みんかぶ不動産

「税金貧乏」にならないためのCF分析術-その1

筆者: 千住さとし
2019/03/08
コラム

スルガ銀行やTATERUの不祥事で明るみになったいわゆる「アパートローン」の改ざん問題。借り手や物件の実態を偽って実行した融資によって、今後アパート・マンション経営で首が回らなくなる人が増える危険性が増している。


統計には、ローンを借りて賃貸用の新築物件の建築が増えている様子がうかがえる。日本銀行によれば、2017年9月末時点のアパートローンの貸出残高(個人向け貸家業)は22.7兆円とデータが存在する09年以降最高を記録し、過去5年間で残高は約1割増えている。


また国土交通省によれば、新築の賃貸住宅の着工件数は大規模金融緩和実施前の12年には32万7000戸だったが、17年は41万6000万戸と2年連続で40万戸を上回っている。


相談者のほとんどが「どんぶり勘定」


ローンを使ってアパートを手に入れたはいいが、新築物件の供給増で賃借人がつかず、保有アパートの収支が悪化している大家さんも現れている。 


「賃貸アパートの収支改善でこれまで200人ほどの投資家から相談を受けてきたが、大半の人が業者任せの『どんぶり勘定』の状況。まずはキャッシュフロー分析(CF分析)を正確に行い、足元の収支を把握することから始めるべき」


こう指摘するのは02年から不動産投資を始め、現在は約100室の賃貸物件を保有し、資産総額は13億円、そして6000万円の年間家賃収入を得る川村龍平氏だ。同氏は05年まで金融機関に在籍していた脱サラオーナー。1987年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行した直後にバブルが崩壊し、当時銀行で、倒産した不動産経営者を何人も見てきた。


この経験から「逆境にも負けない手堅いCF分析」をあみ出し、2002~05年にかけて約100戸分の賃貸住宅を購入してきた。そんな同氏の元には、借入金返済に行き詰る不動産投資家からの相談が4年前から増え始めてきているという。



川村氏の言う「CF分析」とは、家賃収入からローンの返済や管理費や光熱費など諸経費、さらに税金など、「実際に出入りする」お金を計算して、最終的に手元に残る金額が、将来にわたってどのように推移するのかを把握することだ。川村氏も手堅いCF分析を駆使したことで、不動産投資で借り入れた3億円ほどの融資を、1年後に計画通り完済する予定だ。


川村氏はこうしたノウハウを不動産投資家に伝えるため、「東京築古組」という有志が集う勉強会を都内で主宰している。年20件以上の講演を行い、一度で200人ほど集客することもある。業界界隈では人気投資家として知られているのだ。


 すでに収益性の悪いアパートをつかまされたオーナーは、どういう道筋で財務を立て直せばいいのか。川村氏に、独自のCF分析方法と改善の手順を聞いた。


税金算出が明暗を分ける


CF分析の一例が下の図になる。築30年、全22室、福岡市郊外のRC造マンション1棟、土地と建物を合わせた取得金額9080万円の物件を、ほぼフルローンで購入したケース。満室想定の年間家賃収入871.2万円を物件金額9080万円で割った表面利回りは約9.6%と、福岡市平均の7.5%(2019年健美家レポート)を上回る数値だ。


 ■福岡市の物件の概要  

構造・タイプ・築年数RC造・1棟マンション・30年
1室の家賃3万3000円
戸数22戸
購入額9080万円(建物4278万9600円)
借入額8980万円
返済金利・期間2%・20年(元利均等返済)

 

■上記物件の実質家賃収入  

年間収入 848万1000円
(満室想定)
月間  72万6000円(3万3000円×22室)
年間 871万2000円(72万6000円×12カ月)

(空室による損失)
 損失=年間で7戸の入退去
=7戸が1カ月ずつ空室
=3.3万円×7戸=23.1万円

(実質の家賃収入)
 満室家賃(871万2000円)
-空室による損失(23.1万円)
 =848万1000円


しかし、賃貸中に入退去があり、実際のリターンは表面利回りより低くなるのが一般的。実際にこの物件でも足元の1年間で22室中7室の入退去があり、各室とも退去から入居までに概ね1カ月を要した。これらを反映した実際の年間家賃収入は満室想定より23万1000円低い848万1000円になっている。


全室の3割超に当たる空室が出ているのは、この物件が約25㎡のワンルームタイプで近所に4年制大学がある特性から、入居者の大半が一人暮らしの大学生になるため。2年ごとに賃貸契約更新があり更新料が発生することから、更新のタイミングで一定数の退去者が発生する。


賃貸住宅市場の分析会社、タスの資料によれば、福岡県の賃貸住宅の更新期限を2年とした場合の中途解約確率は46%と、およそ2人に1人の割合だ。先の川村氏も「築30年で22戸もあれば、毎年7~8戸の入退去は想定の範囲」と指摘する。


賃貸経営において最大のリスクは空室。オーナーは物件の想定空室率を鑑みて年間家賃収入の目安を立てる必要がある。さらに家賃収入=手元に残る金額とならない点の認識も欠かせない。


どんな事業の運営にも収入を稼ぐためには、各種の現金支出が伴う。不動産経営では、下にあるようにローンの返済額や保険料、賃貸管理会社に支払う管理費広告費などだ。家賃収入からこれらの現金支出を引いた額が先に紹介したCFだ。


重要なのは、このCFの計算の仕方だ。川村氏のところに相談にやってくる不動産投資家の多くは、不動産所得に課せられる所得税と住民税を反映しないで計算したものになっているという。


これを「税引き前CF」と呼ぶとする。福岡の物件では、29万3038円の黒字となっている。メガバンクが提供する金利0.001%の定期預金で30万円の利息収入を得るには300億円の預け入れを要することを考えると、この物件を買いと判断する投資家が出てきても不自然でない。


■上記物件の現金支出と税引き前CF 

年間支出818万7962円
借入金元金368万9098円
借入金利息176万2298円
管理費(家賃の5%)42万4050円
固定資産税46万4400円
修繕費・清掃費100万6496円
広告費67万2000円
保険料(家賃の2%)16万9620円
税引き前CF29万3038円


だが、本当の収支を把握するには、前述した「所得税・住民税」という支出を織り込む必要がある。「所得税と住民税はローン返済金・諸経費と並ぶ、マンション経営での3大支出の1つ」と川村氏が強調し、不動産投資のCFを大きく左右する支出だ。


個人に課せられる所得税・住民税は、収入から控除額を差し引いた課税所得に対し一定割合で課せられる直接税で、毎年3月に納付する。家賃収入も例外でない。収入から必要経費を引いた不動産所得に課税される。


課税所得が195万円以下なら税率は、所得税は5%、住民税は10%で合計15%。これに復興特別所得税が加わる。だが4000万円超になると55%+復興特別所得税になる。課税所得が100万円なら所得税・住民税は15万円(復興特別所得税を計算から除外)だが、同5000万円なら税額は2000万円を上回る。


所得税の場合、195万円以上の課税所得があると、税率に応じて税額から控除される「税額控除」があり、それを勘案すると2270万4000円(同)と、収入の半分近くが徴収されてしまうのである。


 仮に、先の「築30年・RC造1棟マンション」の収支例で所得税・住民税を差し引いた場合、手残りはどの程度変わるのだろうか。それを示したのが下の表だ。


■所得税・住民税の計算式 

税金と税率 
 所得税(課税所得×税率)-税額控除額
 復興特別所得税基準所得税額☓2.1%
 住民税課税所得☓10%
不動産収入の課税所得 賃貸収入-諸経費


今回のケース   

課税所得(a-b)209万9394円
a年間家賃収入848万1000円
b諸経費合計638万1606円
 減価償却費188万2742円
 借入金利息176万2298円
 管理費42万4050円
 修繕費100万6496円
 広告費67万2000円
 固定資産税46万4400円
 保険料16万9620円
税額(c+g+i)32万4740円
c所得税額(=d☓e-f)11万2439円
d課税所得209万9394円
e税率10%
f控除額9万7500円
g復興特別所得税額(=c☓h)2361円
h税率2.1%
i住民税額(=j☓k)20万9939円
j課税所得209万9394円
k税率10%

注:*課税所得195万~330万円未満の場合


不動産にまつわる課税所得の算出には、家賃収入から必要経費であるローンの返済利息や、建物の減価償却費、さらに管理費など諸経費を差し引く。この中で、減価償却費とは、建物の取得にかかった費用の一定額を差し引いて経費計上する費用のことで、建物の構造で決められた耐用年数と取得時の築年数、償却方法などで変わる点で注意が必要だ。


この物件での減価償却費は188万2742円になる。その計算は「建物価額」×「耐用年数に応じた償却率」になる。今ケースに当てはめると、建物価額は4278万9600円で、耐用年数に応じた償却率は4.4%になる。


■不動産投資に関わる減価償却費の内容と計算方法  

対象取得した建物・設備
内容掛かった経費を複数年に分けて計上
効果課税所得の減少=税額の削減
計算方法取得価格×耐用年数に応じた償却率


償却率を算出する耐用年数は、

(新築の法定耐用年数−経過年数)+(経過年数×20%)で計算する。

新築の法定耐用年数は建物の構造と目的で決まり、


今回の事例である住宅用の「RC造」では47年になる。

これを上の式に当てはめると、

(47-30)年+(30年×20%)

=23年(小数点以下は切り下げ)

こうして計算された耐用年数23年の償却率(定額法)は、4.4%で、

耐用年数と償却率の一覧は国税庁のウェブサイトに掲載されている。


■今回の建物のケース   

取得価格4278万9600円
耐用年数23年
算出式(建物の法定耐用年数-経過年数)+(経過年数☓20%)*
法定耐用年数47年(居住用RC造)
経過年数30年
上記式に代入 =(47-30)+(30☓20%) *
償却率4.4% **

注:* 少数点以下は切り捨て ** 国税庁資料


所得税・住民税・復興特別所得税を差し引く前の収支(税引き前CF)は29万3038円の黒字。そこから所得税・住民税・復興特別所得税を合わせた32万4740円を引くと、CFは3万1702円の赤字に転落してしまう。


■上記物件の税引き後CF 

税引前29万3038円
↓所得税・住民税32万4740円を納付すると…
税引き後CF▲3万1702円


また所得税・住民税は、サラリーマンだと給与所得と合わせて課税させる「総合課税」として扱われることも注意が必要。例えば、給与収入による課税所得が1000万円だとする。1000万円に不動産の課税所得209万9394円を足すと、全体の課税所得は1200万円を超え、所得税・復興特別所得税・住民税は360万円を超えることもある。


課税所得が増えれば税率も高くなり、投資家の負担はさらに重くなる。経費を積みまして節税する方法もあるが、川村氏によれば「効果は一時的なもの。長く運営するなら、慎重に見積もったCFが黒字であることに越したことはない」という。


こうして確定申告時に初めて赤字と気付く大家さんは、貯金を切り崩すなどして補てんすることになる。


不動産投資は経営、健全経営の基盤は黒字のCF

「少なくとも私の元に相談にきた200人前後の投資家は、大半が、所得税・住民税の算出ができていませんでした」(川村氏)


CF分析の前に、そもそもの「想定入居率が高すぎる」「家賃設定が甘い」といった物件もあるだろう。元々の収益性が低ければ、所得税・住民税そして当面は復興特別所得税を引いた「税引き後CF」が赤字に転落する可能性が高くなる。一方、適正家賃で満室が続いたとしても、多額の税金が掛かってしまうケースもあるため、油断は禁物だ。


アパート・マンション経営は景気に左右されにくいことから、一般的には「ミドルリスク・ミドルリターン」の投資と位置付けられる。そのリターンを最も簡易的に把握できるのが「想定家賃収入」だが、不動産投資を事業経営と考えると、事業の永続には実際のお金の出入りを示すCFを黒字に保つことが大前提にある。


不動産投資が他の投資と大きく異なる点は、「購入」「保有」「売却」の各局面で様々な税金が課せられること。納税額を前もって知ることは不動産投資を成功に導く欠かせない要素になる。保有中は固定資産税と所得税・住民税がCFに影響を与える税金だ。


投資物件を選ぶ際には、想定家賃収入に留まらず、納税額を含む各種経費を差し引いた税引き後CFで、持続可能な投資対象なのかの見極めが肝心になる。


次回は、税引き後CFが縮小してしまった賃貸マンションの財務立て直し策を伝える。

千住さとし

不動産ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。