アメリカのテーパリング(量的緩和政策の縮小)の加速が決定し、早ければ3月に終了の見込みとなっています。
新型コロナ禍による経済不安のニュースが連日報道される日本とは対照的に、米国経済は力強い回復力を見せおり、ほぼ間違いなく2022年に利上げに踏み切ることが予測されています。
では、いったいなぜアメリカは利上げを行うのでしょうか。また、どのような影響を日本の不動産市場へ与えるのでしょうか。覚えておくべきことなどポイントをまとめました。より詳しく知りたい方はぜひ最後までお読みください。
2020年2月24日を起点に、中国以外への新型コロナウイルスの感染拡大を受けて世界規模で株式などのリスク資産の大幅な下落が始まりました。いわゆるコロナショックです。
世界経済は大混乱に陥り、アメリカでも株価が暴落し失業者が急増しました。よって、FRB(米連邦準備理事会)はこの事態を解決して経済を支えるために、金利の引き下げや現金の供給を増やす金融緩和を行いました。
この経済対策の効果もあってか、2020年の後半からは、米国の経済は回復傾向に向かいました。現在は、失業率の低下やダウ平均株価など代表的な株式指数の過去最高額の更新など、経済は元に戻ったのではないかという見方もあります。
しかし、経済が急激に回復した一方、コロナ禍による供給不足や賃金上昇等の影響により、急激に物価が上昇し、インフレーションに繋がりました。
2021年11月にはCPI(消費者物価指数)が前年同月比の6.8%の上昇と高水準に達したことにより、インフレーションへの懸念が強まっています。食品や住宅、ガソリンなどの価格が上昇したため、現政権への支持率低下など国民は不満を抱いています。
そこで、インフレ対策としてFRBはテーパリング(量的緩和政策の縮小)の開始を決定しました。
分りやすく言うと、資金供給量を減らし、金利を引き上げることで、インフレーションの抑制を狙う経済対策を実行することを決めたのです。
ではコロナ禍以降の日本の経済状況はどうなっているのでしょうか。
日本も世界経済と同様、コロナショックの影響を受け、失業率が上昇するなど景気が悪化しました。
そんな中で、一律10万円の給付や補助金などの政策でゆるやかに経済回復は進んでいるものの、日本のCPI(消費者物価指数)は前年同月比で0%前後が続いています。
よって、日本が米国と同じように利上げに踏み切る可能性は少ないと考えられます。
日銀は「物価上昇率2%」という政策目標を掲げていますが、コロナショック後の経済対策ではこの目標にも届いておりません。
この目標を達成し、経済の回復をより進めていこうとしている中で、日本の金利が上がる可能性は極めて低いと考えられます。米国が利上げをしたからと言ってここは分けて考えるべきでしょう。
この状況を不動産投資という観点からとらえると、現行の超低金利が続く可能性が高いと言えます。
しかしながら、アメリカの利上げが国内の不動産市場に与えると思われるリスクがあります。それが「円安」です。
米国の経済政策で金利が引き上げられると、その高金利を目的として米国ドルに対し多くの投資資金が集まることが予測されます。
よって、大量のドルが買われることにより、その他の通貨の対ドル価格は安くなります。日本においては、「ドル高」「円安」が進行するということです。
この円安の進行は、輸入品の価格の上昇をもたらすことが予想されます。よって、食料品や日用品の価格も上昇することで、家計が圧迫されることが考えられます。
また、国内の企業から投資先が海外へとむけられることにより、「株価の下落→資金調達コストの増加→国内企業の業績悪化→実質賃金の下落」にもつながりかねません。
日本は資源やエネルギー、食糧などにおける輸入品への依存率が高いため、価格が上昇したとしても国内の生産で需要をまかなえるポテンシャルはありません。
賃金が上昇しないまま物価が上昇してしまう、「スタグフレーション」になる可能性すら秘めている、という危機感は頭に入れておいて良いかもしれません。
これまで米国の利上げの背景・日本の経済状況などについて解説しましたが、日本の不動産市場への影響はどのようになるのでしょうか。こちらの章では抑えておくべきポイントをまとめました。
一般的にアメリカの金利引き上げにより、負の影響を受けると言われている資産をまとめました。一概に価値が必ず下がるという訳ではないので慎重な判断は必要です。
金利が上がると株価は下落し、金利が下がると株価は上昇する傾向があると言われております。
株式は大きなリターンの可能性がある反面、損失のリスクも低くありません。
よって、金利が上がるような局面では、債券や定期預金などリスクの低い金融商品が選好され、株価は下落する傾向があると考えられます。
特に、評価価格の高い株式は、評価価格の低い株式と比較して、リスク懸念の観点から売却されやすく、つまり下落する可能性が高いと考えられます。
金利は住宅ローンへの影響もあるため、不動産価格が変動する可能性もあります。
ただ不動産に関しては、投資の観点か否かで考え方も異なると言えます。
金利が上がると物件の価格は通常下落します。そのため、金利が下がるまで買い手がつかず市場に出回る物件総数は少なくなることが予想されます。
一方で、住宅ローンの金利が上がれば、ローンを組んで不動産を購入する層の減少が考えられます。よって、賃貸物件の市場は拡大することが予想されるため、不動産投資という観点からは流れは上向きといえる相場も出てくる可能性はあります。
新興国の債券・通貨は一般的に米国の影響を強く受けると言われております。
実際2013年では、アメリカのテーパリング示唆が新興国の金融市場に影響を与え、アメリカ以上に大きく相場が変動しました。
米ドル建ての債券をどれほど発行しているかで影響を受ける度合いも変わってきます(割合が高いほうがより影響を受ける)ので、新興国に投資する場合はドル建て債券の発行割合を意識した方がよいかもしれません。
金は安全性の高い資産として代表的ですが、一般的に金利が上がると価格は下落すると言われています。
金利が上がると、金と同様に安全性の高い国債や定期預金などの利回りが上昇する一方、金自体には利回りが見込めず、相対的に投資対象として選ばれにくくなるからです。
しかし過去の市場のデータからは、必ずしも金利と逆相関して価格が長期的に推移したというエビデンスはありません。金利の上昇とともに価格が上昇する場合もあれば、金利の低下とともに価格が下落した相場もありました。
では、このアメリカの利上げにより日本の住宅価格は上昇するのでしょうか。
結論としては、価格が上がり、日本国内での住宅購入に影響を及ぼすリスクが予想されます。
理由としては、上述した円安の影響が予想されるからです。
円安が進むことにより海外から輸入している原材料、原油の価格の上昇が進行し、建築費用の高騰から、住宅価格が上がることが予測されます。
不動産投資上大きなリスク因子となるアメリカの輸入木材の価格の上昇は、これまで需要に対して供給が不足することで起きていました。
それに相まって、この米国の金利上昇から円安の進行という経済市場の流れから輸入木材の価格がさらに上昇することは可能性として否めません。新築物件投資を検討されている方は注意する必要があると言えるでしょう。
利上げの影響によって、住宅ローンの金利は上昇するのでしょうか。
結論としては、アメリカの金利引き上げがすぐに日本の住宅ローンの金利上昇に繋がることは考えにくいです。
理由としては、日本国内の経済状況はアメリカと異なるからです。
上述したように、コロナショック以降、物価が高騰したアメリカと異なり、日本の物価はあまり上昇していません。特別定額給付金を配布しても、日銀の掲げる「物価安定目標」の2%には届きませんでした。
よって、理論上この目標を達成するためには金利の引き上げは逆効果となります。
日本の物価が今のように0%前後で推移している限り、住宅ローンの金利の引き上げは考えられにくいと言えるでしょう。
アメリカの金利引き上げが日本の不動産市場にもたらす影響をまとめさせていただきました。
なお、本記事に書かれた内容はあくまで一般論です。市場を正確に予想することは誰しもができないことであることを頭に入れながら、常にアンテナを張り、新鮮な情報を仕入れることが投資の上では最も大事なことと言えます。
ご自身で納得のいく判断が下せるよう、情報収集には力を入れておきましょう。