賃借権と地上権はともに土地を借りて建物を建てる権利のことです。
この2つの権利は、借地権と呼ばれる権利ですが少なからず違いがあります。こちらの記事では、賃借権と地上権の違いやメリット・デメリットについて解説していきます。
借地権は、地主の方から土地を借り、それを利用することが出来る権利です。あくまで「借りている」土地なので、借り主側は土地の所有権を持ちません。
借地権には、賃借権と地上権の2つの権利がありますが、両方とも、建物の所有を目的としている権利となっています。
この借地権は、借り主側を保護する側面が強く、地主は正当な事由がなければ途中で契約解除することも、契約更新を拒否することもできません。
存続期間は、期間の定めがない場合は当初30年となっています。更新については、3パターンあります。
借り主及び地主の双方の合意によって契約期間を更新する「合意更新」では、一回目の更新では20年以上、二回目以降の更新では10年以上となります。合意更新において、契約内容を変更することは認められているものの、借り主側にとって不利になるような内容は無効とされます。
借地借家法の定めによって自動的に契約が更新される「法定更新」についても、一回目の更新では20年以上、二回目以降の更新では10年以上となっています。この場合も、地主は借り主側に不利になるような契約に変更することはできません。
借り主側が地主に契約更新を請求する「請求更新」では、建物(家)がある場合に限られます。この場合の一回目の更新は20年、二回目以降の更新は10年が存続期間となります。
地主と「賃貸借契約」を結ぶことにより、「土地を借りることが出来る権利」を指します。
賃貸借契約を結ぶので、土地を利用する代わりに、地主に賃料を支払う義務があります。
賃借権は「債権」なので、登記手続きの必要はありません。その代わり、賃借人(ここでは地主)の許可がなければ、建物を自由に売却することは出来ないことになっています。
日本においては、この「賃借権」を利用した借地物件となっているのが現状です。
地上権は賃借権と同様に、建物等の所有を目的とした権利です。しかし、権利を持つ力が非常に強力となります。
地上権は「物権」に分類され、賃借権の賃借人(地主)の許可が必要だった賃借権と異なり、許可を得なくとも、自由に建物等を売却することが出来ます。抵当権の設定ができ登記手続きが必要となります。
貸借権と地上権のどちらを選択するかは、地主と借り主との合意のもと決定されます。ただ、地主にとってはあまり良い条件とはいえないため、建物の所有を目的としている場合については、地上権が設定されるケースはほとんど存在していません。
地上権は、どのような場合に設定されるのでしょうか。
例えば、Aさんが銀行からお金を融資してもらい、土地を購入しそこに建物(家)を建てたとします。
しかし、Aさんはローンの支払いが出来なくなってしまい、銀行は抵当権を設定していた建物(家)を競売にかけることになります。競売にかけられた建物(家)をBさんが購入しました。(土地は購入していません)
この状態で、土地の所有権はAさん、建物(家)の所有権はBさんにあります。このままだと、Bさんは土地の所有権を有していないので、そこに建物も利用できないことになってしまいます。
そこで、法律によって「地上権」が認められ、土地を利用できるようになるのです。
他の例としては、建物のさらに上に造られている高速道路や建物の地下を通っている地下鉄にも地上権が設定されているケースがあります。これによって、土地の所有権がなくとも高速道路や鉄道の改修工事が可能になるのです。
貸借権と地上権の具体的な違いはどのようになっているでしょうか。
以下の表でご確認ください。
賃借権 | 地上権 | |
---|---|---|
権利の種類 | 債権 | 物権 |
登記の必要性 | あり ※地主に登記義務あり | なし |
抵当権の設定 | 賃借権(土地)に設定できない ※建物には設定できる | できる ※地上権自体に設定できる |
地代 | かかる | かかる ※かからないケースもある |
借地借家法の適用 | 適用される | 適用される |
譲渡の際の承諾 | 地主の承諾が必要 | 地主の承諾は不要 |
表:著者作成
前述のように、日本においては、この「賃借権」を利用した借地物件となっているのが現状です。ここでは、「賃借権」を利用した借地物件における不動産投資のメリット・デメリットを解説します。
投資用の不動産を購入するに際して、購入金額のうち「土地の所有権」が大きな割合を占めます。
賃借権を利用した借地物件であれば、土地の所有権を購入することなく建物を購入できるため、所有権を有する物件と比較した際に6割~7割程度で購入することができます。
投資用不動産の表面利回りは、「家賃収入(年間)÷物件の取得価格×100」で算出されます。
賃借権を利用した借地物件は、購入価格が安価のため、計算式の分母の数字が小さくなり、高い利回りを狙いやすくなります。
どんな不動産でも所有権を持つ物件を保有している場合には、固定資産税や都市計画税などのランニングコストがかかります。
もちろん、固定資産税や都市計画税を支払わない代わりに、借地契約に基づき地代を支払うケースはあります。こちらは、必要経費として損金への算入が可能になっています。
前述のように、賃借権を利用した借地物件は売却する際に地主の承諾が必要となります。
また、法律的な決まりはないものの、売却する際には「許可料」として譲渡価格の10%程度を地主に納めるケースもあります。契約の段階できちんと確認しておくようにしましょう。
金融機関が不動産に対して融資審査をするにあたっては、建物よりも「土地が持つ価値」を重要視します。
土地の所有権がないことで、担保価値が低くなり金融機関からの融資は受けづらくなりますので、一般的な不動産投資と比べて、自己資金は大きな金額を準備する必要があるといえます。
不動産の売買は、土地の所有権が異動するケースが一般的です。賃借権を利用した借地物件は、土地の所有権まで手に入らないので、ニーズの部分で不安があるといえます。
また、建物自体も老朽化してくるため、思ったような金額で売却できないケースもあります。以上のことから、出口戦略の部分で不利になる可能性があるといえます。
建物の売買などある程度裁量がある地上権の方が良いといえます。
しかし、地上権のそのような物件に巡りあう確率はかなり低いといえます。市場に出回っている借地物件のほとんどが貸借権を利用したものとなっています。
前述のように一般的な不動産と比較して、金融機関からの融資を受けにくいのが難点であるといえます。
市場に流通している借地物件の数自体が少ないことや、一般的な不動産投資にはない「地主の方とのお付き合い」など、なかなか初心者の方には向かない部分があります。
自己資金があまり準備できない方や不動産投資初心者の方は、慎重に検討することが必要です。自己資金が多く準備出来る方や、不動産投資の中級者以上の方にとっては、物件選びを上手く出来れば、成功に近づく可能性が高まります。自身で選ぶのが不安な方は、借地物件を扱っている不動産会社へ相談してみるとよいでしょう。
いかがでしたでしょうか。
賃借権と地上権の違いについて解説してきました。ご理解いただけましたでしょうか。賃借権や地上権について困っている方や、借地権を活用した不動産投資に興味を持っている方は、専門家へ相談してみることをオススメします。