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3度の手抜き工事の経験者から学ぶ「失敗しない修繕」

2019/12/24
3度の手抜き工事の経験者から学ぶ「失敗しない修繕」

前回の記事で、「素人」職人の増加で、建物の修繕で施工不良が増えている実態を紹介した。今回はこうした状況の中で、施工不良で被害に遭うのを避ける方法について見ていく。まずは被害を経験した不動産投資家の話から紹介しよう。

3度の施工不良を経験した原口健吾さん(仮名・50)は、防止するキーワードとして「見積もり」と「工事の監視」を挙げる。前回の記事で紹介したように、原口さんは保有する1棟6室のマンションで、屋根の防水工事で施工不良の被害に遭っている。

この経験から、原口さんは以後の修繕工事で、下の図に示したように、①詳しい見積もりをもらい、②そこに記載された施工内容を理解し、③修繕を依頼した先が見積もり通りに工事をしているか、しっかり監視する――という3つの防止策を講じている。

■原口さんが挙げる施工不良を防ぐポイント

  1. 詳しい見積もりをもらう
  2. 施工内容を理解する
  3. 施工中の様子を極力「監視」する

バーチャル現場監督になる

原口さんは、4度目の修繕工事で、次のような依頼をした。

「屋根の『縁切り』をしたら、施工箇所を写メで送って下さい」

と現場監督に施工箇所を撮影して、送信するように求めた。水漏れを防ぐ「縁切り」が実施されたかどうかを自分の目で確認するためだ。

縁切りは、屋根修繕に必須な施工工程の1つ。屋根瓦と屋根瓦の間にすき間を持たせて、雨水が外に流れる経路を造る作業だ。これを怠ると、屋根瓦の下地に侵入した雨水の逃げ場がなくなり、貯まってしまう。気付いた時には、軒先の裏側から水漏れが発生する。

原口さんが過去依頼した屋根修繕では、3回に渡り「縁切り」が見過ごされてきた。どの業者も信用できなくなった苦い経験から、自らの施工チェックの必要性を強く感じた。

実際に現場監督から届いた「縁切り完了」の屋根が、下の画像だ。

原口さんが送ってもらった「縁切り」の画像

赤く囲んだ箇所を見ると、屋根瓦と屋根瓦の間にわずかなすき間があることが見て取れる。この隙間があれば、屋根瓦の下にたまった雨水を外に逃がしてやることができる。「確かに縁切りされている」。これでようやく、原口さんは安心できた。

過去の苦い経験から、施工不良を防ぐには、任せきりではなく自分もバーチャルの現場監督として監視する手間を厭わないことを痛感したのだ。

修繕工事の大まかな流れを掴む

不動産投資に限らずどんな投資でも、勉強と努力なしに継続的にリターンを得るのは難しい。施工不良についても同様。余計な支出を防ぐためには、まず基本対策として修繕工事の流れを頭に入れておく必要がある。下の図は、大きく6つの手順に分けている。

まずは、不具合が見つかったら修繕を依頼する業者を見つけて、相談する。次に、問い合わせた業者から施工箇所の劣化状況を確認するための現地調査が入る。そして、業者から調査を受けた施工プランを記した見積書を受け取る。見積もりを基に工事内容や金額を突き合わせ、合意すれば契約する。着工し竣工後、最終確認を経て引き渡しとなる。

 修繕工事の大まかな流れ

ステップ

内容

1業者に相談する
2業者が劣化状況を確認
3見積もりをもらう
4契約を結ぶ
5着工~完工
6引き渡しへ

 6つのうち濃い青色にしている「見積もり」と「工事」については、施工不良に陥りやすい要注意の箇所だ。施工不良とは、なすべき工事がなされていないことで生じる問題だからだ。

過去の3回とも必要な「縁切り」をせず

実は、冒頭に紹介した屋根の修繕を3度も行うはめになった原口さんは、施工した3つの業者のどの見積書にも縁切りの項目が入っていなかった。

本来ならば修繕工事のプロである業者が縁切りを含める見積書を作成して、依頼者に工事内容を説明して実施しなくてはならない。ただし、契約は当事者同士の合意事項であるという原則を当てはめれば、原口さんが縁切り工事を要求しなかったことも施工不良を引き起こしてしまった一因になる。

その点を踏まえれば、不動産投資家は自身の物件を修繕するにあたっては、見積もりを詳しく書いてもらい、その内容を全て把握するくらいの意欲が欠かせない。「工事内容をしっかり理解した上で、修繕現場をチェックすれ不良工事のリスクを抑えられるはず」と原口さんは言う。

とはいえ、見積もりに「縁切り」が入っていないことを、素人が指摘するにはハードルが高い。そもそも縁切り工程をしないようなことはせず、しかも適正な価格で施工してもらい、アフターサービスもしっかりしている業者に依頼できれば、問題はなくなる。

ではどうしたら信頼のおける業者に、適正な価格で依頼できるのか。上に示した修繕工事の流れに沿って、ポイントを見ていこう。

ステップ別の注意点

まずステップ1に挙げた、相談する工事業者に信頼のおける業者を選ぶ方法だ。そのやり方には「仲間からの紹介」「業界団体からの紹介」「口コミサイトの利用」がある。

 信頼できそうな修繕業者の見つけ方

仲間を作り、業者を紹介してもらう
家主による勉強会団体 「家主の会」一覧


業界団体から紹介してもらう
優良リフォーム支援協会
大規模修繕工事・優良職人支援機構


口コミサイトを利用する
ホームプロ
リフォーム評価ナビ

仲間からの紹介とは、賃貸経営がうまい大家さんと知り合い、おすすめの修繕業者を紹介してもらうこと。知り合いを作るために、「家主の会」へ入会するのがいいだろう。家主の会とは、大家さんが集う勉強会サークルのようなもので、全国各地にそれぞれのコミュニティーが点在している。

10人程度の小規模なものから、500人を超える大規模なものまで幅広い。それらをまとめたのが、上の表のⅠに記した「家主の会」一覧である。ちなみに原口さんも、とある会に入っており、仲間を作って信頼のおける修繕業者を紹介してもらっている。

家主の会に入るのが煩わしいと感じるなら、施工不良に警鐘を鳴らしている業界団体から会員企業を紹介してもらうのも一つの手だろう。また、口コミサイトから評判のいい業者を探すことも有効だ。

また、信頼できそうな修繕業者を選ぶ上では、「住宅瑕疵(かし)担保責任保険」の加入業者を選ぶ手もある。「住宅瑕疵(かし)担保責任保険」という国交省管轄の保険制度。瑕疵とは「欠陥」のこと。

2005年の姉歯秀次・一級建築士(当時)によるマンションの耐震偽装事件を機に施行された「住宅瑕疵担保履行法」に則ったもので、工事会社が加入する。全ての修繕箇所が保険対象になり、期間は1~5年。万が一瑕疵が見つかれば、保険で補修費用をまかなうことができる。

この保険は国土交通大臣が指定した保険会社(住宅瑕疵担保責任保険法人)に業者が保険料を納付して、問題が生じた時に保険会社から保険金が支払われる。保険に加入するには保険会社の審査があるので、この保険の加入業者は一定の信頼性がある、という前提が成り立つ。万が一、未加入業者で、この保険の加入を依頼して拒まれたら、工事を頼むのを避けるという判断もできる。

性格の異なる3社から相見積もりを取る

ステップ3と密接に関わるが、相談する工事業者は最低でも3社を選び、各社から見積もりをもらうことが欠かせない。俗に言う相見積もりだ。

業者選び、つまり相見積もりを取る上で押さえておきたいのが、性格の異なる業者を選ぶことだ。1つの手法が、下の図に示したように地元と大手の修繕業者、そして一級建築事務所と、3社に依頼することだ。

見積もりの完成度を上げる3ステップ

ステップ1相見積もりを取る~最低3社に全ての施工工程を詳細に記入してもらう

大手の修繕業者

地元の修繕業者

一級建築士事務所
ステップ2相見積もりの施工内容を確認する
ステップ3工程の過不足を整理して、信頼のおける業者に再度見積もり依頼、契約書に明記する

必要な修繕項目を思いつく限り挙げてもらう

次にステップ3の見積もりといよりは相見積もりを取る際のポイントを見ていこう。

「それそれの業者に、必要な修繕項目を思いつく限り挙げてもらい、各項目について細部まで比較することが重要です」

こう指摘するのは、関西圏で約400戸のアパート・マンションを所有する岸史子さん(仮名・45歳)。岸さんも、「高架水槽の防水塗装の省略」「シーリングの増し打ち(シーリングを交換せず、上から張ること)」といった施工不良に見舞われた苦い経験を持つ。実は上の図は、岸さんがこれまでの反省を生かして作成したものだ。

あらゆる修繕項目を挙げてもらえば、必要な施工工程を知ることができる。また相見積もりを比較する際には「どんな施工が抜けているか」「何が余計か」を見極めるための取っ掛かりを掴むことができる。

ただし、修繕施工の細かい工程は複雑で分かりづらい面もあることはたしか。不動産投資家の中には、時間を割きにくいサラリーマン投資家などもいる。そんなときは、見積もりや工事費を第三者機関に見てもらうのも一つの方法だ。

例えば、住宅リフォーム・紛争処理支援センターには専門の相談窓口がある。また、同センターには見積もり内容を精査してくれる専門サービス『住宅リフォーム見積チェックシステム』まで用意されている。

 見積もり・工事費をチェックする方法

相談窓口を利用する
住宅リフォーム・紛争処理支援センター
チェックサービスを利用する
住宅リフォーム・紛争処理支援センター
比較サイトを利用する
リノコ

比較サイトで工事費の相場を確認することもできる。リノコは各業者の材料費や工事費など含めた施工費用を比較できる上、利用者からの口コミも掲載されている。リフォームに限らずどのような口コミも、全面的に信頼するのはリスクを伴うが、SNS(交流サイト)時代ならではの情報をうまく使いこなすことは今後、重要になるだろう。

見積もりの合意事項を契約書に記載

信頼できそうな業者を見つけ、見積もりの完成度も高めた。いよいよ契約して正式な工事に入る。その際のポイントを見ていこう。先に示したステップ4と5に関する部分だ。

「契約の際には、見積もりに関しての合意事項を示す契約書を交わすことが必要」。こう語るのは、優良リフォーム支援協会(東京都葛飾区)の畑裕樹理事長だ。見積もり内容に法的拘束力を持たせるためだ。

不具合が出た際に、見積もり通りの工事をしなかったためなのか、見積もり通りの工事をしたものの、一部に手抜きがあったのかなど様々なケースが想定されるが、契約書が交わされていれば責任の所在を明らかにしたり、追加工事の負担などを話し合ったりする際に問題が明確になりやすい。

ステップ5の工事で、キーワードになるのが監視。冒頭に紹介した原口さんは、見積もり通りの工事をしたかことあるごとに現場写真などで確認した。原口さんと、大阪の岸さんは、なるべく修繕現場に顔をだし、自ら監視する意思を持つべきだと主張している。

ただ、この方法も先ほどの時間の自由が利く専業投資家でないと難しいだろう。また遠方に物件を持つサラリーマン投資家、足腰が不自由な高齢者などが、日中現場に赴くのは困難だ。

インスペクションを活用する

「そんなときは、検査会社に頼るのがおすすめ」。こうアドバイスするのは、大規模修繕工事・優良職人支援機構(東京都豊島区)の立岡陽代表。

検査会社とは、事業主にかわり現場の各施工工程を検査してくれる第三者機関。こうした検査を「インスペクション」とも呼ぶ。

インスペクションで行うのは、次の3つの確認。建物の劣化状況の確認、仕様書・見積書の確認、施工中と施工後の確認だ。

検査員は建物の劣化状況を確認した上で、修繕業者が作った仕様書・見積書」の中身が適切か否かを評価する。不足があれば指摘して直してもらう。その後、チェック箇所と合格水準を職人と擦りあわせて、ようやく施工に入る。検査会社は施工工程を1つずつ見ていく。

注意したいのは、検査会社が全ての施工を常時“監視”してくれるわけではないということ。全ての職人に検査員を割り振り、常時監視をさせるのは「不可能ではないが、例えば5人の職人に5人の検査員を張りつかせれば、人件費が相当膨らんでしまう」(立岡代表)。

ちなみにインスペクション費用は、施工費と比べればかなり安い。例えば1棟6戸の3階建てマンションの外壁・防水工事を200万円で行う場合、インスペクション費用は「大体5万~10万円」と施工費の1割未満となる。

もし分からない人は、下図の公的機関の相談窓口に頼ってみるといいだろう。何かアドバイスをもらえるかもしれない。トラブル発覚後の相談も受け付けてもらえる。

トラブル時の相談窓口の例

コミュニケーション力が問われる

ここまで読んで、「工事を依頼する顧客である自分が、なぜそこまでして汗を流さなければいけないのか」と納得できない不動産投資家もいるかもしれない。しかし、実質の依頼者は家賃を払う入居者だと考えれば、合点がいくはずだ。

不動産投資家が負担した修繕費は、入居者が支払う家賃から回収していくことになるので、修繕費を実質的に負担するのは入居者であり、入居者に不安や不満を覚えない物件状態にするのは、不動産投資家が果たすべき善管注意義務になる。

手抜き工事をされてしまうリスクを防止できる努力を貸主が「不要」と一蹴したら、居住者から「無責任」と思われても仕方がない。物件を最良の状態に保ち入居者から満足度を高めれば、物件の収益性を保ち、不動産投資家の懐を守る対策にもなり得る。

これまで紹介した施策で施工不良を完璧に防ぐことは難しいが、複数の段階でチェックするはフェールセーフの思想につながり、施工不良のリスクをより小さくしていく可能性を高める。

不動産投資は他の投資と違い、様々な関係者とのコミュニケーションによって成り立つ性格を持ち、その点ではビジネスという方がふさわしい。不動産ビジネスでは切っても切り離せない修繕においても、積極的なコミュニケーションが成功に導くカギになる。

(構成/真弓重孝=みんかぶ編集部) 

千住さとし

不動産ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。

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