「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質0にする」菅内閣総理大臣が就任時に語った「2050年カーボンニュートラル」宣言を契機として、日本国内においても、さまざまな「脱炭素」に向けた取り組みが開始されています。
このような取り組みの中で、不動産業界も例外ではありません。
現環境大臣の小泉進次郎氏も「住宅の脱炭素化なくしてカーボンニュートラルはあり得ない」と語っています。
住宅業界にも今後、さまざまな規制が敷かれることが予想されています。
もし、脱炭素・省エネ基準を満たすための、大規模修繕を行った場合にはコストはどのくらいかかるのでしょうか。
こちらの記事では大規模修繕について詳しく解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
2021年3月に新たな「住生活基本計画」が閣議決定されました。
計画の中においては、住生活をめぐる現状と課題として、気候変動問題に対応するべく、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けた対策が急務とされています。
この中で
について触れられています。
出典:国土交通省
そもそも、「脱炭素」は日本だけの取り組みではありません。
2015年に成立した「パリ協定」において、世界の200近い国が合意しているものです。
1997年に定められた「京都議定書」の後継的な取り組みとなっています。
国際社会全体で、地球温暖化対策を進めていくにあたって平均上昇気温を抑えること、そのための温室効果ガスの排出を減少させることを目的としています。
日本もその取り組みについて合意しており、今後強く推進していくことが望まれています。
菅総理大臣の就任時における「カーボンニュートラル」や現在の環境大臣である小泉進次郎氏により「住宅業界なくして脱炭素の目標の達成はない」とされており、今後は住宅における「脱炭素」・「省エネ化」の流れが加速することになるでしょう。
「脱炭素」と聞いて、炭素を一切排出しないのかというとそうではありません。
カーボンニュートラルの考え方としては、炭素自体は排出します。
しかし、何らかの方法で(例えば植物による光合成など)で、最終的にはプラスマイナス0にして環境に影響が及ばないようにしていこうということなのです。
住宅に関していえば、自家発電装置(燃料電池や太陽光発電など)で「作るエネルギー」と「使うエネルギー」の量を同じにして、実質で使っているエネルギーをプラスマイナス0にしようとすることです。
そのために、エネルギーを作り出せる設備の設置はもちろんのこと、エネルギーの消費を抑えるための対策が必要になってきています。
例として、冷暖房をなるべく使わずに済むような断熱材の導入や外気を遮断するような窓サッシ、電気代を抑えるような照明器具の導入などが挙げられるでしょう。
これらが、配備されている住宅を「省エネ住宅」といいます。
以下は、国土交通省から公表されている大規模修繕の定義です。
出典:国土交通省
規模が大きく・工事費が高く・工事期間が長いものを大規模修繕と呼んでいるのです。
どんなマンションであっても、月日が経つにつれて徐々に劣化していきます。
劣化による資産価値の低下を防ぐために大規模修繕を行い、マンション性能の維持を図っているのです。
マンションや修繕箇所によって多少幅がありますが、一般的には新築から10年~15年程度を目安に行われています。
それでは、具体的にどの部分が修繕の対象となっているのでしょうか。
まずは、資産価値の維持に直結するマンションの「顔」である外部です。外部の工事としては外壁の塗装や補修がメインとなります。
その他、屋根の補修及び防水加工、外溝やフェンス、躯体も対象となります。
続いて、マンションの内部です。主に、「共用部分の階段および廊下」、「ベランダおよびバルコニーの塗装や防水加工」などがメインとなります。
その他、サビの発生や塗装が剥がれてしまう「金物」がある部分や、「給水および排水設備」、「ガス設備」、「エレベーター設備」なども大規模修繕の対象になります。
一般的に言われる「大規模修繕」を行った際には、どのくらいのコストがかかってくるのでしょうか。
下記の表は、国土交通省から公表されている、工事総額のグラフとなっています。
出典:国土交通省
戸数に比例して多くなる総工事費ですが、この費用はどこから捻出されているのでしょうか。
下記のグラフは大規模修繕工事費用の調達方法を表したグラフとなっています。
出典:国土交通省
全体で最も割合が大きいのは「修繕積立金」です。
マンションにおける長期修繕計画に基づき、所有者から毎月徴収しているものです。
この修繕積立金は、その名の通りマンションの修繕のために積み立てられているので、ここで利用されるのは当然の話であるといえます。
続いて、一時徴収金や借入金などが続きます。
なぜ、これらの項目が現れるのでしょうか。それは、修繕積立金だけでは、総工事費が賄うことができないからだといえます。
主な原因として、長期修繕計画自体の立案時の甘さや、所有者が滞納などをしてしまっていることが挙げられます。
特に、一時徴収金は工事費で足りなかった分を所有者から、按分で徴収するというものです。
修繕積立金は、決して安いものではありません。
それを毎月払っているのにも関わらず、さらに一時金で100万円などが徴収されたら収益に多く影響が出ます。
そのため、区分マンション物件を購入予定の方は、購入する前に修繕積立金の金額及び、滞納者がいないなどについてきちんと確認することが重要です。
続いてのデータは、一戸あたりの大規模修繕工事金額です。
最も多いのは、75万円~100万円の間で30.6%、続いて100万円~125万円の間が24.7%となっています。
75万円~125万円の間に半数以上が入っているというデータになっています。
ざっくりの計算になりますが、1戸あたり100万円とすると、住戸数50戸なら5,000万円、住戸数100戸であれば1億円かかる計算となります。
さて、「脱炭素」・「省エネ化」にするためにかかるコストはどのくらいになるのでしょうか。
一般社団法人 住宅生産団体連合会から出されている資料によると、200万円を超えるのではないかとされています。
つまり、一般的な大規模修繕と比較して、2倍近くの工事費がかかると考えておいてよいでしょう。
不動産投資の視点で考えると、築年数が経過しているマンションで「脱炭素」・「省エネ化」がなされていない物件の購入については、慎重に検討した方がよいといえるでしょう。
第1章でも解説しましたが、今後は不動産業界にも脱炭素に向けた取り組みが求められます。
政府から、省エネ化に向けたさまざまな補助金制度が出されているものの、大規模修繕のコストが上がる可能性のある物件の所有は、リスクがあるといえます。
いかがでしたでしょうか。
国際社会全体の取り組みである脱炭素・省エネの流れが住宅業界にも、入り込んできていることがご理解いただけたと思います。
今後、住宅業界にも脱炭素のためのさまざまな規制が敷かれることが予想されています。
逐一情報をチェックしていくようにしましょう。
大規模修繕についても、コストアップする可能性があるため、脱炭素・省エネの機能が十分でないマンションの購入については、慎重に検討していただくことをオススメします。