入居者の退去に伴い原状回復を行いますが、入居者負担となるものは敷金から精算されることが一般的です。
入居者が退去する際のよくあるトラブルとして、どちらが負担するのかといった敷金精算が挙げられます。
トラブルが多いことを受け、国土交通省でも原状回復に関するガイドラインが出されており、多くのケースではそちらで吸収できるような内容になっています。
しかし、稀にボロボロにされてしまった場合に、原状回復の費用が敷金だけでは賄いきれないケースも存在します。この場合、入居者にどの程度の費用を請求できるのでしょうか。
こちらの記事で解説していきますので、入居者とのトラブルで悩まれている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
賃貸物件において、退去者が出た際に、次の入居希望者を募集する前に「原状回復」を行います。
原状回復は、言葉の通り、借りる前の状態に戻す(オーナーからすれば貸す前の状態に戻してもらう)というものです。
どこも壊れていない、汚れていないからと言って何もしないわけではありません。
最低限「ハウスクリーニング」と呼ばれるものを入れることが一般的です。
水回りの汚れや、レンジフードの油汚れ、フローリング磨き、エアコン清掃など素人の方では綺麗にすることが難しい部分を掃除してくれるサービスのことです。
相場は、ワンルームタイプで2万円前後、1Kタイプで3万円前後が相場となっており床面積によって変動します。
この金額が敷金から精算されるといった流れです。
敷金1ヶ月分や2ヶ月分を納めている方で、綺麗に使っていた方であれば敷金が足りなくなるということは、まずありません。
原状回復は、どうしても費用が発生するものであるが故に、設備等においてはオーナーと退去者のどちらが費用負担をするのかといったトラブルが多く存在していたのが事実です。
そのような背景もあり、国土交通省からは原状回復についての一定の基準を示したガイドラインが公表されています。
下記のリンクからご確認ください。
出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf)
国土交通省から出されているガイドラインにおいて、入居者には「原状回復義務」があるとされています。
しかし、普通の生活で生じてしまった汚れや傷などについては、オーナーの負担になるケースが一般的です。
入居者が負担すべきケースとしては、「故意」であることはもちろん、「過失」や「不注意」によって生じてしまった場合になります。
実際に、よくある事例を紹介していきます。
入居者が模様替えの際に、クローゼットの角を壁にぶつけてしまい、壁に穴が開いてしまったとします。
この場合は、「故意」ではありませんが、「過失」または「不注意」によって壁に穴が開いてしまったと認められて入居者の負担となる可能性が高いでしょう。
入居者が室内で喫煙をしており、部屋全体の壁がヤニなどで汚れてしまったとします。
この場合は、タバコを吸うという「故意」によって汚れてしまったため、入居者の負担となる可能性が高いでしょう。
フローリングにテレビ台がおいてあったが、テレビ台の脚のあった部分が凹んでしまったとします。
この場合は、普通に生活していた範疇と認められるケースが多く、入居者の負担となる可能性が高いでしょう。
原状回復費用というものは、オーナーと入居者の必ずどちらかが、全て負担するというものではありません。
設備の耐用年数と、実際に使用した年数によって負担の割合が決まっていきます。
下記のグラフをご覧ください。
出典:国土交通省
上記のグラフは、耐用年数6年の設備における負担の割合を示したものです。
なお、主な設備の耐用年数は以下の通りです。
例として、ご自身の投資用不動産で耐用年数が15年の洗面台を使用しているとしましょう。
入居者が入ると同時に、洗面台を入れ替えて賃貸借契約を締結したケースでの費用負担についてみていきます。
このように、年月の経過とともに、オーナーの負担の割合が上昇していき、入居者の負担の割合が減少していく形となっています。
洗面台のケース(耐用年数15年)では、15年間住み続けた場合に入居者の負担の割合は0になり、全額オーナー負担になるということになります。
第2章では、一般的な負担の割合について解説してきました。
第3章では、あまりにボロボロにされてしまい、敷金精算だけではどうにもならないケースでどのように対応するべきなのかを解説していきます。
例えば、入居者がオーナーに黙って、内緒でペット(猫)を飼っていたとしましょう。
耐用年数が6年の壁紙は、6年以上入居してもらっていれば前述の通り交換必要はオーナーの負担となります。
しかし、猫を飼っていたことによって、爪の後で壁がボロボロ、フローリングも傷だらけで全部張替えなくてはならなくなり、さらに動物の臭いが部屋中に充満していて、臭いをなくすための消毒費用もかかることになってしまうとなると、敷金だけでは到底賄いきれなくなってしまいます。
このようなケースにおいて、入居者に原状回復費用を請求できるものなのでしょうか。
次の章以降で、見ていきます。
トラブルを避けるという意味において、賃貸借契約書に特約事項として明記しておくことは有効です。
第3章の事例でいくならば、「ペット飼育における汚損や破損などの原状回復費用、消毒(消臭)費用は賃借人の負担とする」旨の記載があれば、費用請求をすることができます。
タバコが原因による壁紙の交換費用や消臭費用をオーナーが負担したくない場合には、「業者によるルームクリーニングで落とせないタバコが原因の臭いや汚れによる壁紙の交換費用は、賃借人の負担とする」といった形で記載しておくことで、オーナー負担金額は軽減されます。
トラブルを未然に防ぐという意味においては、入居審査を厳しくすることも重要です。
入居審査は何のために行うのでしょうか。
「家賃滞納のリスク」を軽減するために、「年収」や「職業」を中心として、「しっかり家賃を納めてくれるのか」といった側面の色合いが強くなっていますが、それが真の目的ではありません。
オーナーにとって、家賃滞納以外にも防がなければならないことは他にも存在します。
例えば、ゴミ出しのルールが守られているかどうか、騒音などの問題を起こしていないかなど、オーナーではなく他の入居者に迷惑をかけていないかどうかも見ていかなければなりません。
マンションにおけるルールが守られていないと、他の入居者が退去してしまうなどの問題も懸念されます。
マンション全体における入居ルールを守らない方は、ペット不可なのに、ペットを飼育してしまうなど、賃貸ルールを守ってもらえない可能性が高いです。
入居希望者と直接会った際に、「人間性」も含めて確認するようにしましょう。
入居審査の真の目的は、「長期に渡ってくれる優良な入居者」を確保するために行うことにあるのです。
原状回復における敷金精算に関するトラブルや負担の割合について解説してきました。ご理解いただけたでしょうか。
また、敷金から原状回復費用が賄いきれないことを防ぐために、オーナーが出来る対策も紹介してきました。
こちらの記事で解説してきた賃貸借契約書における特約や入居審査の厳格化などを検討していただけると幸いです。
万が一、対応に困った際には、弁護士などの法律の専門家にも相談してみていただくことをおすすめします。