相続・税金

親が認知症になった際に不動産の売却やローンの返済、相続はどうすればいいの?

2021/08/06
親が認知症になった際に不動産の売却やローンの返済、相続はどうすればいいの?
  • 「親が認知症になった際に不動産を売却する方法が知りたい」
  • 「成年後見制度について知りたい」

上記のように、親が認知症になったことで自宅などの不動産を売却出来ずに悩んでいる方は少なくありません。
認知症になり、意思能力がないと判断された場合には不動産の売却や相続の承認などをすることが出来ないためです。

では、どうすれば不動産を売ることが出来るのでしょうか?
それは「成年後見制度」を活用することで売ることが出来ます。

ただし、成年後見制度は家庭裁判所に申し立てが必要など、手続きが複雑で注意点も多です。

そのため、こちらの記事では親が認知症になった際に活用するべき成年後見制度の概要や手順、書類、注意点ついて詳しく解説していきます。

親が認知症で不動産を売ることが出来ずに悩んでいる方は最後まで読んで頂き、参考にして頂けると幸いです。

親が認知症になった場合は基本的に不動産を売却して住宅ローンを返済するなどの手続きが出来ない

親が認知症になって判断能力がなくなり意思を確認できなくなると、親が所有している不動産を売却することが出来なくなります。

そのため、親が認知症になって介護施設などに入居した場合に、空き家になった自宅の処分に困るケースは珍しくありません。

誰も使用していない家は劣化も早くなるうえ、固定資産税や都市計画税、維持管理費などの費用が掛かるため売却したほうが効率的ですが、認知症の親の意思を確認できないためです。

そのような状態にも関わらず、住宅ローンなどの支払いが終わっていない場合は、返済するための資金に困るケースもあります。

本人の意思能力が無い場合は売却出来ない

親が認知症になったことで意思能力がないと判断した場合には、基本的に親名義の不動産を売却することが出来ません。

意思能力がない人が行った法律行為は、手続きを含めて無効になるためです。

ちなみに、意思能力の有無は残代金の支払い時や物件の引き渡し時に、司法書士が同席して名義人の意思確認を行うため誤魔化すことはできません。

この時点で本人に意思能力がないと判断した場合は、家族が「売却してほしい」と希望しても司法書士は売却の登記を行えないので注意が必要です。

認知症であっても本人の意思が確認出来る場合は不動産を売却出来る

親が認知症であっても意思能力があると判断出来る場合は、自宅などの不動産を売却することが出来ます。

認知症といっても症状は様々で軽度のものから重度のものまであり、本人が売却するといったことを判断する能力を有している場合があるためです。

では、どういった形で判断するのでしょうか?
通常は司法書士や不動産会社が本人に質問して問題なく受け答えが出来ているかで判断する場合が多いです。

例えば、生年月日やいくらで売りたいなどの「はい」という返答では回答出来ない質問を行います。

さらに、裁判で本人の意思能力を確認する場合には、医師の診断書によって能力を判断するケースが多いです。

認知症で本人の意思が確認出来ない場合は成年後見制度を活用する

親が認知症によって意思能力がないと判断された場合には、不動産が売却出来ません。

しかし、売却出来ないままでは維持管理費などの費用がかかってしまいます。

では、そういった場合はどうすればいいのでしょうか?
それは成年後見制度を活用することで、不動産を売却することが可能です。

ここでは、認知症でも不動産を売却出来る成年後見制度について解説していきます。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、病気や事故によって判断能力が低下した人のために、家庭裁判所が援助する人を選んで、財産の管理などを行う制度です。

この制度には以下の2つの種類があります。

名称

内容

任意後見制度

判断能力があるうちに財産管理してもらう成年後見人を選ぶ制度

法定後見制度

判断能力がなくなった状態で裁判所に後見人を選出してもらう制度

出典:法務省

また、法定後見制度は判断能力によって後見人が以下の3つの類型に分けられます。

 

補助

補佐

後見

判断能力

物忘れなど軽度の判断能力の低下が見られる状態

判断能力が著しく低下している状態

判断能力が無い状態

代理権の範囲

不動産の売却などの家庭裁判所が定める特定の法律行為(本人の同意が必要

財産に関するすべの行為

成年後見人の同意が必要な行為

民法13条に1項に定められている行為の一部(本人の同意が必要)

民法13条に1項に定められている行為(借金、相続の承認、放棄など)

 ―

取り消し可能な行為

民法13条に1項に定められている行為の一部(本人の同意が必要)

民法13条に1項に定められている行為(借金、相続の承認、放棄など)

日常生活に関する行為以外の行為

制度を活用した場合の資格制限

 ―

医師や税理士等の資格や会社役員、公務員の地位を失う

医師や税理士等の資格や会社役員、公務員の地位を失う

出典:法務省

上記のように「補助」、「補佐」、「後見」によって使用出来る権限が異なるため、よく理解しておくことが重要です。

成年後見人になることが出来る人

成年後見人は家庭裁判所が選ぶため、希望した人が誰でもなれるものではありません。

基本的に以下の人から選出されます。

  • 親族

  • 弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家

  • 市区町村長

上記の人の中から家庭裁判所が財産管理や治療、介護、生活に必要な手続きなどを適切に行ってくれる人を選出する形です。

遺産を相続する場合でも成年後見制度は重要

成年後見人制度は遺産相続をする際にも重要になります。

遺産分割協議を行う際に相続人全員が自分の判断で相続内容を承認する必要があるため、相続人が認知症などで判断出来ない場合は遺産分割協議が行えないためです。

このような場合は、家庭裁判所に成年後見制度の申し立てを行って、選出された後見人が遺産分割協議に参加する必要があります。

成年後見制度を活用した不動産売却の流れ

成年後見制度を活用した際の不動産売却の流れは以下の6つです。

  • 家庭裁判所に成年後見制度開始を申し立てる

  • 必要な場合は医者の鑑定を受ける

  • 後見人が選定されて審判が確定する

  • 不動産会社と売買契約を行い売却する

  • 家庭裁判所から許可を得る

  • 裁判所からの許可後所有権移転登記を行う

上記の手順について説明していきます。

家庭裁判所に成年後見制度開始を申し立てる

認知症の親の不動産を売却したい場合には、成年後見人制度の申し立てを行います。

この際に申し立てを行える人は、本人や配偶者、四親等以内の親等です。

申し立てる際に必要な書類も多く手続きも複雑なため、家庭裁判所や自治体の相続窓口、弁護士や司法書士に相続することをおすすめします。

必要な場合は医者の鑑定を受ける

申し立てが受理されると、家庭裁判所が誰を後見人に選任するかについて審理します。

この際に、申し立て人や本人、後見人の候補者などの聞き取りを行って事情を確認し、適切な後見人を選ぶための判断材料を集める形です。

その後、裁判所が必要と判断した場合には、本人の意思能力を医師の鑑定によって確認するケースもあります。

後見人が選定されて審判が確定する

家庭裁判所が集めた判断材料から適切な後見人を選任して審判が確定します。

その後、成年後見登記を行って不動産売却の手続きを開始するという手順です。

なお、申し立てから審判までの期間は2ヶ月程度掛かります。

不動産会社と売買契約を行い売却する

選任された後見人が以下の不動産の売却の手続きを行っていきます。

  1. 不動産屋に売却を依頼する

  2. 不動産屋と媒介契約を結ぶ

  3. 売買契約を結ぶ

  4. 不動産を引き渡す手続きを行う

  5. 売却金の決済と引き渡し

ただし、自宅などの居住用物件の場合は家庭裁判所の許可が必要なので、注意が必要です。

ちなみに、居住用物件以外の不動産については許可が必要ありません。

居住用物件の場合は家庭裁判所から許可を得る

居住用物件を売却する場合は、家庭裁判所に申し立てを行って許可を得る必要があります。

許可が必要な物件は本人が居住している物件や、介護施設などから戻る予定がある家です。

そのため、申し立てをしたからといって必ず許可が得られるわけではありません。

下記のようなケースでは許可が下りない可能性があります。

  • 本人が自宅に戻る可能性がある場合

  • 自宅を売却しなくても介護施設の入居費用などを捻出出来る場合

許可が下りなかった場合は、当然ですが売却することは出来ません。

裁判所からの許可後所有権移転登記を行う

裁判所の許可を得て不動産の売買契約が成立したら、決済と引き渡しを行います。

その後、所有権移転登記を法務局で行って不動産の売却が完了です。

 成年後見制度を活用する際に必要な書類

成年後見人制度を活用する際に必要な書類は以下になります。

  • 申立書

  • 申立事情説明書、親族関係図、親族の意見書、後見人等候補者事情説明書

  • 申立人の戸籍謄本(本人以外が申し立てる場合)

  • 本人の戸籍謄本、戸籍の附票、登記事項証明書、診断書

  • 成年後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、登記事項証明書

  • 申立書付票

  • 本人に関する報告書

  • 診断書

  • 後見登記されていないことの証明書

上記の申立書については家庭裁判所でもらうことが可能です。

 成年後見人制度を活用する際の注意点

成年後見制度を活用する際は以下の3つのポイントについて注意が必要です。

  • 弁護士などの専門家が後見人になったら場合は費用が掛かる

  • 候補者が必ず成年後見人選ばれるとは限らない

  • 不動産売却後も成年後見人として活動する必要がある

それぞれについて説明します。

弁護士などの専門家が法定後見人になった場合は費用が掛かる

弁護士などの専門家が後見人になった場合は、報酬を本人の財産から渡す必要があります。

例えば、月3万円の場合は年間36万円が必要です。

なお、家族の場合でも法定後見人として報酬を受け取ることが出来ます。

候補者が必ず成年後見人選ばれるとは限らない

前述したように成年後見人などの選任は家庭裁判所が行います。

そのため、候補者として申し立てを行っても必ずしも後見人になれるとは限りません。

さらに、後見人の選任については家庭裁判所が職権で判断する事項のため、選任されなかったといって不服申し立てを行うことは出来ません。

不動産売却後も成年後見人として活動する必要がある

成年後見人等に選任された場合、不動産売却して終わりというわけにはいきません。

その後も成年後見人として本人が亡くなるまで財産管理などの仕事を行う必要があります。

ただし、病気や転勤など後見人業務が出来ない場合は辞任することが可能です。

まとめ

親が認知症になり不動産を売却出来ない場合は、成年後見制度を活用することで不動産を売却することが可能です。

ただし、注意点も多く手続きも複雑なため、それを理解したうえで慎重に手続きを進める必要があります。

この記事を親が認知症になって不動産売却を検討する際の参考にして頂けると幸いです。

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八木 チエ

株式会社エワルエージェント 代表取締役
みんかぶ(不動産投資)プロデューサー

宅地建物取引士・2級ファイナンシャルプランナーなどの経験を活かし、第3者の立場で不動産投資をしていくうえで役に立つ情報をお届けします。

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