導入する企業の増加により、ここにきて脚光を浴び始めています。
下記のグラフは、総務省統計局から公表された平成30年住宅・土地統計調査の抜粋です。
昭和38年には、空き家が52万戸、空き家率が2.5%でしたが、年々上昇を続けており、平成30年には、空き家が846万戸、空き家率が13.6%になっています。
しかし、空き家の数も空き家率も、これで頭打ちというわけではなく、この先も、まだ増加する可能性の方が高いと言われています。
出典:総務省 統計局
もう1点資料をご覧ください。
下記の表は、空き家率が高い都道府県と低い都道府県のランキングです。
出典:総務省 統計局
空き家率が最も高いのが21.3%の山梨県で、続いて20.3%の和歌山県となっています。
この2県は、実に5件に1件以上が空き家という状況に陥っているのです。
その他、空き家率が高い都道府県には、19.5%の長野県、19.4%の徳島県、18.9%の高知県や鹿児島県が入っており、改めて地方における住宅の需要と供給のバランスが大きく崩れてしまっていることを実感していただけることと思います。
逆に、空き家率が低い都道府県は、低い順に10.2%の埼玉県と沖縄県、10.6%の東京都、10.7%の神奈川県、11.2%の愛知県と続きます。
不動産投資の専門家が、「投資用不動産を所有するならば都内で」ということからも東京の結果には納得ができるでしょう。
埼玉県や神奈川県の首都圏や、名古屋を中心に都市圏を構成している愛知県は、人が集中することで、空き家率が少なくなっているのも理解出来る方が多いと思います。
「大都市があるわけでもないのに、なぜ沖縄県?」と思われる方がいらっしゃるかも知れません。
実は、沖縄県はこの少子高齢化の中においても人口が増加している県なのです。
ちなみに、2030年まで日本国内において人口が増加すると予測されているのは、東京都と沖縄県だけなのです。
裏を返せば、東京都と沖縄県以外の45都道府県については、すでに人口の減少が始まっていることになります。
こういった事情を背景に、特に人口減少が著しい、地方の空き家をどうにか出来ないかという視点で、始まったプロジェクトが「お試しサテライトオフィス」ということなのです。
下記は、サテライトオフィスがある地方自治体の一覧です。令和元年度末時点で、全国で654か所が開設されています。
都道府県別にみてみると、最多の開設数は、74か所の北海道で、67か所の徳島県、52か所の沖縄県、50か所の宮城県と続いています。
開設状況の表には、市町村名も載っていますが、初めて聞く市町村名があるのではないでしょうか。
表に記載がないのは大阪府と滋賀県で、これらの府県は開設数が0となっています。
サテライトオフィスは、上記2府県を除いた、全国45の都道府県で開設されています。
出典:総務省
総務省のHPでは、「お試しサテライトオフィス」の事例が複数紹介されています。
地方にある空き家などを活用した貸しオフィスを、企業が「サテライトオフィス」として活用している様子がご覧いただけます。
ご興味がある方は、ぜひ下記リンクからご覧になってみてください。
出典:総務省
第3章の表に記載のあった徳島県神山町には、14もの企業が進出しています。場所は徳島市内から車で1時間程度だそうです。
この地に、なんと東京都渋谷区の恵比寿に本社を置く「プラットイーズ」という企業が、サテライトオフィスを作っています。
このように、有効活用している事例を目にすると、今後、新型コロナが収束してもコロナ前には戻らないということが確信したと言えるでしょう。
出典:プラットイーズ
出典:総務省
サテライトオフィスを利用する企業にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか。
人口が減少している地方においては、企業における雇用が縮小してしまっている実情があります。
その地に優秀な人材がいても、雇用自体がないのです。
その地域の活性化に力を注ぎたいと考えている若い方たちも、自身が生きていくために、育った地を否が応でも離れなければならないのです。
若い世代がどんどん離れていってしまうと、その自治体も財政面で弱体化し、若い世代を招くような施策も打てなくなるという悪循環に陥ってしまっています。
サテライトオフィスによって、地方に企業が進出すれば、「地元の方の雇用創出」をはじめとして、「移住者の増加」、「空き家の有効活用」に期待することができます。
さらには「地元の企業との協業によるビジネスの創出」ができる可能性も秘めているのです。
このように、サテライトオフィスを構える企業が地方に進出することによって、その地域の活性化に寄与することができるのです。
ひいては、地方創生に取り組んでいる企業として、その企業価値が高まることにもつながります。
地方にいくことで、自然豊かな環境の中で生活することができます。
そもそも、元々地方出身で自然の中での生活を求める方であっても、仕事のために、その希望を諦めざるを得ない時代もありました。
人が多くいる都会から離れて暮らすことで、心身ともにリフレッシュでき、働く社員の生産性向上が期待できます。
現代は社員自身が「より良い働き方」を求める時代です。
今後、多様な働き方ができる企業ほど、人気が出るのは間違いないでしょう。離職率の減少や優秀な人材の獲得ができていく可能性が高いといえます。
BCPという言葉をご存知でしょうか。
Business Continuity Planの略で、和訳すると「事業継続計画」となります。
近年では、2011年の東日本大震災などに代表される災害が起こってしまった際に、企業がその被害を最小限にとどめ、事業を継続すること、および復旧するための計画のことを指します。
災害は、いつどこで起こるかわかりません。
直近数年でも、台風による水害や突風による家屋の損壊などのニュースを多く目にするようになりました。
発生すると多くの地域が震度7の揺れに襲われると予想されている南海トラフ地震も、専門家の間では、30年以内の間の発生確率が7割とも8割とも言われています。
このような状況の中、今後については事業所が1か所のみだと、非常にリスクが大きくなります。
一方で複数拠点を設けていることでリスクの分散になるのです。
1か所に会社のすべての機能が集約されている場合、そこが地震や水害などで機能しなくなってしまうと、企業の継続が危ぶまれてしまいます。
何かあった際には、サテライトオフィスで事業継続できるような体制をとっている企業とそうでない企業とでは、BCPの面で大きな差があるといえます。
「お試しサテライトオフィス」について、実施している地方自治体一覧や、それを利用する企業にとってのメリットについて解説してきました。
導入された背景や、期待できる効果についてご理解いただけたでしょうか。
こちらの記事が、参考になりましたら幸いです。