不動産投資の出口戦略として、投資用不動産の収益性の高さは投資判断の重要な指標です。投資プランが曖昧だと、安定した収益があげられなかったり、空室が続いてキャッシュフローが赤字になったりするリスクがあります。しかし、不動産投資のNPVを具体的にどう判断すれば良いのか難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。本記事は、不動産の投資判断指標となる「NPV」を解説します。
NPVとは、日本語でいう「正味現在価値」。「Net Present Value」の頭文字をとった略称です。
NPVはPVの値を使って算出するため、NPVの役割を理解するにはまずPV(Present Value)についてみていく必要があります。PVとは現在価値で、これから先に得るお金の現時点における価値です。つまり、投資予定の不動産を現在の価値に換算するといくらかの意味になります。
PVの値は、次の計算式により算出可能です。
PVの算出例として、金融機関から投資資金の融資を受ける場合を想定してみましょう。金融機関の金利が5%の場合、次の年(1年後)に得られる150万円のPVは、上の計算式に当てはめると次の通りです。
つまり現在価値が約143万円のお金を年利5%で金融機関に預けた場合、1年で150万円になるため、1年後の150万円は今の143万円とお金の価値が同じという解釈が可能です。
今回の例ではPVの算出に「金利」を用いましたが、一般的にPVの算出は「割引率」から求めます。割引率とは、「DCF法においてある将来時点の収益を現在時点の価値に返金する際に使用される率」です。割引率が小さいほど、逆にPVは高くなります。
理論的にNPVが0(ゼロ)の場合、その物件に投資しても利益は出ません。一方、NPVが0(ゼロ)より大きいほど投資では有利といわれます。
NPVの算出方法は次の通りです。
「NPV=PV−初期投資額」
不動産投資にかかる初期費用は、次のような項目です。
対象物件に投資した際に将来的に黒字になるかは初期費用を差し引いて判断します。
NPVはDCF法の基礎になっている重要な考え方です。DCF法とは何なのか、計算方法を交えて解説します。
物件の収益価格を算出する方法は直接還元法とDCF (Discounted Cash Flow)法の2通りあります。DCF法とは、連続する複数の期間に発生する純収益と、復帰価格を発生時期に応じて現在価格に割引き、それぞれを合計する方法です。
DCF法の計算方法は次の通りです。
P:求める不動産収益価格
ak:毎年の純収益
Y:割引率
n:保有期間(売却を想定しない場合には投資期間)
PR:復帰価格
復帰価格とは、保有期間の満了時点での対象不動産の価格です。基本的には、次の計算式で算出されます。
an+1:n+1期の純収益
Rn:保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)
DCF法によって不動産価格を算出する際の「現在の価値に割引き」は、「年数が経つごとに、1年間の純収益の現在価値は減る」という原則で行われます。つまり、同じ200万円でも、将来得られる200万円よりも現在得られる200万円の方が高い価値と判断されるのです。
よってDCF法で不動産収益価格を計算するには、毎年得られる純収益を割引率で除し、将来の純収益を現在価値に返金します。そして、「毎年の純収益を割引率で割った金額」を投資運用期間分だけ集めて、不動産の収益価格とします。
しかし、この考え方だけでは、借入金や不動産売却や譲渡費用などの要素が加味されていないため、現実的な投資実態を反映しきれていません。ゆえに、DCF法はその「毎年の純収益を割引率で除した合計収益」に「復帰価値」を加算します。復帰価値は不動産の実質的な現在価値であり、売却価格を現在価値に割り戻した価値と同等です。ただし、借入金や不動産売却や譲渡の費用を不動産の完全所有権価値からの差し引きが必要になります。
NPVにおける不動産投資の代表的な3つのメリットについて解説します。
NPVは毎年の純利益を見積もって算出されるため、少額の効率的な投資案件が過大評価されるリスクが低い傾向にあります。ゆえに、投資の価値に比重を置いた投資判断が可能です。
純利益による現在のお金の価値を基準とした投資判断のため、NPVではない手法よりも正確に投資判断ができます。
投資運用でのプラス面やマイナス要素を割引率に組み込めるため、投資状況に反映した割引率の決定が可能です。割引率はNPVの最重要ポイントであるため、数値を調整しながら具体的な判断指標として投資運用ができます。
NPVの指標を用いた不動産投資の投資判断のデメリットを、主に3つご紹介します。
NPVは中長期的な投資ではなく短期的な投資で利益得る傾向にあるため、収益の最大化ばかりに目がいって短期的な視点に偏る可能性があります。一般的に不動産投資は中長期的な保有が目的です。しかし、NPVにおける指標の性質上、このデメリットは避けられません。ゆえに、実際の投資でNPV以外の要素が収益に影響を与える可能性も考慮しながらの投資判断が重要です。
NPVに基づいた投資判断は、徐々に形骸化される傾向にあり、投資前のNPVの値が良くても、目標達成管理には不向きな可能性があります。したがって、継続的な投資運営には、NPV以外の数値とも併せた判断が必要です。
NPVの計算式は、キャッシュフローから投資額を差し引くシンプルな内容であるため、厳密な投資判断が出ない可能性があります。より現実に即した投資判断をするには、より実際の運用で用いる形に近い数値での算出が重要です。
この章では、NPVにおける不動産投資の注意点について解説します。
NPVの算出で用いる資本コストは、負債や純資産の割合によって変化します。資本コストの使用は、資本構成が常に一定であることが原則です。ゆえに、将来発生する可能性のある資本コストを完全に反映できない可能性があります。純資産の推移から資本コストを推測するのは、非常に困難です。したがって、「資本コストが常に一定だ」という制約に留意してください。
基本的に「NPVが0(ゼロ)もしくはー(マイナス)」の場合は、「対象不動産に投資をしても利益を生み出さない」という投資判断になります。しかし、変化の激しい市場では、現時点ではNPVがマイナスであっても、状況によっては将来性を見越した投資判断が必要な場合がある点への配慮が重要です。
今回は、不動産投資において投資判断の指標となるNPVについて、解説しました。要点は次の通りです。
NPVは投資判断において重要な指標ですが、将来的に発生する要因によっても影響を受けるため、投資判断における絶対的な数値ではありません。数字を過信せず、あくまで予想の範疇にある点に留意する必要があります。本記事でご紹介した内容をぜひお役立てください。