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不動産投資における「デッドクロス」とは?「デッドクロス」を避けるための方法や返済期間について解説!

2021/07/29
不動産投資における「デッドクロス」とは?「デッドクロス」を避けるための方法や返済期間について解説!

不動産投資をしている方、これからしようと考えている方で「デッドクロス」についてご存知でしょうか。

「デッドクロス」は、「元金返済額>減価償却費」となってしまう状態のことです。

この状態になってしまうと、帳簿上では利益が出ているように見えても、その利益に対する税金でキャッシュフローが悪化してしまう懸念があります。

このような状態になるためには、どのような方法があるのでしょうか。

こちらの記事で解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。

不動産投資における「デッドクロス」とは?

デッドクロスは、減価償却費を元金返済額が上回ってしまっている状態のことを指します。

さて、この状態のどこがどのように問題なのでしょうか。

減価償却費は、実際にオーナーの手元からお金が出ていくことはありません。
お金が出ていかないにも関わらず、経費として計上することが出来ます。

これは、不動産投資をしている方は、良くご存知のメリットです。

詳しくは下記リンクからご覧ください。

その一方で、元金返済額は実際のオーナーの手元からお金が出ていきます。
不動産投資に関連することで、お金が出ていっているにも関わらず経費として計上することが出来ないのです。

メリットと反対のことが起きているので、この状態が上手くないことはすぐにご理解いただけることと思います。

実際に、どのような状況なのか具体例で見ていきましょう。
ここでは、デッドクロスを理解していただくことが目的なので、細かいことには触れずシンプルに説明していきます。

例として所得が600万円の会社員の方が、築10年の一棟アパートを購入したとしましょう。

  • 減価償却費について
    10年目まで毎年350万円計上できるものとします。
    また11年目以降(法定耐用年数を経過後)の減価償却費は0になります。
  • 元本返済額について
    金融機関からの融資を受けて毎月返済をしていく内訳は、「元本部分」と「利息部分」からなっています。
    年月が経過すると、毎月の返済総額は変わりませんが、内訳の「利息部分」が減少し「元本部分」が増えていきます。
    そうなると、1年目で150万円だったもの利息が、毎年10万円のペースで減り続けた場合、10年目には60万円となります。
    このようにして経費としての計上が認められている利息がだんだん減少していくのです。
    このペースでいくと、減価償却期間終了後の11年目には50万円しか計上できないことになります。

仮に1年目と11年目で全く同様の収益が上げられていた場合についてシミュレーションしてみましょう。
ここでは、年間の利益を300万円だとします。

1年目は、減価償却費(350万円)とローン金利(150万円)合わせて500万円が費用計上できます。
利益から費用を差し引くと、不動産所得は300万円-500万円=-200万円の赤字となります。

給与所得と損益通算した際に、課税所得が600万円-200万円=400万円に減少するため、所得税や住民税の節税に寄与します。
課税所得が400万円の方の所得税はおよそ37万円、住民税はおよそ40万円です。

一方で、11年目は、減価償却費が計上できず、ローン金利(50万円)のみが費用計上となります。
300万円-50万円=250万円と不動産所得で利益が出ていることになります。

給与所得と損益通算した場合の課税所得は、600万円+250万円=850万円となります。
課税所得が850万円の方の所得税はおよそ132万円、住民税はおよそ85万円です。

つまり、11年目から「デッドクロス」が発生することになります。

1年目と11年目で利益が全く同じにも関わらず、税負担が1年目77万円に対して11年目で217万円に大きく増えています。
そのため、キャッシュフローが急激に悪化する事態となってしまう可能性があるのです。

利益が出ているのに資金繰りが立ち行かなくなると、「黒字倒産」となります。
これが、「デッドクロス」の恐ろしさです。

「デッドクロス」になってしまう要因は返済期間?

デッドクロスになってしまう要因は、複数あります。
1つずつ見ていきましょう。

ローンの返済方法

ローンの返済方法には、大きく2パターンあります。「元金均等返済」と「元利均等返済」です。

元金均等返済は、文字通り元金の返済額が借入から完済まで一定です。
利息の部分だけが年々減少していく形となります。そのため、月々の総返済額は年月の経過とともに減少していきます。

一方、元利均等返済は月々の返済額は借入から完済まで一定です。
内訳として「元金部分」と「利息部分」の割合が変化していきます。

両者ともに、総返済額に変わりはありません。

しかし、「元金均等返済」は、元本部分が一定であるのに対して、「元利均等返済」の方は年々元本部分の返済額が大きくなっていくため、後者の方がデッドクロスになってしまう可能性が高いといえるでしょう。

古い物件(=耐用年数が短い物件)を購入する

減価償却費を計上できる限りは、デッドクロスに陥ることはありません。

それならば、減価償却費を計上できる期間を長くしてしまえば・・・とお考えになる方もいらっしゃると思いますが、そういう訳にもいかないのです。

建物には、「法定耐用年数」が定められています。
鉄筋コンクリート造のマンションは47年、木造アパートは22年となっています。

この年数を超えた分については、減価償却することが出来ません。
つまり、オーナーの都合で期間を設定するのは不可能です。

耐用年数の算出方法が以下のように定められています。

  • 法定耐用年数を超過している資産
    法定耐用年数×20%
  • 法定耐用年数の一部が経過している資産
    法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%

例えば、築20年の木造アパートを購入した場合については、「22年-20年+20年×20%=6年」となり、減価償却できる期間は最長6年です。

7年目以降は1円たりとも減価償却費を計上することができません。
ローン返済期間が、これよりも長い場合には、間違いなくデッドクロスに陥ることになります。

返済期間は関係あるの?

前述のようにローン返済期間も当然関係があります。

「ローン返済期間>減価償却期間」の場合は、必ずデッドクロスになる時がやってきます。
上記期間が同じであれば、デッドクロスになることはありません。

しかし、返済期間が短いことで月々の返済額が大きくなるため、キャッシュフローに影響を与える可能性もあります。

様々なシミュレーションを行い、よりよい返済期間にすることが大切です。

「デッドクロス」になってしまうことを避けるためには?

第2章までで、デッドクロスに陥ってしまう要因をご理解いただけたことと思います。

ここでは、陥ることを避けるために出来ることをお伝えしていきます。

法定耐用年数を意識する

法定耐用年数が減価償却期間に直結します。

これがあまりに短いとデッドクロスに陥ることを避けることはできません。

  • 耐用年数が47年のマンションであれば、築40年を超えているもの
  • 耐用年数が22年の木造アパートであれば、築15年を超えているもの

については、特段の事情がない限りは手を出さない方が良いといえるでしょう。

初期費用を多めに入れる

初期費用を多めに入れることによって、ローン総額を抑えることができます。

ローン総額を抑えることが出来れば、「元金部分」の数字も抑えることが出来ます。

初期費用を多く入れることによる減価償却費計上への影響はないため、デッドクロスになる可能性を下げることができます。

元金均等返済を選択する

第2章で解説しましたが、「元金部分」が徐々に増加している「元利均等返済」ではデッドクロスに陥る可能性がより高くなります。

元金均等返済を選択したからといって、デッドクロスを回避できるわけではありません。

また、利息部分が年々減っていくのは、元利均等と同じなので経費計上できる金額は徐々に減少していきます。

あくまで可能性を下げる程度なので、ご注意ください。

「デッドクロス」になってしまった際の売却判断基準とは?

デッドクロスに陥った場合、一般的に売却するなどして手放した方がオーナーのキャッシュは痛まずに済みます。
売却に際して、1点だけ留意した方が良いことがあります。それは、保有期間です。

投資用不動産を売却する際に、譲渡所得が発生します。
この所得に対する税金が保有期間によって、大きく異なるのです。

「5年以下の場合」と「5年を超えた場合」では、税率が2倍近く異なります。
もし、デッドクロスに陥ったのが4年目ですぐに売却したいと思っても、5年経つのを待ってから売却した方が、最終的には得になる可能性があります。

焦らず、しっかりシミュレーションをしてから行動に移した方が良いといえるでしょう。

ご自身だと計算が出来ない方は、専門家に相談してみることをお勧めします。

まとめ

不動産投資におけるデッドクロスについて解説してきました。
ご理解いただけたでしょうか。

これを避ける一番の対策は、購入前にローン返済期間や減価償却期間を踏まえたシミュレーションを行っておくことだといえるでしょう。

これから不動産投資を始める方の参考になりましたら幸いです。

八木 チエ

株式会社エワルエージェント 代表取締役
みんかぶ(不動産投資)プロデューサー

宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナーなどの経験を活かし、第3者の立場で不動産投資をしていくうえで役に立つ情報をお届けします。

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