インタビュー

対談インタビュー/コロナ禍のなか、活気づくリースバックの将来性(Vol.1)

2021/08/27
対談インタビュー/コロナ禍のなか、活気づくリースバックの将来性(Vol.1)

お子様の進学に係る教育資金や、老人ホーム入居時に発生する老後資金など、短期間にまとまった資金を必要としている方などを中心に、リースバックが注目を集めています。

リースバックとは、自宅を売却しつつも買主と賃貸借契約を締結することで、今まで通り自宅に住み続けられるというもの。
ここ数年で成約事例数を大きく伸ばしているこのサービスですが、今後、さらに注目度が増していくと思われます。

そこで今回は、「任意売却119番」相談センターを開設し、ローン返済に困った人々の相談を受け付け、リースバックなどの提案も行っているナレッジパートナー株式会社の富永順三社長と、不動産投資のコンサルティング事業を展開しつつ、リースバック物件の取扱いに注力している、株式会社アジアゲートホールディングスの松沢淳会長にインタビューを実施。リースバックの背景やメリット、注意点、投資家目線で見た将来性などについてお聞きしました。

3回連載の初回となる今回は、リースバックの背景とメリッをお届けします。

リースバックが注目を集めている背景

――最近、リースバックという言葉をよく耳にしますが、リースバックの需要は増えているのでしょうか?

富永 ニーズはとても高いです。元々は金融機関が執り行うリバースモーゲージというサービスが注目されていましたが、こちらは条件面でハードルが高く、使い勝手が悪くて・・

――リバースモーゲージというのは、主に老後の生活費に不安をもつ高齢者が自宅を担保にし、金融機関から借入をして返済は利息のみで元本返済は物件の売却で行う仕組みのことですね。ハードルが高いとは、どういう意味でしょうか?

富永 リバースモーゲージは満期がくるまで、もしくは亡くなるまで自宅に住み続けることができます。しかし、その間に災害などさまざまな要因で担保物件の評価価値が下がる可能性があります。
そのため、不動産取引の専門家ではない金融機関にとってはリスクの高い案件で、取り扱う場合も駅近の物件など優良な物件限定されてしまいます。さらに、査定額もかなり厳しくなるケースが多いのが現状です。

松沢 そのため、近年は金融機関だけでなくどなたでも物件を購入でき、売主にとってもリバースモーゲージより査定額が高くなる可能性の高いリースバックが注目されています。とくに、まとまった資金需要があり自宅売却を検討したいが、まだ自宅に住み続けたいという方の注目が集まっており、今後も需要は高まると思います。

富永 日本人の個人資産というのは、約7割が不動産だといわれています。そのため、年金や手元の現金は少ないが、土地や家はあるという高齢者がかなりおられます。リースバックはそういう方々にとって非常に使い勝手の良い仕組みですから、潜在的なニーズはかなり高いと思います。自宅を売却してまとまった資金を得ながらもそのまま住み続けることができるほか、売却したことを知られにくいので世間体がよいということも魅力の一つです。

松沢 資金ニーズもかなり幅が広いですね。高齢者に限らず、働いている世代でも子供の進学のための費用など、さまざまなニーズがあります。

――お二方、それぞれの会社におけるリースバックの取扱量も増え続けているのでしょうか?

松沢 弊社はまだ始めたばかりで月に4~5件ですが、今後さらに増えていくと予想しています。

富永 弊社は自社で買うのではなく不動産会社や投資家の方々へ紹介する形ですが、相談件数は増えています。始めたのはリーマンショックの後でしたが、元々リースバックは、法人の事業再生や企業再生のニーズで誕生した手法です。直近では電通の本社ビルの売却がそうですね。
ほかにも、NECのロケット型の本社ビル等もよく知られた事例で、両社とも売却後のオフィスをそのまま利用していますので、外からは何も変わっていないように見えますよね。

リースバックのメリット

――リースバックの最大のメリットは売却後も住み続けられるということでしょうか?

富永 日本人は海外と比べて、持ち家という意識が強いと思います。海外の場合は、例えば子供が増えたら大きな家、自立して独立すれば小さな家というように状況によって引っ越すことが一般的ですが、日本人は一度持った家にずっと住み続けるケースが多いです。家には想い出もつまっていますし、子供や孫が戻ってくる場所というように用途もさまざまですから、住み続けられることは大きなメリットだと思います。

松沢 しかも、売却したことをご近所の人に知られないまま住むことができます。また、条件にもよりますが、買い戻しのオプションを付けることもできます。

富永 つまり、売ったという感覚ではなく、預けているという感覚に近い。弊社のお客様にも多いですが、何世代かが一緒に住んでいるご家庭で、お子様の進学費用や養育にかかる費用などの現金が足らずに困っている場合、リースバックを利用して所有者をお父様からいったんリースバックし第三者へ移行、数年間賃料を払って住み続けた後に就職したお子様が買い戻すというケースがあります。そのため、一時的に第三者に預け、時間を買うという今までに無かった新たなサービスと付加価値が生まれるのです。

松沢 まさにその通りで、時間を先延ばしにできるというのが大きなメリットだと思います。富永さんの話のような世代交代のケースのほか、数年後に老人ホームに入るための資金を確保するなど、将来のライフプランに合わせて売却したり買い戻したりすることができるのは、大きな魅力だと思います。

――お子様が買い戻した場合は、相続税を支払う必要もないですね。

松沢 相続税は資産にかかるものなので、単純にテナントとして入っている場合は相続税の対象にはならないですね。税金という意味では、賃貸期間中の固定資産税も払う必要がなくなります。

富永 相続税は、相続が発生してから10か月以内に納めなくてはなりませんが、不動産以外の資産が少ない場合、自宅を売却して相続税の資金を準備するケースがあります。しかし、相続者がまだ自宅に住みたい場合、一旦自宅をリースバックすることで、必要な資金を準備することができます。そして、数年後に買い戻し優先権(優先権の対象者は本人や子供、親族など自由に設定可能)を利用して買い戻す事例もよく見られます。

松沢 また、兄弟や親戚が多いと、誰がどのように引き継ぐのかで問題となることがよくありますよね。そういった相続に関するトラブル回避の意味でも有効だと思います。

〈Vol.2へ続く〉 後編記事はこちら

後編記事


対談者プロフィール

富永 順三(とみなが じゅんぞう)氏

株式会社ナレッジパートナー代表取締役
任意売却119番 代表
大手企業、経営コンサルタント、阪神大震災復興支援NPO、経済振興財団、企業再生・М&A会社等を経て現職。関西いのちの電話運営委員、経済産業省・各市・商工会議所委員多数。

松沢 淳(まつざわ あつし)氏

株式会社アジアゲートホールディングス 代表取締役会長 1989年、株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)入社。その後、トールエクスプレスジャパン株式会社取締役、株式会社廣済堂社外取締役などを経て、2020年7月に株式会社アジアゲートホールディングス代表取締役社長に就任、2020年12月会長へ就任。

関連記事

木村敬

株式会社ウイット 代表取締役
各雑誌、書籍、webコンテンツなどにおいて、エンタメ情報、金融関連情報などを取材・執筆。空き家問題ほか、不動産関連のお役立ち情報をお届けします。

関連コラム