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「税金貧乏」にならないためのCF分析術-その2

千住さとし
2019/03/192019/12/20

アパート・マンション経営は、適正賃料で満室でも黒字経営が成り立つとは限らないのは前回に伝えた通り。

年間の家賃収入から各種の支出を差し引いたキャッシュフロー(CF)では所得税・住民税の支出を見過ごしている不動産オーナーの例が多く、これらの税を支払うと最終的な収支が赤字になってしまう例があることを紹介した。

CFが赤字に転落したアパート・マンションは、どのような改善策を打てるのか。大きく分けると、「収入を増やす」「支出を減らす」の二通りになる。

最初の収入を増やすには、「空室を減らして家賃収入を増やす」「物件をグレードアップさせて家賃を上げる」などがある。だが、いずれの選択肢も原則、追加の資金投入が必要になる。

空室を減らすには、ポータルサイトや仲介会社に支払う入居募集の広告費が掛かる。グレードアップに必要なリフォーム・リノベーション費は、赤字経営の投資家には荷が重いだろう。そこで注目されるのが、「支出を減らす」方法だ。

手っ取り早くできるのは、自主管理への切り替え

その方法はいくつかある。例えば、退去後のクリーニング費や改修費、賃貸仲介会社に支払う広告費(集客費)や、ローンの金利の引き下げ交渉などがある。これらは、クリーニング業者や仲介会社、金融機関など他人との交渉が必要で、自己判断のみでは達成できない点で共通している。

では自分の決断だけで削減できる支出はあるのだろうか? 「支出を減らす最も手っ取り早い方法は、自主管理への切り替え」と指摘するのは、前回記事で紹介した不動産投資家・川村龍平氏。

川村氏は2002年から05年にかけて約100戸の賃貸住宅を購入し、資産総額は13億円、年間6000万円の家賃収入を得る脱サラオーナー。1987年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行した直後にバブルが崩壊し、当時銀行で、倒産した不動産経営者を何人も見てきた。この経験から、不動産投資で「逆境にも負けない手堅いCF分析」をあみ出した。自身の不動産投資では当初3億円ほどの借入金残高があり、これを1年後に計画通り完済する予定だ。

川村氏の唱える「自主管理」とは、大家さんが管理会社に頼らずに自ら建物を管理する運営手法のことだ。今まで管理会社に任せていたクレーム対応や家賃回収などの業務を全て自分で行うことになる。

サラリーマン投資家や遠隔に物件を抱える投資家にとっては、一見不可能な話に思えるだろうが、川村氏いわく「仕組みを作れば十分可能」という。詳細は後述するが、自主管理に切り替えてしまえば、大幅に支出を削減できる。 

なお不動産を運営する管理会社には、賃貸系と分譲系で棲み分けがされており、役割分担は下の図の通りになる。

管理会社の内容

賃貸住宅 ソフト面 家賃回収、入退去手続き、清掃・改修手配
ハード面 建物メンテナンス、設備の定期点検など
分譲マンション ソフト面 出納や積立金の会計事務、 総会・理事会の運営補助
ハード面 設備保守、建物メンテナンス、大規模修繕

今回の「管理会社」とは、賃貸住宅専門の管理会社だ。賃貸の管理会社は、建物購入後の入退去手続きや家賃回収、クレーム対応、清掃・リフォーム手配といったソフト面の管理業務、また建物メンテナンス、設備保守などのハード面の管理業務まで手掛ける。

一部では、分譲系のマンション管理会社が、例外的に賃貸管理を引き受けるケースも見受けられる。転勤などで数年間留守にする会社員の中には、賃貸して副収入を得たいと考える人がいる。転勤者が他人にマンションを貸す際に、これまで管理を任せていた分譲マンション管理会社に賃貸管理を引き受けてもらう。

削減できるのは管理費のみではない!

 さて、自主管理に切り替えるとCFはどの程度改善するのか。前回記事で紹介した、福岡市郊外の中古RC造マンション(築30年)の収支例で見比べたい。下の表は自主管理に切り替える前の年間収支だ。

物件の年間収支

実質年間収入 848万1000円
年間支出 851万2702円
借入金元金 368万9098円
借入金利息 176万2298円
管理費(家賃の5%) 42万4050円
固定資産税 46万4400円
修繕費・清掃費 100万6496円
広告費 67万2000円
保険料(家賃の2%) 16万9620円
所得税・住民税等* 32万4740円
税引き後CF ▲ 3万1702円
注:「*」は復興特別所得税を含む。「▲」はマイナス。

さらに下に、自主管理前と後の支出項目の金額と増減を示した。表の左側にある自主管理後の支出を見ると、で削減されたのは「管理費」と「修繕費」の2つになる。

最初の管理費は、賃貸管理会社に支払う管理代行手数料のことだ。その相場は「賃料収入の5~8%」が一般的で、同マンションの手数料は5%だ。年間の管理費は年間家賃収入848万1000円の5%に当たる42万4050円になる。この負担額は管理委託契約を解消すれば、ゼロにできる。

2つ目の修繕費は、建物の清掃費や原状回復費、給湯器などの設備交換費などを足し合わせたものだ。一見、管理費とは関係ない項目のように見えるが、事例の修繕費は100万6496円から75万4872円に減っている。

これは当初の修繕費には、修繕に際して管理会社に支払っていた手数料が含まれていたからだ。清掃や原状回復及び設備交換にまつわる工事は専門業者が行うが、管理会社を通じて手配していたため、その手数料が上乗せされていたのだ。

手数料の相場はケース・バイ・ケースだが、川村氏の経験によれば「25%前後が上乗せされる」と言う。管理委託契約の解消で、修繕費も大幅に節約できることが分かる。

管理費と修繕費の削減で、全体の支出は851万2702円から6.3%減の797万3582円となった。なお注意点として、経費が削減された分、課税所得が増えて、所得税・住民税が増額されている点だ。ただし、納税額が増えたものの、年間家賃収入に占める支出比率は、自主管理前の100.3%から94.0%に改善している。

CFは約51万円の黒字に転換した。これを蓄えていけば、資金余力が回復し、突発的な出費にも対応できるようになっていく。

自主管理の前と後での支出の違い


自主管理後 増減 自主管理前
家賃収入 848万1000円
848万1000円
年間支出 797万3852円 ← 6.3%減 851万2702円
借入返済金 545万1399円
545万1399円
管理費 0円 ← 100%減 42万4050円
修繕費 75万4872円 ← 25%減 100万6496円
広告費 67万2000円
67万2000円
保険料等 16万9620円
16万9620円
固定資産税 46万4400円


所得税・住民税等 46万1294円 ← 42%増 32万4740円
支出率 94.0%
100.3%
税引き後CF 50万7148円
▲ 3万1702円

自分のチームを編成すれば、慌ずに済む

問題は、本業に忙しい会社員が、どう自主管理していくかだ。管理委託契約を解除したら、これまで管理会社に任せていた家賃回収やクレーム対応、入退去手続きといった業務が自分の身に降りかかってくる。

特に勤務中にクレーム対応に追われれば、本業に支障をきたしかねないし、家賃回収や入退去手続きといった事務処理の時間も確保しなければならない。その辺を憂慮する投資家は多いはずだ。

会社員時代から自主管理を実践してきた川村氏によれば、「電話一本で都度動いてくれる専門チームを編成できれば十分可能」という。清掃会社、設備会社、リフォーム会社などから相見積もりをとり、あらかじめ選定したオリジナルチームを組んでおく。

各業者を自分で探す手間は掛かるにしても、相見積もりを取ることで、ぼったくりの業者をフィルターにかけることができ、適正価格の業者に巡り合いやすくなる。適正価格の見積もりには、管理会社の中間マージンは当然上乗せされていない。自主管理前の見積もりよりも、安いことに気が付くはずだ。

業者チームを編成後にクレームが発生した場合、対処の仕方は以下のような感じになる。平日の勤務中に携帯が鳴り、入居者から『天井から水が漏れている。すぐに対応してほしい』とクレームが入ったとする。

突然の緊急対応案件につい慌ててしまいそうになる。だが、あらかじめ選定した修理業者の連絡先を携帯に登録しておけば、その場で一本電話を入れるだけで急場をしのぐことが可能。

「○○号室で水漏れが発生しました。至急駆け付けてください」

そもそもクレームは一日に何本も入るものではない。1000戸以上も所有する“メガ大家”ならともかく、ほとんどのサラリーマン投資家の保有戸数は100戸未満だろう。事実、100戸ほどを自主管理する川村氏のもとには「クレームは月1件ほど」(川村氏)と案外少ない。こうして自分で手配できる体制を事前に整えておけば、勤務中のクレーム処理が可能になる。

また、クレーム対応以外の事務処理は、土日の休日に使って片付ければよい。家賃振込の依頼電話やメール、または入退去が発生すれば「退去立ち合い」「新規入居手続き」、空室が出れば、仲介店舗に足を運んで、募集広告を出してもらえるよう営業に出向く。

雑務だけで休日を全て費やしてしまいそうだが「CFを赤字から黒字に変えたいなら、相応の労力は費やすのは必須」(川村氏)と強調する。不動産投資の本質は不動産経営であり、どんな事業も労力を全く掛けずに収支を改善することはまずあり得ないことは、サラリーマンであれば自ずと認識できるはず、というのが川村氏の指摘だ。

「もし自主管理が不安な人は、例えば所有する50戸のうち、10~20戸だけ試してみるのもいいでしょう。無理のない範囲で少しずつ始めることが、うまくいくコツです」(川村氏)

借入金利の上昇リスクに備える

実は、川村氏の「逆境にも負けない手堅いCF分析」には、まだ続きがある。今後何かしらの理由で借入金利が上昇したときに備えて、負荷をかけたCFシミュレーションをしておこうということ。借入金利はたった2%上がるだけで、年間の返済額が膨れ上がるから注意したい。

「現時点の借入金利が2%上昇した状態を想定して、ストレステストを実施しておくべき。このテストに耐えられれば、ひとまず物件の財務は安定的と捉えていい」と川村氏は言う

先の事例で金利2%で借入期間20年、8980万円のローンで金利が4%に上昇したと仮定すると、初年度に返済する利子は約176万円が354万円に倍増する。自主管理前のCFは約3万円の赤字から83万4571円へと赤字幅が拡大した。

自主管理前の金利別CFの比較

ローン金利 4%の場合
2%の場合
実質年間収入 848万1000円
848万1000円
年間支出 931万5575円 ← 9.4%増 851万2702円
返済利息 353万7533円 ← 100.7%増 176万2298円
返済元金 299万2511円 ← 18.9%減 368万9098円
管理費(家賃の5%) 42万4050円
42万4050円
修繕費・清掃費 100万6496円
100万6496円
広告費 67万2000円
67万2000円
保険料(家賃の2%) 16万9620円
16万9620円
固定資産税 46万4400円

46万4400円
所得税・住民税等* 4万8965円 ← 84.9%減 32万4740円
税引き後CF ▲ 83万4575円 赤字拡大 ▲ 3万1702円
減価償却費 188万2742円
188万2742円
課税所得 32万4165円 ← 84.6%減 209万9394円
注:「*」は復興特別所得税を含む。

拡大した赤字額が支払い利息の増加分より少ないのは、返済元金が金利2%より4%の方が少なくなるのと、所得税・住民税等の納税額が減るからだ。納税額が減るのは、支払利息が膨らむことで課税所得が減るためだ。

では、金利4%のまま、自主管理で経費削減を試みた場合、CFは黒字に塗り替わるだろうか。自主管理前後で比較してみると、赤字幅は縮小するものの、CFは26万962円の赤字のままだった。

金利4%での自主管理前と後のCFの比較

ローン金利 変動
実質年間収入 848万1000円
848万1000円
年間支出 874万1962円 ← 6.2%減 931万5575円
返済利息 353万7533円
353万7533円
返済元金 299万2511円
299万2511円
管理費(家賃の5%) 0円 ← 100%減 42万4050円
修繕費・清掃費 75万4872円 ← 25%減 100万6496円
広告費 67万2000円
67万2000円
保険料(家賃の2%) 16万9620円
16万9620円
固定資産税 46万4400円

46万4400円
所得税・住民税等* 15万1026円
4万8965円
税引き後CF ▲ 26万962円 赤字縮小 ▲ 83万4575円
減価償却費 188万2742円
188万2742円
課税所得 99万9839円 ← 約3倍増 32万4165円
注:「*」は復興特別所得税を含む。

このシミュレーションが、川村氏の言う「ストレステスト」であり、リスク管理の一手法である。金利上昇時の赤字額を想定できれば、「経費率をもう一段落とす方法を考えねば」といったように、あらかじめ手を打つことが可能になるだろう。

投資では、様々なリスクを想定して準備することは重要。とはいうものの、日本の長期金利は、かれこれ20年近く底を這い、足元はマイナス0.005%にまで下がっている。

日銀の異次元金融緩和で円安が進行しても輸入価格が上昇しやすい環境になり、また戦後最長の景気拡大期の最中でも物価は停滞し、物価上昇が企業収益、そして所得を増やして、景気を刺激し、金利上昇というサイクルが到来する姿が見通せない。

川村氏は「どのような経路で金利上昇が起こるのか、確かなことは分からない。ただし、「私が第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行した1987年は長期金利が6%から7%、さらに8%近くまで上昇した。

その時に、融資した不動産事業者が立て続けに破産するさまを間近で見て、震え上がったのを今でも覚えている。20年近く金融機関に身を置いて学んだことは『歴史は繰り返す』ということだ」と言う。

金利の先行きを見通すのはプロでも難しい。だが自分の持つ物件の収支予想を立て改善するのは、自分の努力次第で対応できる余地が大きい。努力の一歩は、所得税・住民税を計算し、さらに支払い金利が上昇する場合のCFがどのように変動するのかを把握することだ。

千住さとし

不動産ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。

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