みんかぶ不動産

嘘のつけない不動産営業マンってどんな人―漫画『正直不動産』原作者、夏原武さんに聞く

筆者: 真弓重孝コラム
2019/04/262019/06/05


売り上げNO.1を叩き出す不動産会社のエース営業マンでありながら、「口から出まかせばかりで顧客を騙して、欺いて、売って売って営業成績を上げる」と、新人の女性社員、月下咲良(23)から、ろくでもないイメージを持たれてしまった永瀬財地(35)は、ある日、突然祟りに遭い、嘘がつけない体になってしまう。これまでとは真逆の「正直営業」で、はたして永瀬はトップ成績を保つことができるのか!?


漫画雑誌「ビッグコミック」(小学館)に連載中の『正直不動産』(漫画・大谷アキラ、原案・夏原武、脚本・水野光博)が不動産業界の中で話題を呼んでいる。原案を担当する夏原武さんは、詐欺師を騙す詐欺師を描いた『クロサギ』などの作者で知られる。金と欲をめぐり、嘘と偽りが横行する世界を長らく描いてきた夏原さんは、なぜ今、不動産営業をテーマに選んだのか? 『正直不動産』が問いかけるものとはなにか? 夏原さんに聞いた。


――「正直不動産」というタイトルは、ブラックジョークのようです。


夏原武 そのタイトル名は、実態とは違う言葉の組み合わせにしたらパンチが利いて、読者の目にとまるんじゃないかと決めたものです。「民主警察」とか、最近の「自由民主党」も同じかもしれませんね(笑)。


 なぜ今、正直不動産なのかというと、庶民にとって不動産のほとんどは「負」動産、実勢価格とはかけ離れた価格で売買させられ、損を被むってしまう恐れが増えているからです。


地べた信仰が強い日本では、自分の土地を持ち、そこにマイホームを立てることは憧れであり、一種のステータスになっていました。マイホームにとどまらず、アパートやマンションの大家になるのも成功の証になりました。


不動産価格が右肩上がりの時代は、「負」動産になる心配はなかったですが、今は人口減で空き家が増えている時代です。注意しないと、大金をはたいて手に入れた不動産が、買った瞬間に負債になる恐れが高くなっています。それは不動産業界が正直でないからです。

 

「いいか悪いは別として、周りは嘘つきばっかりだな」

「この業界には“千三つ”って言葉がある。千の言葉の中に、真実はたった三つってことだ」

 

主人公の永瀬は不動産業界の実態をこんな風に表現しています。


 作家・漫画原作者。1959年生まれ、千葉県出身。詐欺や裏社会を取材するフリーのルポライターの経験を基に、2003年から連載を開始した詐欺師を騙す詐欺師をテーマにした漫画『クロサギ』(週刊ヤングサンデー・小学館)の原案を担当し、08年に小学館漫画賞一般向け部門を受賞。主な著書に『震災ビジネスの闇』(宝島SUGOI文庫)、『貧乏人を喰う奴らを暴く!』(宝島SUGOI文庫)、『悪用禁止! いますぐ使える大人の言い訳大全』(宝島社)などがある。(写真/花井智子)


―― そんな悪弊にどっぷり使って営業成績を上げていた永瀬が突然、正直営業マンに豹変します。

 

夏原 どんな業界にも、現状に危機感を覚え改革を訴えるような高い志を持つ人はいます。この連載で取材を進めて分かったのは、業界の抱える負の遺産を払拭したいと考えている会社や人が少なからずいることです。

 

一方で、簡単には進まない現実があります。思いと現実のギャップがもたらす葛藤を、永瀬のキャラクターに盛り込みました。

 

―― どういうことでしょうか?

 

夏原 漫画で永瀬は「こんなことを言ったら、お目玉をくらってしまう」と分かっていても、見えない力につき動かされて正直営業をします。自分の意思で正直に行動しているのではなく、祟(たたり)に遭ってしまい、嘘がうまくつけなくなってしまったのです。

 

なぜ、そんな設定にしたかというと、「俺は嘘をつきたくない」と内心で思っていても、実際には裏腹の行動をせざるを得ないのが現実だからです。「こんなことを正直に話したら、クビになる」と分かっていながら、自分を超越したパワーで正直営業をする永瀬の姿の方が自然でしょう。

 

ギミックに祟りを使ったのは、この連載の中で最も漫画漫画した部分です。不動産業界の闇を題材にしていますが、うんちく漫画を書いているわけではありません、あくまでもエンターテインメントなんです。しかし、読者からは「月曜日になると会社に行きたくなくなるのですが、『正直不動産』を読んで、頑張る気持ちになれました」という感想をいただくこともあります。

 (C)大谷アキラ・夏原武・水野光博 / 小学館「ビッグコミック」連載中(漫画転載部分・以下同)


―― 以前「倍返し」のドラマが話題を呼んだのと同じですね。永瀬は、実際にやりたくてもできないサラリーマンの気持ちを代弁してくれる存在であると。ところで作品で描いているような“非正直営業”が、不動産業界でいつまでも許されているのは、なぜでしょうか。

 

夏原 いくつもありますが、やはり業界と一般の生活者が持っている情報や知識の量が、あまりにかけ離れているからでしょう。

 

―― 情報の非対称性ですね。

 

夏原 不動産業界は業者限りの情報ばかりです。登録物件の情報を検索できるレインズ(REINS)はその典型で、使えるのは業者に限られています。株式と違って誰もが参加できる取引所がないので、不動産の場合は売買の当事者でさえ、取引したい相手がいくらで売りたいのか、買いたいのかを直に知る機会がありません。それらは業者が囲い込んでいるため、彼らの胸先三寸でいかようにもできてしまう余地があります。

 

こんな状態が長らく放置されている背景には、大きく3つの理由があります。1つ目は、不動産ビジネスは基本的にブローキング、つまり売買の仲介が主体だからです。彼らの収益源は手数料ですから、売り手と買い手の双方から手数料を徴収できれば、稼ぎは2倍になります。

 

―― いわゆる「両手」ですね。仲介手数料は400万円を超える場合は「(売買価格✕3%+6万円)+消費税」になり、両手ならばこの2倍の手数料が彼らの懐に入ります。売買価格が5000万円なら、消費税を除くと片手で156万円ですが、両手だと312万円になります。

 

夏原 その計算式や金額には「上限額が」という注釈が必要です。作品中でも紹介しましたが、売買価格の「3%」というのは上限の値で、売買価格の1%や2%にするような契約も結べます。

 

しかし、それを自分から進んで話す正直営業マンはほとんどいないでしょう。彼らの収入は歩合制でノルマも厳しいですから、営業成績を上げることに必死です。ノルマを達成すれば高収入を得られますが、未達ならそこその収入しかもらえず、しかも上司から徹底的に絞られる。ブラック体質は残っており、未だに受話器に手をテープで縛り付けて、営業電話をかけさせるところもありますから。

 

もちろん一部の極端な例ですが、総じてプレッシャーは高い現場。営業マンの意識は顧客よりも自分ファーストになります。仲介手数料の上限も、顧客から聞かれれば答えますが、自分から話すインセンティブはないのが現状です。

 

―― 嘘の横行が続く2つ目の背景はなんでしょうか。

 

夏原 監督官庁の努力不足が問題です。国土交通省に限らず地方自治体もしかりで、東京都なら宅地建物取引業者を管轄する都市整備局になります。彼らにはやる気も能力も不足しています。国交省についてはまだ建設省時代の方が良かったんではないかという印象です。あえて彼らを擁護するとすれば、人員不足で様々な問題に手が回らないことでしょう。

 

―― 建設省と運輸省などが合併した国交省と同様、厚生省と労働省が合併した厚生労働省も不祥事が続き、分割案も出ていますね。3つ目の背景は何でしょうか。

 

夏原 行政の問題と裏表の関係ともいえますが、不動産流通業界では業界団体が4つも乱立していることです。業界が一枚岩になることは困難で、むしろお互いの足の引っ張り合いに終始してしまう。これでは業界が一団となって改革に動き、そのために行政に働きかけるということも起こりません。

 

繰り返しになりますが、これまでの悪弊を断ち切らなくてはならないという心ある不動産会社は存在します。彼らのほとんどが仲介手数料の上限を撤廃する代わりに「両手」は禁止し、レインズは一般開放すべきだと主張しています。しかし、業界がまとまらなければ、それこそ正直者が馬鹿を見てしまい、これではいくら改革の芽が出ても、大きく育つことはできません。

 

他の業界なら大手が主導して業界をまとめることもできますが、不動産業界はそうなりません。まあ、大手と言っても「大きな不動産会社」というのがふさわしく、業界のリーダーとして行動することは期待できないんです。


 

―― 正直不動産は実際に住む家や土地に関わる話ですが、不動産投資の分野でも個人がカモにされたり、騙されたりする非正直営業の被害が頻発しています。

 

夏原 不動産投資で騙すパターンの多くは、実際に確認しに行くことが難しい物件を使うことです。少し前ならハワイやラスベガス、今ならカンボジアやミャンマーなどの物件に投資しないかと持ちかけるものです。実際に行けば、こんなところに人が住むはずがないという物件を、考えられない利回りが出るといって騙して金を取るのです。国内ならば、住んでいるところから遠方の物件が使われます。


ではどんな人が不動産詐欺に引っかかりやすいかというと、職業で多いのが医師です。彼らが標的にされるのは高収入であることもありますが、多忙で現地に足を運ぶことが難しいからです。それと、医者は頭がいい秀才が多いからです。

 

―― その逆の人が騙されやすいのではないのでしょうか。

 

夏原 私の考えでは頭がいいには、「頭が切れる」と「頭が強い」があります。頭が切れるというのは、学校の勉強ができる秀才タイプの人のこと。頭が強いというのは、学校の勉強は得意でないかもしれないが、生きていくための知恵や知識が豊富で、逆境を跳ね退けていくたくましさを持つタイプの人です。

 

頭の切れる人はプライドが高いことが多く、知らないことでも知ったかぶりをするタイプが多い。そういうタイプには、詐欺師はよく「ご存じのように」とか「よくお分かりのように」という言葉を使ってプライドをくすぐると同時に細かいことを質問してくるのを防御して、馬脚が露わにならないようにします。

 

一方、頭の強い人は、相手のおべっかやおだてなんかは軽く受け流して、分からないことは分からないと、聞いていきます。詐欺にまつわる取材をして分かったことが、純朴な人ほど詐欺に掛かりにくいということです。

 

―― こちらも、その逆の方が騙されやすいと思っていました。

 

夏原 純朴な人は、他人に対してだけではなく自分に対しても嘘をつけませんから、「分からないのに分かっている」と自分を騙すことができません。本当に納得するまで妥協しませんから、インチキなものをつかみにくいんです。

 

それならば地方の人は都会の人間より騙されにくいのかというと必ずしもそうならず、やはり欲の皮が突っ張っている人はだめです。



 

―― 最近明るみになったスマートデイズのシェアハウス投資「かぼちゃの馬車」事件やレオパレス21の施工不良問題では、個人の不動産投資家がやられてしまいました。

 

夏原 どちらのケースでも共通するのは、サブリース物件ということです。不動産投資を考えている人なら、それこそ「よくご存じ」と思いますが、販売会社が賃貸物件を借り上げて、オーナーに一定の家賃を保証する仕組みがサブリースです。

 

安定して毎月家賃が入るので、初心者でも手を出しやすい仕掛けがありますが、投資に100%の保証はありません。サブリースで当初、保証された家賃は未来永劫ではなく、空室期間が長期になったり、近隣家賃との見合いだったりで下げられてしまうのです。

 

―― 投資用物件で「負」動産をつかまないために、個人投資家はどんなことに気をつけなくてはならないでしょうか。

 

夏原 販売会社や仲介会社の話を鵜呑みにしないことです。先ほど触れたように、不動産でババをつかまされたり、詐欺に遭ったりするのは、物件を自分の目で確認しない人です。営業マンの話やパンフレットをちょっと読んだだけで、「あなたを信頼しますから」とはんこを押してしまうのです。

 

今回話題になった事件でも、実際に行ったら、「こんなところに本当に家を借りる人がいるのか」というような物件もあると報道されています。今はネットで買うのが当たり前の時代で、借りる部屋もネットの情報だけで決めてしまう人もいますが、不動産は大きなお金を出すんですから、やはり実物を確かめないと。

 

投資商品の営業トークでは、「控えめに見積もっても、これだけのリターンが期待できます」という言葉が使われますが、実際はその反対でそれが最高値みたいなものです。

 

オフィスが立派な会社でも、それだけでは信用してはいけません。詐欺では、「箱抜け」や「篭脱け」といって関係のない建物や部屋を使うことがあります。あの会社は、あの人は立派な建物や部屋にいるのだから安心だと感じてしまう人間の心理を利用しています。不動産投資を成功させる主役は、あくまでも物件力にあります。仲介や販売する会社や人間は脇役にすぎません。

 

―― 人間はアドレナリンが出て興奮状態になると冷静な判断ができなくなります。豪勢なオフィスを見ると、アドレナリンが出て冷静さを失ってしまうのかしれません。

 

夏原 詐欺は興奮させるビジネスなんです。詐欺には認定されていませんが、マルチ商法の会社がよくやるのが、高級ホテルなどで「○○祭」と銘打った集会を開く手法です。大勢のサクラを集めて会を盛況にすれば、参加者は気分が高揚しますよね。

 

高級不動産を販売するような場合では、クルーザーを借り切ってナイトクルーズで夜景を堪能させ、いつかは自分もこんなクルーザーを持てるかもしれないという気分にさせます。

 

不動産会社からアドレナリンを出させるような場所に招待されたら要注意です。

 

―― 不動産取引では、金融機関も密接に関わります。

 

夏原 『正直不動産』ではリバースモーゲージローンを題材にしました。私からすれば死ぬことを前提にしたローンなんてあり得ない。名前にもありますが、通常のローンは毎月借金が減っていくのに、リバースモーゲージは逆に毎月、借金が増えていきます。

 

そのことを認識して利用しなくてはなりません。

 

―― リバースモーゲージを扱っていても、積極的に行っていない銀行もありますが

 

夏原 東京スター銀行はテレビCMを流してアピールしています。

 

一方で、消極的に見える銀行があるというのは、銀行自らがやりたいというよりは、年金財政が厳しくなっていることもあり、お上の要請で始めさせられたという面もありますからね。年金受給額が減ったとしても、住宅ローンを払い終えていれば、自宅を担保にお金を受ければ、生活にゆとりが生まれるだろうというのが、お上の考えです。

 

ただ、繰り返しになりますが、そのお金は借金であって、その額は毎月増えていきます。

 


―― 先ほど触れられた「かぼちゃの馬車」事件では、スルガ銀行の関与が問題になりました。

 

夏原 私は事件が明るみになる前から、スマートデイズはいつか問題を起こすかもしれないと思っていました。なぜなら彼らがスルガ銀行と組んでいたからです。事件後に岡野光喜・会長(当時)が引責辞任した際にも報じられたように、同行は創業者の岡野一族支配で、ガバナンス面の不安があることを聞いていました。

 

過去に変額保険の販売も社会問題になりましたが、銀行が他業態と一体となって行うビジネスは問題が起こりやすい。なぜなら本業ではないからです。ゼロ金利で金融機関の収益力が悪化している現状が、彼らを本来とは異なる事業に駆り立てている面もあり、その点では金融庁の舵取りが重要になります。

 

―― スルガ銀行の一件で、金融庁は業務改善命令を同行に出しました。

 

夏原 今回の一件で、スルガ銀行は5人の経営陣が引責辞任し、金融庁から業務改善命令を受け、これで問題のケリをつけたかのようですが、私からすれば不十分です。ローン関連の書類改ざんは本部決裁なしで行われたとは考えにくい。つまり会社ぐるみで行ったのだから、辞任した経営陣だけでなく、現在、残っている幹部も関与していると考えるのが自然です。

 

金融庁はスルガ銀行を一時国有化するなどで解体し、徹底的に膿を出して再発を防ぐ制度や仕組みを整備すべきです。そうしないとスルガ商法を学んだ行員が再び別の場所で、同じようなことを繰り返してしまうことを防げません。

 

豊田商事の詐欺事件でも、その残党が、同じような詐欺を繰り返しています。不祥事を起こした残党が、再び表舞台に出るようなことは避けなくてはならないのです。

 


最新単行本『正直不動産』第5集が4月26日に発売中。

真弓重孝

ミンカブ・ジ・インフォノイド 編集部 統括編集プロデューサー。ビジネス誌の記者・副編集長、日本有数のビジネス・オンラインメディアの立ち上げ、マネー誌の副編集長などを経て2018年4月より現職。