建物の賃貸借を巡っては、様々なトラブルが起きています。 賃借人とのトラブルに頭を悩ませているオーナー様も少なくないでしょう。 建物の賃貸借を巡る法律問題は、マチ弁(町の弁護士)であれば日常的に取り扱う問題です。 私自身、顧問先の中で不動産会社の割合が一番多いということもあり、法律相談から
に至るまで、これまで数多くの建物賃貸借の問題を解決してきました。
そこで今回は、建物賃貸借に関する基本的な法律の定めから、具体的な事案における対処法や解決策までをシリーズ化し、これまでの私の経験を踏まえ、できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。
賃貸経営していくうえで勉強になる内容となっていますので、たくさんのオーナー様にお読み頂けたら嬉しいです。 まず一回目は、「建物賃貸借における基本的な義務」について書いていきます。
まずは、建物賃貸借について知っておきましょう。
建物賃貸借は賃貸借の一類型です。賃貸借については、「民法」の601条から622条において規律されています。
(民法601条) 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
この条文からも分かるとおり、賃貸借の定義は、「賃貸人がある物を賃借人に使用収益させ、これに対して賃借人が使用収益の対価(賃料)を賃貸人に支払う契約」ということになります。
これを平たく言えば、「賃貸人が物を貸して利用させ、賃借人が賃料を支払う」という法律関係のことであり、レンタルDVD等も賃貸借の一種です。
ただし、DVD等とは異なり、建物はまさに人の生活や事業の基盤そのものであることから、その賃貸借関係を積極的に保護する観点が重要となってきます。
そこで、建物の賃貸借については、民法のほか、賃借人保護の観点から、「借地借家法」という特別法が用意されています。 なお、この法律は、建物の賃貸借のほか、借地権(=建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃貸借)についても定めています。
(借地借家法1条) この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃貸借の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
実務においては、民法は勿論ですが、借地借家法上の規定が問題となることが多く、この法律の条文は、建物賃貸借を扱う人間であれば、常に意識しておかなければなりません。
建物の賃貸借でトラブルになるのは、賃貸人(オーナー様)と賃借人(入居者様)が、それぞれの義務についてきちんと認識していないことが大きな理由として挙げられます。 ここで、建物の賃貸借の当事者それぞれが負う基本的な義務を説明します。
まずは、建物賃貸借の賃貸人が負う基本的な義務として、以下のようなものがあります。
では、それぞれについてみてみましょう。
賃貸借の定義は、
(民法601条) 「賃貸人」がある物を賃借人に使用収益させ、これに対して「賃借人」が使用収益の対価(賃料)を賃貸人に支払う契約
です。 つまり、これを建物賃貸借でいえば、賃貸人は、賃借人に建物を使用収益させる義務を負っていることになります。
実務上、使用収益させる義務違反が問題となる例としては、同じ建物の他の賃借人による騒音・悪臭問題が挙げられます。 騒音・悪臭が受忍限度を超えるものであった場合には、ちゃんと使用収益させることができなかったということで、賃貸人はこの義務に違反したということになります。
賃貸人は、上述の「賃借人に使用収益させる義務」を負っていることから、「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務」も負っています(民法606条1項)。
この賃貸人の修繕義務も、実務上よくトラブルとなる義務の1つです。 まず、どの範囲まで修繕義務を負うかですが、「通常の用法での使用収益が妨げられているとき」とされています。
そのため、例えば漏水、電気が使えないといった場合には修繕義務が肯定されますが、網戸が一部破れているだけでは修繕義務は否定されます。 また、修繕が不可能な場合には、修繕義務は生じません。
さらに、修繕に過大な費用が掛かる場合も、修繕が不可能な場合に該当し、修繕義務は生じません。 なお、この修繕義務は賃貸人にとって権利でもあるため、賃借人は、賃貸人による修繕の実施を受忍する義務を負っています(民法606条2項)。
続いて、建物賃貸借の賃借人が負う基本的な義務として、以下のようなものがあります。
賃貸借の定義において、「賃借人」は賃貸人に賃料を支払う義務を負っていることになります。
賃料を支払う義務に関し、この義務違反(賃料滞納)の案件は、実務上頻繁に発生しております。 私自身も、この義務に違反した賃借人に対して、建物の明渡しや未払賃料の支払いを求める、
を数多く扱ってきました。 それぞれの詳細内容については、本シリーズの中で書いていきます。
賃借人は、賃貸人の承諾がなければ、賃借権を譲渡したり、目的物を他人に転貸したりすることはできません(民法612条1項)。 基本的には、賃借人がこれに違反した場合、賃貸人は契約の解除ができます(同法2項)。
しかし、賃貸人と賃借人の信頼関係を破壊しない特別の事情がある場合には、判例により解除は認められないとされています。
逆に言うと、賃貸人の承諾があれば、転貸借は認められます。 例えば、サブリース会社(賃借人)が、建物所有者(賃貸人)から建物を一括して賃借し、エンドテナント(入居者)に転貸する、「サブリース契約」は、この転貸借の一種です。
賃借人は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従って使用収益をしなければなりません(民法616条、594条1項)。 つまり、賃貸契約書に書かれた禁止事項や使用用途などを遵守する義務を負います。
実務でよく問題となるものとしては、
などが挙げられます。
今回は、建物賃貸借に関して、賃貸人と賃借人それぞれが負う基本的な義務について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
賃貸借のトラブルの殆どは、賃貸人と賃借人のどちらかが本来守らないといけない義務に違反することから起きています。 オーナー様にとって、トラブルを回避するためには、ご自身の賃貸人としての義務をきちんと果たしたうえで、賃借人の義務についても把握しておくことが大切です。
ぜひ、今一度、ご自身の賃貸借契約書の内容をしっかりと理解しておきましょう。 次回から、建物賃貸借を巡る具体的な規律についてご説明していきます。
記事提供元:EstateLuv