みんかぶ不動産

爆発で明るみになった“スプレー商法”、うまみは他にも

筆者: 西条阿南コラム
2019/02/26

昨年末に札幌で起きた賃貸仲介店舗の爆発事件から2カ月が経った。地元紙の報道によると吹き飛んだ建物は全て撤去され、現場は更地となっているという。この爆発の原因となったのは120本もの消臭スプレーだった。賃貸仲介店の店長が大量のスプレーを一度に噴射し、たまったガスに引火したと証言した。


これが報道されると、一般人からは「なぜ大量のスプレーが不動産店にあったのか」と疑問の声が沸き起こった。しかし、不動産ビジネスに関わる人達からは「業界の闇がこんな形で明らかになるとは…」といった声が上がっている。


「業界の闇」という消臭スプレーは、消臭・抗菌サービスとして賃貸住宅の新規入居者に1万~1万8000円で販売されていた。1本あたりの仕入れ値は1000円ほどなので、管理会社には暴利ともいえる利益が入る。このような入居者への商品・サービスの販売は付帯商品販売と呼ばれ、賃貸管理や仲介を行う不動産会社の貴重な収益源になっているという。




スプレー以外もたくさん、稼げる「付帯商品」 


ある賃貸住宅の管理会社の経営者は、付帯商品販売の実態についてこう証言する。

 

「付帯商品は消臭スプレー以外にも、ウォーターサーバーや引っ越し会社の紹介、鍵交換などが売りやすく利益の見込める商品です。また入居時に必ず入ってもらう家財保険でも30%~50%が販売手数料として管理会社に落ちます。複数の商品が売れれば、一人の入居者で5万円以上の売上げになることもありますよ」


この会社で取り扱う付帯商品は10種類以上になるという。利益の大きいものでは、引っ越し業者からもらう紹介料が2万~4万円になり、次にインターネット回線が約1万5000円という。中にはネット回線の取次会社に入居者の連絡先をFAXするだけで、紹介料がもらえる仕組みもある。もちろん入居者の同意を得て送るのだが、手間はその程度。楽して稼げる仲介ビジネスだ。


「今や、付帯商品なしでは経営は成り立たない」と言っても過言ではなく、賃貸不動産ビジネスと付帯商品は切っても切れない関係になっていると先の経営者は語る。


付帯商品の専用サイトやカタログ誌も登場


こうした付帯商品の拡大は凄まじく、不動産会社に向けた専用の販売サイトまである。サイトをのぞいてみると先述の商品の他に消化器や防災グッズ、鍵紛失時などの24時間かけつけサービスに加えて、中古車販売会社までが商品の広告を掲載している。


さらには『付帯商品MAGAZINE』と名付けられたカタログ風の雑誌まで発刊されているようだ。不動産会社が加盟する業界団体が旗振り役となり次々と新商品を開発し、広めているという。


■付帯商品が紹介されているウェブサイト


賃貸管理ビジネスに詳しい60代のコンサルタントは「付帯商品は30年以上前からある商習慣です。引っ越しと新聞購読の取次の2つから始まったと記憶しています。ただ、当時は新聞を読む人がまだ多くて、あくまで入居者のために紹介していて、ついでに業者から紹介料をもらっている感覚でした」と証言する。


賃貸仲介チェーン登場で活況に、成績優秀者には表彰も


ついでだった付帯商品のあり方が大きく変わったのいつだろうか。コンサルタントによると、仲介手数料半額をうたう賃貸仲介チェーンが登場してからだという。


「先見性のある経営者達は、価格競争が進めばいずれ仲介手数料がゼロになると危機感を持ったんです。そこで、仲介手数料とは別の稼ぎ口を模索し始めました。それが付帯商品の開発につながったんだと思います。そのこと自体は間違いだとは思いません。


しかし、今も仲介手数料はゼロになっていませんが、新しい付帯商品の開発は止まっていない。一部の企業では販売ノルマを掲げて、現場社員に付帯商品の販売を徹底させています。そこまですることはないと思うのですが」


業界団体では加盟する企業の付帯商品販売量を競って、成績優秀者の表彰まで行っていたという。


こうした風潮が進展し、実はスプレーを使った消臭・抗菌は一部の物件では入居時に必ず買わせる、義務となっていたという。40代の賃貸仲介会社の元社長は語る。


「仲介店舗に来たお客の中には、抗菌・消臭を希望されない方もいます。そこで管理会社に抗菌・消臭を希望しないむねを伝えるのですが、『抗菌・消臭は外せません』と言われるのです。では『義務なのですか?」と尋ねると『いえ、任意です』と答える。抱き合わせ販売に抵触しないように配慮しているのでしょうが、さらにお願いすると『任意ですが、外せません』としどろもどろになるのですが(笑)」


入居後のトラブル時に必要な家財保険や賃貸保証などとは違い、抗菌・消臭が入居時に必須とはいえない。むしろ、貸す側が負担すべきだという声も少なくないようだ。しかし、賃貸住宅ビジネスでは「外せない任意」商品として、一部でまかり通っているという。


元社長は続ける「私は抗菌・消臭作業の現場を一度も見たことがありません。スプレー缶の中身を噴霧していただけなら、手間賃としても高いと感じる人も多いと思います。札幌では、実際に施行していなかった噂もある。仲介会社は、これからますます抗菌・消臭はいらないと交渉させられることが増えるかもしれません」


断ったお客は入居審査落ち、不動産投資家の利益を阻害


元社長によると、さらに悪質なのは管理を委託している投資家の利益を阻害しているケースも疑われることだという。


「入居するお客の要望なので、抗菌・消臭なしと断った上で管理会社に申込用紙を送ることもありますが、その場合は必ず『入居審査に落ち』になります。入居審査はブラックボックスなのでなんともいえませんが、あまりに不自然ですよ」


50代の不動産投資家は所有する物件で付帯商品が販売されていることを知らなかったという。「札幌の報道を知って管理会社に確認しました。私の物件でも入居者にいろいろと販売しているようです。私は手数料がもらえるわけではないし、知らないところでやられるのはいい気分はしないですね」と話す。


賃貸不動産のオーナーからすれば、家賃を支払ってくれる入居者がくるかどうかが重要だ。オーナーの利益にならない付帯商品を購入するかどうかは関係ない。先述のように管理会社の意向で付帯商品を購入してくれない入居者が避けられているとしたら、管理料を支払っているオーナーからすれば、ふざけた話なのだ。


別の不動産投資家は「私には敷金・礼金ゼロや家賃の値下げなど、収入減になる提案ばかりしてくるのに、管理会社だけ他人の物件で金を稼いでいるのは納得できませんよ」と怒り心頭だ。


しかし、管理会社は先述のように仲介手数料収入が減り、インターネットのポータルサイトへの広告出稿など出費が増え、台所事情の悪化が止まらないため付帯商品販売は止められないという。


ある管理会社の経営幹部は「オーナーはサービスではなく、少しでも管理料の安いところに管理を委託します。人手不足で採用もままならない中で、収益源を付帯商品に求めるのは当たり前なんですよ」と語る。


爆発という思わぬ形で露呈した業界の闇、付帯商品販売。その弊害は、入居者はもちろん不動産投資家にも及んでいる。

西条阿南

新聞社を経て、フリーランスの記者として活動。経済誌や週刊誌などに幅広く記事を執筆している。