不動産の売買契約時には、本来、買主および売主が対面で行うことが一般的となっています。
しかし、コロナ禍において人との接触を避けるという意味において、買主と売主がそれぞれ「別の場所」もしくは「別の日程」で行うケースが増えてきているのです。
媒介業者などが、買主と売主のそれぞれのもとへ足を運び、契約書の記入や押印をしてもらって結ぶ契約を「持ち回り契約」と呼んでいます。
持ち回り契約は、どのような手順で行われるのでしょうか。また、メリットやリスク、留意点はどのようなことが挙げられるのでしょうか。
こちらの記事で詳しく解説していきます。ぜひ最後までお付き合いください。
不動産の売買契約は、買主と売主の双方が対面で行うのが一般的です。
しかし、買主と売主がそれぞれ「別の場所」もしくは「別の日程」で行うケースも存在しています。
媒介業者などが、買主と売主のそれぞれのもとへ足を運び、契約書の記入や押印をしてもらうのです。
この契約を「持ち回り契約」と呼んでいます。
持ち回り契約というのは、従来、買主または売主のいずれか、または双方が遠くに住んでいるケースや、高齢や病気のために契約場所まで行くのが困難な際に行われていました。
移動に大きな労力がかかる場合に用いられてきた方法です。
しかし2020年以降、新型コロナウイルスが大流行しました。今なお、収束の目途が立っていない状況です。
そのような中、不動産売買契約にも「人との接触を極力避ける」という意味で、持ち回り契約が行われるケースが増えてきているのです。
続いて、どのようにして「持ち回り契約」が進んでいくのかを解説していきます。
仲介業者が買主および売主の元へと足を運ぶものとします。
まず、仲介業者が買主及び売主と事前に、相談・計画を立てます。
買主とは、「購入希望金額および目指す利回りはどの程度なのか」が中心になるでしょう。
売主とは、売却希望金額の他に、残債の有無や「いつまでに売却をしたいのか」、「いくら手元に残したいのか」を中心に話をします。
この段階では、出向くよりも電話等で済ませることが一般的となっています。
その後、媒介業者が買主及び売主の所へ出向き、準備した書面の内容の説明をします。
内容面に問題がなければ、サイン及び捺印をしてもらう形となります。
買主と売主のどちらが先でも後でも問題はありません。
媒介業者は、サイン及び捺印が終わった時点で買主から手付金を受け取ります。
この手付金を受け取った時点で「契約が完了」となります。
手付金は、買主が即日売主に振り込むケースや、一度媒介業者が受け取り、決済時などに仲介手数料と差し引いた金額を売主に振り込むケースなど様々です。
さて、持ち回り契約にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
持ち回り契約では、家の近く(または職場の近く)など、契約者自身の都合の良い場所に媒介業者が来てくれることになります。
本来であれば、1時間ほどかけて行かなければならない所が、10分や20分で済むケースもあります。
ましてや遠くに住んでいて、移動に数時間かかる方にとっては、非常に大きなメリットとなります。
移動時間の減少に伴う「時間的なコスト」及び、交通費が削減されることによる「金銭的なコスト」の両面で効果があります。
買主・売主のお互いが顔を合わせるとなると、それぞれの都合の良い日程・時間を調整する必要があります。
先方が「平日の日中限定」だとしましょう。
ご自身が、会社員で平日は基本的に仕事をしている場合、仕事を抜けていかなければならない可能性があります。
一方で、持ち回り契約であれば、ご自身の都合の良い日程・時間に媒介業者が来てくれることになります。
もちろん、仕事が終わった後でも、対応してもらえることでしょう。
このように、スケジュール調整の煩わしさが大きく軽減されることになります。
不動産売買において、売買契約を結んだ後に、どちらかが契約解除を申し出たとします。
この場合、一般的に契約解除を申し出た側が、手付金と同額を支払うことになります。
例えば、売主側が手付金100万円を受け取っているのにも関わらず、契約解除を申し出た場合には、100万円を返した上に、さらに100万円を支払うという形です。(手付倍返し)
買主側が契約解除を申し出た場合は、手付金は返ってきません(手付放棄)。
しかし、持ち回り契約では、次のようなケースが起こる可能性があります。
媒介業者が先に買主、その後売主の元へと行くものとしましょう。
買主は、売買契約書にサイン・捺印を完了後、すぐに売主に手付金を振り込みました。(または媒介業者へ渡しました。)
売主は、振込のケースでは手付金をすでに受け取りましたが、この時点では、まだ売買契約書へサイン・捺印はしていません。
ここで、売主の気が変わってしまい契約のキャンセルを申し出たとします。
売主は、売買契約書にサイン・捺印していないため、手付金を返すのみで、解約ができる形となるのです。
対面による契約であれば、まず起こらない問題ですが、持ち回り契約における「タイムラグ」が原因です。
このようなリスクがあることを認識しておきましょう。
売買契約後に買主が手付金を支払います。
ご自身が買主である場合には、渡した相手(売主または媒介業者)から「受領証」の発行をしてもらいましょう。
ご自身が売主の場合で、売買契約と同時に手付金を受け取らず、決済時にその他経費(仲介手数料など)と一緒に精算をする方法もあります。
数十万円~数百万円の金額が動いていますので、その場合も、媒介業者から「預かり証」を必ず発行してもらってください。
後になって、「受け取っていない」などと言われてしまっては、責任の所在がうやむやになってしまいますので注意しましょう。
特に、ご自身が売主である場合には、留意することが大切です。
間に入っている媒介業者は、取引を成立させることで、成功報酬として仲介手数料を得る形になります。
成立しなければ、1円足りとも得ることができません。そのため、契約を成立させることに躍起になっています。
本来、買主の方に丁寧に説明をしなければならない部分を、いい加減に行い(または行わずに)、契約を急いだ可能性もあります。
購入後に、「聞いていない」などとクレームをつけられたり、最悪の場合、損害賠償を求められたりとなってしまっては、とんでもないことになります。
媒介業者も、当然売上や利益、ひいては業者自身の生活のためにやっていることではあるものの、買主や売主の立場に立てない業者であってはいけません。
持ち回り契約を依頼する際には、信頼のおける業者へ依頼することが非常に大切です。
いかがでしたでしょうか。
持ち回り契約は現状、新型コロナウイルスの影響で多くのケースで使われている方法ですが、「コロナが終わってもコロナ前には戻らない」の言葉があるように、収束した後も多くの取引で利用される可能性を秘めています。
ぜひこの記事を参考に、持ち回り契約の手順や、メリット、留意点をしっかり理解しておきましょう。