不動産投資は超低金利が続く日本では、数少ない安定的な利回りが取れる資産として注目が集まっています。
しかし、不動産投資は難しそうだと感じている方も多いのではないでしょうか。不動産投資を難しく感じさせるものの一つは、法律が挙げられます。
不動産投資には様々な法律が複雑に絡み合っており、不動産投資をするうえで関連する法律の理解は不可欠と言えるでしょう。その中でも重要な法律の一つとなるのが「民法」です。
2020年には民法の改正が行われ、不動産投資にも影響があるようです。
こちらの記事では、2020年の民法改正の内容と具体的な対策について見ていきましょう。
民法は公権力を持たない人同士の契約や関係について規定した法律です。
そのため、民法に反したからと言って警察に逮捕されたり、国に罰金を払ったりというようなことはありません。民法は契約等について規定した法律ですので、違反した場合は相手方に金銭を支払うことで解決したり、契約自体が無効となったりします。
不動産投資では賃貸借契約書の作成では、民法に基づいて規定されています。
例えば、民法を理解せずに、貸主にあまりにも有利な契約を結んだ場合、契約自体が無効となる場合があります。
一方、貸主の得られる権利を知らなければ、借主に本来負担してもらうことができる費用を、貸主が負担してしまうことがあるかもしれません。
このように民法の不動産投資に関連する部分はしっかり理解しておかなければ、不動産投資において損をする可能性があります。
そのため、不動産投資家は民法を理解しておく必要があるのです。
それでは2020年の民法改正が、不動産投資にどのような影響をあたえるのか見ていきましょう。
今回の民法改正で大きく変わる点の一つ目は「保証」に関する規定です。
保証に関する規定は不動産投資家にとって不利な新ルールが設けられていますので必ず理解しておく必要があります。
まず、保証とは債務者が債務を履行しない場合に保証人が変わりに債務を履行する義務を負う制度です。不動産賃貸借契約においては家賃の滞納、物件の破損や汚損が発生した場合に保証人が変わりに債務を履行するような場合があります。
不動産賃貸借契約においては保証の額が高額になるケースも多く、トラブルに発展するケースも多くあります。
このトラブルの原因の一つとなっていたのが旧民法には保証の範囲が定められていなかったのが背景にあります。今回の民法改正で保証人が法人の場合を除いて、保証人が保証する上限額を定め、契約書に明記することが義務付けられました。
例えば保証の上限額を100万円と決めておけば、300万円の物件破損が発生し、借主が費用を支払えない場合でも保証人は100万円を支払えばいいということになります。
これにより、保証人は事前に定めた限度額の範囲で支払いをすることで、義務を果たすことができるため、無制限に責任を負わされることはなくなります。
今回の改正により、極度額を設定していなかったり、低い極度額を設定していたりする場合には、適切な負担を保証人がしてくれない可能性があります。
「保証に関する規定の改正」は不動産投資かにとって2020年の民法改正で必ずおさえておきたいポイントです。
不動産の賃貸借契約でトラブルが最も多いと言われているのが「原状回復」です。
原状回復とは借りたものは元どおりにして返すと言うもの。例えばマンションの一室を賃貸に出していたとします。退去時に壁に子供が書いた落書きが残っている場合など借主の過失による場合には、賃借人が壁を綺麗にして返すか、もしくは清掃代を支払う必要があります。
借主の過失によるとされるものは以下のようなものがあります。
ただし、建物は年数が経過すると様々な箇所に不具合が発生するのは当然のことで、経年よる建物の劣化に対する修理や清掃は借主の負担にはなりません。
原状回復で非常にトラブルが起こりやすいのは建物の損傷が借主の過失によるものなのか経年劣化によるものなのか判断が難しいからです。
また、原状回復については国土交通大臣のガイドラインがあったのみで、旧民法では明文化されていませんでした。
そのため、知識の少ない賃借人に対し明らかに経年劣化により発生した修理費用も退去時に請求する悪徳な不動産投資家も存在します。 そこで新民法621条では原状回復について以下の通り明文化されました。
[民法621条] 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 原状回復について新民法には建物の損傷が賃借人の責任でない場合は原状回復をする義務が無い。
と明記されています。
また、原状回復をする際に使われる敷金についても新民法では経年劣化を理由に修理や清掃が必要となった部分の費用に使用することはできないと明記されています。
今回の改正で影響が大きいのは「保証に関する規定の改正」です。
保証に関する極度額の設定義務は今までなかった新しいルールです。また、極度額を設定しなければ契約自体が無効になるという不動産投資家にとって厳しいものです。
適切な極度額を設定しなければ、本来支払ってもらうべき金額を保証人に支払ってもらえなくなる可能性があります。適切な金額を賃借人と合意のうえ、契約書に明文化しておく必要があります。
原状回復については今回の改正では元々のルールが大きく変わったわけではなく、ルールが明文化されたというものです。そのため、不動産投資に与える影響もそれほど大きなものではありません。
ただし、どのような改正が行われているかを理解して、契約書に織り込むなどの対策を打っておかなければ、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
今回の改正は賃借人に有利な改正であり、不動産投資を行う人にとっては対策が必要です。
どのような対策が必要か具体的に見ていきましょう。
上記にて説明した通り、今回の改正で保証の範囲が大きく変わります。
不動産投資家は契約書に保証人の極度額を明文化しておく必要があります。極度額を明文化しない契約は無効、または取り消し可能となる可能性があるため、極度額は必ず設定しておく必要があります。
不動産投資家としては、あらゆるリスクに備えるために極度額を高めに設定しておきたいと考えるでしょう。
一方の借主と保証人は当然、極度額はできるだけ低い金額に設定しておきたいと考えます。
そのため、保証の極度額が高すぎると契約がまとまらない可能性があり、低すぎると適切な金額を保証人から支払ってもらえない可能性があるということです。
適切な保証の極度額を設定する際に、参考となるのは賃貸借契約の期間です。
通常、住宅の賃貸借契約の期間は2年で設定されていることが多く、保証人も想定できる範囲であることから、保証の極度額も家賃の2年間分に設定しておけば裁判となった場合でも問題となることはないでしょう。
低めに設定する場合でも最低家賃の6ヵ月分は確保しておくことをおすすめします。
なお、最近では保証会社を利用するケースも増えており、保証額でトラブルになりたくないのであれば、保証会社の利用を必須にするなどの対策もありますので、ご自身のケースに合わせて設定してみてください。
原状回復についてはもともとトラブルの多い項目です。
今回の民法改正で経年劣化によるものの修理費用については借主が修理費用を出す必要が無いことが明文化されました。
不動産投資家としては借主の故意または過失を原因とする損傷まで、経年劣化だと言い張られないように注意する必要があります。
対策の一つとしては契約書に明文化し、きちんと説明し、綺麗に使ってもらうことです。
賃貸に出す前の状態をしっかりと把握していることを借主に伝えることで借主側も原状回復費用を少なくするために丁寧に扱ってくれる可能性が高くなるでしょう。
もう一つの方法はマンション管理会社等に依頼し、退去後にしっかりとした基準でチェックをすることです。
個人と個人の間で経年劣化によるものなのか、借主による故意・過失によるものなのかを話し合っても決着することは難しいでしょう。
マンション管理会社は退去後のチェックについてもプロとしてしっかりとした基準を設けていますので、借主に対して何故経年劣化ではなく、原状回復費用が借主に負担していただく必要があるのかを理路整然と説明できます。
トラブルを避けるためには第三者のしっかりとした基準でチェックをしたほうが双方納得できるでしょう。
2020年の民法改正と不動産投資に与える影響について解説しました。
2020年の民法改正は基本的に借主にとって有利な改正です。そのため、不動産投資を行う投資家は契約書に明文化するなど様々な対策を行う必要があります。
ただし不動産投資自体が不利になったわけではありません。しっかりとした対策を講じることで、民法改正後も変わらず不動産投資で収益を上げることが可能です。
法律については随時改正がありますので、不動産投資に関係がありそうな法律の改正がされた場合はチェックして、対策を行う必要があります。