インタビュー

対談インタビュー/コロナ禍のなか、活気づくリースバックの将来性(Vol.2)

2021/08/27
対談インタビュー/コロナ禍のなか、活気づくリースバックの将来性(Vol.2)

自宅を売却しつつも買主と賃貸借契約を締結することで、今まで通り自宅に住み続けられるリースバック

コロナ禍のなか、大きな注目を集めているこのサービスについて、任意売却119番を運営するナレッジパートナー株式会社の富永順三社長と、株式会社アジアゲートホールディングスの松沢淳会長にインタビューを実施。

3回連載の2回目となる今回は、リースバックの金額設定の仕組みと注意点を紹介します。

前編記事

物件の売却額、賃料を設定する際のポイント

――売却後、住み続けるためには賃料が必要ですよね。その賃料や物件の売却金額はどのように決めるのでしょうか?

松沢 売却額はおおよその相場を上限とし、支払い可能な賃料から逆算して金額を決めていきます。賃料はその方の収入や生活水準によって変わります。この支払い可能な賃料や将来のライフプランによって売却金額や賃料を決められることも、この仕組みのおもしろい部分だと思います。

富永 一般的に年間の賃料は売却額の6~10%くらいですね。例えば売却額が3000万円だとすると6%の場合は180万円になりますので、月々の賃料は15万円となります。

松沢 そのため、売却金額を高くするためには賃料も高く設定しなければなりません。そして、実際に賃料を強気で高めに設定してしまうと、後で払えなくなったとき、最終的に退去しなければならない可能性がありますので注意が必要です。

――買い戻しをしたい場合には、何か気をつけることはあるのでしょうか?

松沢 買い戻しを望む場合、契約上ではあくまで優先交渉権なので、必ず買い戻さなければいけないというものではありません。ある一定の期間が経てば一番最初にお声をかけますので、契約時に設定した金額で買い戻すかどうか、その時に決めてくださいというものになります。
ですから、必ず買い戻すという強い意志をもった方は、買い戻すときの金額を考えながら売却額や賃料を考えるでしょうし、買い戻す意思のない方はなるべく高い売却額と長期間の賃貸が可能な賃料になるよう設定したいと考えるでしょう。

――なるほど!自分が買い戻すときのことを考えると、売却額が高すぎると厳しくなるわけですね。

富永 私が提案するときは、ABCの3つくらいのパターンを提案しています。例えば時価5000万円のマンションがあった場合、買い主が時価で購入するケースはほとんどないので、Aの売却額は8掛けの4000万円、Bは3000万円、Cは2500万円と設定します。そして、年間の賃料を単純に10%とすると、そこから逆算してAの賃料は年間で400万円、Bは300万円、Cは250万円で、それぞれ12で割った金額が月々の賃料になると説明します。
また、買い戻し金額については、それぞれ売却額に20%を上乗せした金額とし、時期が来たら買い戻すか否かの意思をはっきりしてもらいます。ですから、買い戻しを強く希望する方は、買い戻し額が最も少なくなるC案を選ぶことが多いでしょう。逆に買い戻しを考えていない方はA案を選ぶでしょう。このように、その方の希望にそってバランスをとりながら決めていきます。

松沢 そう考えるとリースバックに適した価格帯というのは、だいたい決まってきます。売却額が5000万円以上の物件となると、賃料もそれなりに高い金額になってしまいます。そんな高い賃料が払える方ならリースバックを考える必要はないでしょうから、価格帯は3000万~4000万円くらいが一般的だと思います。

リースバックの注意点

――リースバックを考えている方が、最も注意すべき点はどんなところでしょうか?

松沢 やはり、計画性ですね。何となくやるというのが一番よくないです。優先交渉権を付ける付けないの判断もそうですが、今後どうしていくのか、どうしていきたいのかを明確にすることが一番重要だと思います。支払い可能な賃料とのバランスにもよりますが、まとまったお金が一括で入ってくるわけですから、そのお金をどう使うのか、また何を残して何を捨てるのか、しっかり考えておかないと最初に思っていたこととは違った結果になるかもしれません。

富永 あとは契約する業者も信頼性を大事にすべきです。つい最近も、非常に安い売却額でリースバックを契約してしまったと、弊社へ相談が来ました。そこで、買い戻しの優先交渉権が付いているかどうか調べたのですが、付いておらず単純な売却の契約になっていることがわかりました。

――買い戻しのオプションがつけられることを知らずに契約したということですか?

富永 そういう説明を受けないまま契約した可能性はあると思います。

松沢 リースバックに限らないですが、不動産投資の契約に関しても利益の出る可能性が低い物件を紹介されたとトラブルになることがよくありますので、信頼できる業者かどうかよく見極めてから契約する必要があると思います。とくに、リースバックはまだ馴染みの薄い仕組みなので、きちんと説明を受け納得してから契約すべきです。

――先ほどのケースは、説明を受けなかったということですよね?

富永 当時のご本人の意思があやふやだった可能性もありますが、一般の方は説明を受けないとよくわからないですよね。

松沢 リースバックといっても、契約自体は売買契約と賃貸借契約しかない一般的な商取引です。そのため、買い戻しの優先交渉権を付けたいなら、その意思をしっかり盛り込まなければならず、優先交渉権を付けなかったからといって法律違反になるわけではありません。

――取り扱い業者がそもそも制度を知らないケースもあるのでしょうか?

松沢 残念ながらあり得ますよ。繰り返しになってしまいますが、契約自体は売買契約と賃貸借契約しかない一般的な商取引ですので、買い戻しの優先交渉権をつけるのはあくまでオプションです。そこまでは把握できていなかったり、気の回らない業者もいるでしょう。だからこそ、リースバックのようなまだあまり認知されていない契約は、十分な知識や経験があり顧客側のニーズを十分に理解して汲み取ってくれる業者の見極めが大事になります。

――なるほど。ほかに注意点はありますか?例えば、オーナーが変わって途中で賃料が変わるとか。

富永 基本的に賃貸借契約の内容や買い戻し特約などの条件は、次のオーナーに引き継がれることが前提になっています。しかし、今後はそういったトラブルが起こる可能性はあると思います。

松沢 リースバックに限らないですが、トラブルで最も多いのは賃料の未払いじゃないでしょうか。滞納すれば最悪の場合は立ち退きを迫られますので、最初の契約時に無理のない賃料を設定することが最も重要だと思います。

〈Vol.3へ続く〉 後編記事はこちら

後編記事


対談者プロフィール

富永順三(とみなが じゅんぞう)氏

株式会社ナレッジパートナー代表取締役。
任意売却119番 代表
大手企業、経営コンサルタント、阪神大震災復興支援NPO、経済振興財団、企業再生・М&A会社等を経て現職。
関西いのちの電話運営委員、経済産業省・各市・商工会議所委員多数。

松沢 淳(まつざわ あつし)氏

株式会社アジアゲートホールディングス 代表取締役会長 1989年、株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)入社。その後、トールエクスプレスジャパン株式会社取締役、株式会社廣済堂社外取締役などを経て、2020年7月に株式会社アジアゲートホールディングス代表取締役社長に就任、2020年12月会長へ就任。

関連記事

木村敬

株式会社ウイット 代表取締役
各雑誌、書籍、webコンテンツなどにおいて、エンタメ情報、金融関連情報などを取材・執筆。空き家問題ほか、不動産関連のお役立ち情報をお届けします。

関連コラム